第8話 勇者と魔王と嗚咽
「……ひっく……ぐすっ……」
それから数時間程経った頃だろうか。俺は誰かの泣き声で目を覚ました。
泣き声のする方に顔だけ向ける。魔王がいつのまにか玉座に座っていた。
しかし、その座り方は威厳のかけらもなく、玉座にちょこんと体育座りしながら涙を流している。
「すまぬ……皆のもの……儂は……」
……大方、これから俺に命乞いをすることを考え、さすがに自分の部下たちに申し訳なくなったのだろう。
だったら、潔く俺に抹殺されればいいのに……まぁ、あのヘタレな感じだとそれも選択できないのだろうが。
それにしても……いつから泣いているのだろうか。あの様子だとさっき泣き始めたという感じではなく、俺が眠った直後からずっとああしているのだろうか。
……別に同情するわけではない。ただ、哀れだと思った。
考えてみればすでに魔王の配下は俺が全て処分してしまったのだ。この魔王の広大な魔王の城には魔王しかいない。
そして、そのにくき敵である勇者が今にも自分を抹殺しようとしている……考えてみれば哀れではある。
最も俺には関係ない。俺は命令だからやっているだけだ。
……でも、この後、どうなるのだろう。このまま魔王を王国に連れて行って……その後は?
王様が俺が元いた世界にまた転生させてくれる……なんて感じではなかったし、勇者として好待遇が用意されているのだろうか?
……まぁ、そんなことはどうでもいい。俺はこの世界では強いんだ。なんとでもなるだろう。
俺はそんなふうに考えながら今一度目を閉じた。無論、しばらくは魔王の泣き声で眠れなかったのであったが。
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