第19話 勇者と魔王と廃墟

「な……なんじゃ、これは……」


 村に着いた途端、マオは絶句していた。


 村には人っ子一人いなかったのである。家屋もほとんどが廃墟で寂れている。


「ど、どうなっておるのじゃ……村とは人間が住んでおるのではないのか?」


 スキル「千里眼」では場所のおおまかな位置は把握できても、それがどのような状態かまではわからない。この村が無人になっているとは想わなかった。


「この感じだと魔物に襲われて村人全員が殺されたか、全員が逃げたかのどっちかでしょうね」


 割れている窓ガラスや、そこらへんに散らばっている陶器の破片を見るに、魔物に襲われた可能性の方が高そうである。


「そ、そんな……わ、儂はこんな小さな村を襲えなどという命令はしておらんぞ!」


「アナタがしていなくても、魔物は人間を憎み、襲う存在なのです。特に、動物に近い魔物は見境なく人間を襲いますからね」


 俺がそう言うとマオは黙ってしまった。現実であるとはいえ、流石にいきなり現実を突きつけてしまっただろうか。


「まぁ、無人になってからそこまで日は経っていないようです。あそこ、宿屋みたいですから行きましょうか」


「何? そんな……勝手に入るというのか? 元の持ち主の許可も取らずに?」


「元の持ち主も、ここのことはもうどうでもいいはずですよ」


 あまり納得できていなそうなマオだったが「宿屋=寝床」であることを思い出したのか、渋々俺の後をついてきたのであった。

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