第2話 勇者と魔王と下僕

「俺を下僕にするんじゃなかったんですか?」


 そう言うと魔王は媚びるような笑顔で見る。


「いや……わ、儂も、相手が自分より強いか弱いかはわかるつもりじゃし……お主と戦ってもあまり良いことはなさそうだなぁ、と……」


「つまり、アナタは俺より弱いってことなんですか?」


 ビクッと、一瞬だけ魔王が反応して、しかし、すぐにニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて俺を見る。


「そうじゃな……認めるしかないじゃろう。お主は儂より強い! この儂が保証する!」


 保証する、と言われてもまだ戦ってもいないというのに、どうして俺の方が強いと思うのだろう。


 まぁ、俺としても今目の前にいる魔王と戦ったとしても負ける気はしないが。


「そうですか。だから、下僕になる、と」


「そ、そうじゃな……さぁ! 下僕になった以上はもう儂に攻撃することはできんぞ! 儂は降伏したんじゃからな! それでも儂を攻撃するような、卑劣な人間ではないじゃろう?」


 なぜか得意げになってそう言う魔王。


「そうですね。確かに、下僕になったのだとすれば、攻撃できませんね」


「そうじゃろう、そうじゃろう……まぁ、とにかく、儂を下僕にした以上、お主がこの世界の主じゃ。新しい魔王と言っても良いな!」


 新しい魔王? 意味がわからなかったが、なぜか魔王の中ではそうなっているらしい。


「いや、魔王とかは興味ないんですけど」


「……はぁ!? い、いやいや、こうして平和的に儂が降参したんじゃぞ? そうなれば、お主が新しい魔王にならずに誰がなるんじゃ?」


「いや、だから、別に魔王になるとかは全然興味ないんで。というか、アナタ、今俺の下僕になったんですよね?」


「え……そ、そうじゃな」


「じゃあ、主人として、アナタに命令してもいいですよね?」


「め、命令……ま、まぁ、仕方あるまい。良いじゃろう。で? どんなことをさせるつもりじゃ?」


 魔王はなぜか少し恥ずかしそうな表情をしていたが、俺は冷静に先を続ける。


「死んで下さい」


「……な、なんじゃと?」


「だから、死んで下さい。これは命令ですから」


 魔王は俺がそう言うと、しばらくの間黙ったままだった。それから、媚びるような目つきで俺のことを見る。


「……その命令以外ならなんでもお主の命令を聞くぞ? な? そんな酷い命令をいきなりしてくても良いではないか?」


 どうやら、なんとしても命だけは助けてほしいらしい。ほとほと、往生際が悪いとはこういうことを言うのだなと俺は理解するのだった。

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