第11話 勇者と魔王と魔界

 魔王の城を出ると、久しぶりの外だった。


 といっても、魔王の城があるのは魔の領域……すなわち魔界と呼ばれる地域である。


 ここから王国までは結構距離があるのだ。ここまで来た俺が言うのだから、そうなのだ。


「……それで、王国までどうやっていくのだ?」


 魔王が俺に訊ねてくる。


「どうやって、って……普通に行きますよ」


「いや、だから……移動手段のことを聞いておるのじゃ。お主はどうやってここまで来たのじゃ?」


「普通に歩きで来ましたよ」


「あ、歩き!? この魔王の城まで歩きで来たというのか?」


 魔王はなぜか酷く驚いている。俺は魔王がなぜ驚いているのか理解できなかった。


「えぇ。何か変ですか?」


「いや……普通の人間ならとても歩いてこられるような距離ではないと思うのだが……」


「そうなんですか? まぁ、俺、普通じゃないんで」


 わざとらしく得意げに振る舞ってみるが……魔王はあまり気にかけなかった。


「……確認するが、お主、転移魔法とかは使えんのか?」


「えぇ。というか、魔法は一つも使えません」


「一つも……? どうやってここまで我が同胞や部下を倒してきたのじゃ……?」


「そりゃあ、この剣と、身体能力とスキルですよ。魔法とか面倒くさそうだったし」


 というか、この世界に転生したときから、魔法の才能はまったく無いということは、王国で勇者として旅立つ前の審査でわかっていた。


 言ってしまえば、俺は完全に脳筋の勇者なのである。


「……わかった。お主の言う通り、歩いていくしかないようじゃな」


「アナタの方は、転移魔法は使えないんですか?」


 俺がそう言うと魔王はギクッとした顔をする。


「う、うるさい! さっさと行けば良いのだろう!」


 そう言って話を遮るように、魔王はなぜか歩いていってしまった。なんとなくだが、俺はその時、違和感を覚えたのであった。

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