第7話 勇者と魔王と降伏
「そ、それは……しかし……」
と、俺の提案に対して、なぜか魔王は急に嫌そうな表情をする。
「嫌なんですか? じゃあ、死ぬしかありませんね」
「ま、待ってくれ! わ、儂が人間の王に謝るということは……魔族の全面降伏を意味するのじゃぞ!? そんなことをすればこの世界の魔族は……」
「えぇ。アナタが降伏したと知れば、魔族は絶望し、人間の支配下に置かれることになるでしょうね」
といっても、すでに俺がこれまでの旅で、魔王の支配勢力を尽く殲滅してきたから、すでに魔族の勢力はかなり衰えている。今更、魔王が降伏したところで、大勢に変りはないと思うが。
「だからなおさらじゃ……そんなこと、簡単に決められるわけが……」
「じゃあ、ここで潔く死にますか? そうすれば、魔王は最後まで戦い勇者に破れたとして、少なくとも、魔族が絶望することはないと思いますが」
魔王はかなり悩んでいるようだった。おそらく、自分の命が第一のなのは変わらないのだろう。だからといって、人間の王の目の前で謝るというのは流石に魔王としての尊厳が許さないというところか。
「……無理じゃ。そんなの今すぐには決められん」
魔王は困りきった表情で俺を見た。俺としては……正直、そんな迷いなどどうでもよくて、この場で魔王を切り捨ててしまえば終わりなのだ。
しかし……どうにも、俺はそれをするつもりがなかった。まぁ、魔王をここで切り捨ててしまえば、俺の勇者としての役割も終わってしまうわけで、それもつまらないような気がしたのだ。
「わかりました。じゃあ、一晩ゆっくり考えてください」
「え……ど、どういうことじゃ?」
「俺は疲れているんです。途中で寝込みを襲われそうになるしで、まともに眠れていないんですよ」
俺は玉座から立ち上がり、近くの床に横になる。
「これから俺は寝ます。別にいいですよ。寝込みを襲っても、できるものなら、ね」
この上なく馬鹿にした調子で魔王にそう言ってやった。しかし、すでに魔王は先程の俺が提示した選択を酷く悩んでいるようだった。
まぁ、どうせ、自分の命が一番なのだろうし、最終的には降伏を選択するだろう……そんなことを考えながら、俺は眠りについたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます