第27話 勇者と魔王とまともな食事
「さぁさぁ! 貧相ですが……どうぞ」
宿屋に戻ると、老人が食事を用意してくれていた。
食事といっても……スープだけだったが。
「お、おぉ! 久しぶりにまともな食事じゃ!」
しかし、魔王軍の最高指導者は嬉しそうにそんなスープを見てすぐに食いついた。
俺はスープをジッと見つめる。
「……な、何か?」
老人が気まずそうに俺のことを見る。
「……いえ。何も」
俺もマオに続くようにしてスープを口にする。
「うむ! 人間にしては美味いものを食べさせるではないか!」
「はは……そう言ってくれると、ワシも作った甲斐があります」
……マオは普通に自分が魔王であるということを隠していることを忘れてしまっているようだが、老人も特に気にしていないようである。
「……ここに住んで何年くらいになるのですか?」
俺がそう聞くと、老人は苦笑いする。
「さぁ……覚えておりませんな。十年以上は経っているかと」
「十年……ずっと一人ですか?」
「えぇ……まぁ、流石に慣れましたな」
十年、この他に誰も住んでいない村に一人で……考えると少しゾッとしてしまった。
俺だったら、流石にどこか別の場所に移り住むだろう。仮に別に住む場所がなかったとしても……。
「まぁ……一人でいることも、長い時間が経てば、慣れるものじゃからな」
そう言ってマオは少し寂しそうな表情をする。何か共感するようなことがあるのだろうか?
「では……今日はごゆっくりお休みになって下さい」
老人は笑顔で部屋から出ていった。部屋から出ていく間際、老人はちらりと俺とマオを確認する。
「ふわぁ~……食べたら眠くなってきたのぉ……」
そう言ってマオはベッドに横になる。まったく……まるで子供のようである。
俺はベッドに腰掛けたままで空になったスープの容器を見る。
考えてみれば……誰かから食事を作ってもらったのもいつ以来だろう。
この世界に転生してきてから、ロクに誰かとコミュニケーションも取っていなかった気がするが……。
「……まぁ、それは転生する前もそうだったか」
俺はそう言いながらふと、マオのことを見る。すでにマオは寝息をたて、寝始めていたようだった。
なんだか、起きている俺の方がアホらしく思えてきたので、俺も横になったのだった。
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