第18話 勇者と魔王と角
それからほどなくして、村が見えてきた。
「お、おぉ……村だ! 休めるぞ!」
「ちょっと待ってください」
マオが嬉しそうにそう言って走り出そうとするのを、俺が静止する。
「な、なんじゃ…‥なぜ、止めるのじゃ」
「頭のそれ、何かで隠してください」
俺がそう言って角を指差すと、マオはムッとした顔をする。
「この角は魔族の誇りじゃぞ!? なぜ隠さなければならぬのじゃ?」
「……あのですね。今はまだ人間と魔族は戦争しているんですよ? アナタがこの村の人間に袋叩きにされて死にたいなら別にいいですけど」
俺がそう言うとマオの顔色が青くなる。すると、マオはなにか呪文を唱えた。その次の瞬間には透明になるようにして、頭の角が消えていった。
「魔法、使えるんですね」
「あ、当たり前じゃろ! 儂は魔王じゃぞ?」
「……だったら、この前、焚き火を起こすときに手伝ってほしかったんですけどね」
俺がそう言うと、マオは恥ずかしそうに黙ってしまった。
……正直、先程の盗賊と対峙した時の反応は、とても魔王とは思えなかった、とは言わないであげておいたので、これでも優しい方である。
「よし! これで問題ないじゃろ?」
「まぁ、大丈夫じゃないですか」
俺が適当にそう言うと、上機嫌でマオは村の方角へと歩いていく。対して俺はあまり気乗りしなかった。
「おい! ソーマ! どうしたんじゃ? もうすぐ村だというのに、どうしてそんなテンションが低いのじゃ?」
「いや、別にいつもこんな感じですよ。アナタのテンションが高いのが理解できません」
「当たり前じゃろ! 村に着けば食料も寝床も確保できるではないか! 何より儂は魔王じゃからな!」
……そもそも、今から行くのは人間の村であること、そして、この世界の多くの村が魔物の襲来によって厳しい状況に陥っていることをマオは知らないのだろうか。
「楽しみじゃな! ソーマ!」
しかし、あまりにも嬉しそうなマオの顔を見ると……逆にそんなことは言い出しづらいのであった。
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