第10話 勇者と魔王と可哀想

 こうして俺と魔王は魔王の城から出ていくことになった。


 薄暗く、動いている者が誰もいなくなった魔王の城を出ていくときに、魔王はこの上なく怯えた様子で周囲を見ている。


 それはそうだ。魔王に会うまでに俺が倒した魔族がモンスターがそこら中に倒れているのだ。


「こ、これは……全部、お主がやったのか?」


 魔王が信じられないという表情で俺にそう言ってくる。


「えぇ。そうです。全員、アナタの部下ですよね?」


「あ、あぁ……そうだ。皆……儂のために戦って……」


「そして、俺に倒された。なのに、アナタはこうして俺の下僕になってまで生き残っているわけですよね?」


 俺がそう言うと魔王は嫌そうな顔で俺を見る。コイツにはいくら嫌われても問題ない。どうせ、王国に着くまでの短い付き合いだし。


「……お主は、これを一人でやったのか?」


「えぇ。俺一人でやりました。俺のこと、恐ろしいと思いましたか?」


「……あぁ。お主はきっと相当強いのだろうな。きっと、儂よりも」


「そうですよ。アナタは俺のお情けで生きながらえているんですから」


「……だが、儂はお主のことをとても可愛そうに思える」


「……はぁ?」


 急に魔王が変なことを言い出してきた。なんだ、コイツ……俺が可愛そうだって? 可愛そうなのはどう考えたって、部下を全員殺されたのに生きながらえている魔王の方じゃないか。


「えっと……聞き間違いですかね? 俺のこと、可哀想って言いました?」


「あぁ、言った。聞き間違いではない」


「……あの、勘違いしないでほしいんですけど、俺がその気になればアナタを今ここで、周りで倒れている部下と同じ状態にすることもできるんですよ?」


 俺はあえて笑顔で魔王にそう言う。魔王は明らかに怯えてはいたが……それでも、キッと俺のことを睨んでいる。


「たった一人でこの魔王の城までやってきて……大勢の同胞を殺したお主のことを、哀れと思わずになんと思えばよいと言うのだ……!」


 顔は引きつっていたが魔王は笑いながらそう言った。大方、魔王の強がりだ。これ以上付き合っても意味がない。


「……別にアナタにどう思われようが、俺はどうでもいいですよ」


 そう言って俺は会話を打ち切って、骸だらけの魔王の城を進み始める。魔王も俺の少し後を黙って付いてくるのであった。

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