グッド・バイ、百日紅の私

紺藤 香純

第1話

 街路樹の葉が濃い影を落とす、夏の休日のことです。

 日傘を差しながら、紙の地図と睨めっこ。それでいて、絽の着物に草履。抱えているのは、風呂敷に持ち手をつけただけのバッグ。

 三鷹駅を出て目的地へ向かう私は、我ながら奇妙奇天烈でした。

 お洒落なお店のガラスに私の姿が映ります。でも、見ないふりをしました。

 洗練された街に、私なんか不似合いです。

 湿気を含んだ外気と油蝉の合奏で心身共に疲れ始めた頃、目的地のに到着しました。

 駅前の通りから脇道に入り、閑静な住宅街に静かに佇む、古風な生け垣。その奥の平屋の建物もまた、純和風の建築。

 「夏季大茶会」の看板が掲げられているので、目的地に間違いありません。

 受付をしていた高齢の女性は、珍しそうに私を眺めます。

 私は芳名帳に氏名を記入し、そそくさと奥へ進みました。

 『猿渡さるわたり 百花ももか

 震える手で書いた汚い筆跡は、今頃笑い種になっていることでしょう。

 お茶席が開くのを廊下で待ちながら、風呂敷バッグから帛紗挟みを出しました。それを眺め、自分が周囲を見ないようにします。

 20代後半の女が不似合いな和服姿で独りでお茶会に来るなんて、奇怪に思われてもおかしくありません。

 私なんか、この洗練されたお洒落な世界に不似合いだと、自覚しています。

 でも、私なんかを応援してくれる人のためにも、このお茶会に参加しなくてはなりません。

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