第28話 勇者と魔王と夜襲

 それから数時間程経った。部屋の中にはマオの小さないびきしか聞こえなかった。


 すっかり夜も更けた頃であった。扉がゆっくりと開く。


 誰かが部屋の中に入ってきた。そして、ゆっくりと俺の方に近づいてくる。


 そして、手にした煌めく何かを思いっきり振り上げ、俺に向かって振り下ろす……その直前のところで俺はベッドから飛び出した。


「うわっ!?」


 何者かの悲鳴が聞こえる。俺はその何者かを地面に押さえつける。


「な、なんで……」


 聞き覚えのある声。そして、窓から差し込む月明かりで何者かの顔が明らかになる。


 何者かは……宿屋の主人である老人だった。


「なんで? そりゃあ、俺が寝なかったからですよ」


「そ、そんな……眠り薬の量を間違ったのか?」


 老人は完全に動揺しているようだった。


 間違ってなどいない。俺にはスキル「状態異常無効」があるのだ。眠り薬などで眠るわけもない。


 ……もっとも、どこかの魔王は今も気持ちよさそうにいびきをかいているのだが。


「アナタに勝ち目はありません。これ以上攻撃をしないと約束してくれるのなら、解放します。そうでなければ……」


 俺は老人を押さえつけている手に力を込める。


「わ、わかりました……! もう何もしません!」


 老人はそう言って手にしていたナイフを離した。それと同時に俺も老人を開放したのだった。

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