身から出た白

神楽坂。とあるカフェにて

 久しぶりー!元気してた?


 付き合ってくれて、ありがとね。

 同窓会が始まるまで少し暇だったから、アンタと時間があってよかった。

 あと、愚痴も聴いて欲しくてさぁ。ごめんね。


 …あ、はい。注文は…えっと、アタシはホットコーヒーを。

 …え?金のリンゴケーキ?

 わぁ!美味しそう…アタシもそれをひとつ…いや、ホールサイズで頼んじゃいましょ。大丈夫、大丈夫。アタシの胃を舐めないで。


 ―まぁ、それにしても、久々ね。アンタとふたりでお茶するの!

 アタシが転職して以来じゃない?

 …ん?あぁ、今の仕事は在宅で出来るところだから、そういう意味では楽かもね。


 で!最近、旦那ちゃんとはどうなのさ?

 …おお…ほぉ…おぉ…ヒューヒュー♪

 それはそれは。幸せそうで何より!

 アタシの方は、もうてんでまるっきりダメよ!


 …そうそう。あの口先二股蛇野郎の後は何も無しっ!!アイツ、顔が良いだけで、マジホント糞だったわ。

 …何笑ってんのさ。…え?いや、マジでアイツの舌まで二つに割れてたから、蛇よ。浮気もされたけど、ピアス穴がヤバかったじゃん?アイツ、顔面だけじゃなくて、舌にも穴開けまくった末に割ってたの。ヤバいでしょ。


 ……だぁーっ!!!クソっ!!!今思い出すとどう考えても、外見の時点で地雷男なの確定だったのに。あーっ、もう何で惚れちゃったかなー!アタシ!

 まぁ、とにかく、今はマジのマジでスッポンポンなフリーのままですよ。誰か紹介してくんない?…なんてね。


 …で、さぁ。ここからが愚痴なんよー。ごめんね。

 アタシ、実家暮らしじゃんか?

 …お母さんとは仲良いんよ。休日は一緒に買い物行ったり、お菓子焼いたりするし。もうマイフレンド!って感じ。


 でも、親父がなぁ。…いや、糞親父がなぁ。

 うっっっぜぇーのよ!聴いてくれる?


 いやぁ、今まではよかったんよ?お互い仕事で日中ほとんど居ないから。家に着く時間も違うし。同じ家でも顔合わせることなかったし。

 でも、もう定年で退職しちゃったじゃん?

 で、一日中、家に居んのよ。何かぼけーっとしてんの!

 もう…邪魔で邪魔でしょうがない!!

 まず、家事の手伝いは何にも出来ないしの!あー…何にもは言い過ぎかな。でも、やることは遅いし、余計なことはするし。


 …え?例えば?…例えば、買い物。アイツ何時間もかけんのよ!牛乳とか冷凍食品とか傷んじゃうじゃん!卵も全部割れてたし!!なんで、いい歳こいて買い物もひとりで出来ないんだよ!!!

 それから、掃除機!畳の目にあわせてかけることも知らなかったし、物が置いてあってもどけないままかけるし。

 うぅ…もう、ね!こっちでやった方がいいわけ。


 でも、だからといって、追い出すと近所の人に変に思われるじゃん?

 いい歳したおっさん…いや、もうおじいさんか。まぁ、そんなヤツがさぁ、日中からぶらぶら住宅街を歩き回ってたら、絶対目立っちゃうもん。後でご近所さんに聴かれて、嫌な思いするのはアタシやお母さんなんだよ!

 …って、アンタに向かって声を荒げてもしょうがないな。ごめんね。


 まぁ、結局、一日中リビングでテレビ観ながらダラダラしてんの!邪魔だから、テレビ消したら消したで、今度はずぅーーっとスマホ見てるし!


 …ん?何か勉強系のYouTube見てんだって!勉強する意欲をちょっとは家事の手伝いにも回せってんだ!

 なんでお母さんやアタシの動きを見て真似しないの?!どうして頭を使って考えないの?!

 どうして、どう動くべきかってのを考えられないのかね。


 そんなこんなで、これまで一家の大黒柱だって大きな顔してたアイツも、今や無為徒食むいとしょくな毎日を送るただの穀潰しってわけ。

 そのくせ、アタシには『結婚しないのか』とか、『俺はお前の歳にはもう結婚して子どもがいた』とか、偉そうに言ってくんの!!!

 マジのマジでウザい。


 …うん、そう!ホントそれ。『能力にプライドが釣り合ってない』の。

 そりゃ、子どもの頃はさ…まぁ、ちょっとは尊敬してたよ。朝から晩まで働いて偉いなって。

 あと、自信満々に言うから。


 …そう!堂々と言われると、正しい意見言われてる気になっちゃって、言うこと聞いてたの!

 でもさ、成長するにつれて、歳を重ねるにつれて、だんだん分かってくるわけよ。父親のポンコツさが。


 いや、子ども二人アタシとアニキを養えるだけの給料を稼いでたのは、確かにスゴいよ。

 でも、それは日本の雇用システムのおかげじゃん?ある程度良い大学に入れたら、ある程度良い会社に入れて、その後は終身雇用制度で定年まで安心!っていう戦後の日本社会の恩恵じゃん?!あの人の実力じゃねぇの!

 しかも、今とアイツの頃とじゃ、社会も変わってきてんだよ!全然ちげぇ違うんだよ!そんなことも分からずに、偉そうに。アタシのことバカにしやがって。

 アイツの考えることなんて、とっくにこっちは考えてんだよっ!!!


 あ、ケーキ…。……ハイ、すみません…。

 ……ごめーん…また大きい声出しちゃった…。ハァー、ダメだなぁ…。


 …そうね、ケーキ食べよっか。

 あれ?これリンゴじゃなくて、オレンジケーキじゃない?

 …へ?「金のリンゴ」ってオレンジのことなの?…へぇー!

 あ、中にリンゴも入ってるじゃーん♪トロトロアツアツだ…―んん、美味しー!

 …ね?オレンジの皮の苦味がちょうどいいアクセントだよね♪

 あ、でもコレはコーヒーより紅茶が合うかも!アタシも紅茶にすればよかったかぁ。


 …で、何だっけ?…どこまで話したっけ?

 …そうそう。ポンコツクソ親父がムカつくって話だ。

 でも、まぁ、お母さん偉いなぁって思ったよ…。あんなの相手をずーっとしてたわけじゃん。その上、アタシら子ども二人も育ててさ。家事だけでも楽なことじゃないのに。


 そういえば、“店長”も今大変らしいよ。

 …いや、ここの店長じゃなくて、アタシらの同級生の“店長”。

 ほら、……そう!いつも同窓会の二次会するときのお店の…。……ふふふ、このお店の経営状態は知らねぇーわ。


 …あぁ、いや、なんかね、お母さんがちょっと骨折して、入院しちゃったんだって。ただ、少し…認知症っぽくなってたのが、入院してから、酷くなっちゃったらしくて。


 …そう。ホントにびっくり。ちょっと前まで、店長と一緒にお店に立ってたのに。

 店長、まだ小さい子どももいるじゃん?お店回しながら、家事や育児もして、お母さんのお見舞いにも行って…って、ホント大変だよね。


 …ん?店長、奥さんいないよ。浮気よ、浮気!

 ホント、良い男ほど浮気されるものなのよ。……ねぇ、突っ込んでよ!


 …え?アタシが店長と?ははは、それこそ無理よ。店長はヘテロ異性愛者だもん。アタシのことを恋愛対象として、考えたこともないでしょうよ。

 まぁ、もちろんアタシは大歓迎だけどね♪

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