実のない無花果の木に
黄かも死れない僕らの終わり
神無月。吊られた蛙はぶつぶつと
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あたりを漂う苦い香りが堪らなくなって、目をギュっとつぶった。木の匂い、この木の匂いだ。
真っ暗な闇の中でも、あのベタっとした白い樹液がすぐに思い浮かぶ匂い。触ればかぶれてしまいそうな白い汁。
熟れた実はふわっと柔らかくて、あんなに甘くて美味しいのだけど。
何となく、木の枝を見渡した。…もちろん、この木に実はついていない。
天狗の
…星は綺麗だとは思うけど、とうとう僕にはただの光の点にしか見えなかったな。名前も知らない星座の一部をぼんやり眺めて、ついついため息がこぼれ出た。
神様なんているわけない。
だって、いるなら…。いるなら、どうして僕ばかり…。
思い浮かぶのは明るい世界。
みんなはいつもニコニコ笑って、僕も負けじとへらへら
『笑う門には
僕もみんなにあわせて
……あぁ。ねぇ、神様。
もしいるのなら。もしいるのなら、少しだけ。少しだけでも僕にも運を。
ウンチじゃなくて、運が欲しい。臭いベトベトは…。あぁ、もうたくさん。
『先はまだまだ長いから』
『世界は広いし、良い人もいる』
『越えられる壁しか神は与えない』
……うるさい!
先が長いなら、嫌なこともたくさん。
世界が広いなら、悪い人だってたくさん。
…乗り越えなけりゃ、どうなるの?
ねぇ、神様。
もしも、もしもこの先があって。
そこで僕は幸せですか?
もしも、もしも良い人がいて。
その人と僕、仲良しですか?
もしも、もしも乗り越えたとして。
僕も笑顔でいいですか?
悪人ばかりが笑顔な世界、
笑顔の僕は悪くない?
自分勝手になってない?
あぁ、もう誰か。
今の僕は悪くない?
嫌な気持ちは誰のせい?
もしも、もしも悪が不要な物ならば。
要らない僕も悪い人?
悪が嫌われものなのか、
嫌われものが悪なのか。
ぐるぐるぐるぐる頭は回る。
だけど、何にも考えたくない。
答えも神も出ることはなく、ただただ首で血が止まる。黒く腫れてく僕の顔。
縄がギュウッと首を絞める。僕の重みが苦しめる。
まだまだ死なない僕の心。終わりの時間はまだまだ続く。
…あぁ。
「ご飯をもっと食べれば、よかったかなぁ」
パンパンパンな頭の中で、僕はぼんやり考えた。
美味しいご飯は幸せだったし、きっともっと太っていたなら、もっときっとすぐに首が絞まった。…かもしれない。
…うん…かもしれないかな……もう知らない…。
もがく僕の身体に合わせて、枝がギシギシ軋んでる。
天使も死神も…迎えになんて来やしないし…。
真…っ黒の闇すら…もう…見えやしない…し。
あぁ…何にもしてない僕はひとり…。
苦しい。
頭の中に深い水が満ちていくようで、沈んでいくようで…。
…ここは暗い水の中。きっと冷たい水の中…。
―――。
******************************
星の輝く夜空には、ひとつの雲も出ていません。…誰かにはきっとそう見えました。
私はまーるい月を見ました。
月の影までよく見えました。
兎や蛙が跳ねていました。ぴょんぴょこぴょんぴょこ愉しげに。
飽きたら、こっちに降りてきて。きっと甘い果実が熟れてるよ。
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