第26話 勇者と魔王と絵画
宿屋の外に出てみると、寂しい荒れ果てた村の状況がわかる。
明らかにこの前立ち寄った無人の村とまるで変わらない。どう見ても人が住んでいるようには見えない。
「ふむ……本当に他の人間はどこかに行ってしまったようじゃの……」
老人の言葉を鵜呑みにしているマオだけが寂しげな表情でそう呟いている。
俺はふと、近くの一軒の家の中に入ることにした。
「お、おい! 勝手に人の家に入ってよいのか?」
「どうせ誰も住んでいないんです。怒る人もいませんよ」
俺の予想通り、家の中は無人だった。しかし、奇妙なことに家の中は綺麗に手入れが行き届いていた。
「ん? この絵に書かれているのは……あの老人か?」
と、マオが何かを見つけたようだった。俺もマオの方に近寄っていく。
マオが手にしていたのは小さな額縁に入った絵画だった。確かに絵には家族が描かれている。
男性と女性、そして、中央には小さな子供。どう見ても家族の絵だ。
その男性は、確かに宿屋の主人に似た人物として描かれている。
しかし、先程会ったときよりも大分若い頃のようで、恰幅も良いし、何より満面の笑みを浮かべている。
「あの老人の家族も、どこかに行ってしまったのか? 老人を一人だけ残すなんて酷い話じゃな」
呆れ顔でそう言うマオ。しかし、これまた奇妙なことに、その絵画以外、家の中には何もないようであった。
「……帰りましょう。ここにはもう何もありません」
絵画を元あった場所に戻し、俺とマオはそのまま無人の家を出たのであった。
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