5-4 日記

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【白信号】


 ある晩、ある場所、ある時。その信号は、白く点灯する。


 さぁ渡りなさいと、手招きするように、白く明るく、怪しく点灯する。


 しかし、その横断歩道を渡ってはいけない。


 信号が白く光るとき、その場所は黄泉の世界へと繋がっているのだから──。


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 これは優香が思いついた怪談話をまとめたものらしかった。しかし、順番に読み進めていくと、途中からメモは日記に変わっていっている事に気付いた。


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・〇月×日△曜日

 深夜二時。眠れずテレビを見ていると、突然放送が切り替わった。

 昔、ネットに上げられたファンメイドの動画でよく見た都市伝説、NNN臨時放送だった。でも、ネットで見たものとはまた少し雰囲気が違う。それに、他の部屋のテレビには映らない。

 玲汰も起こして見せてあげようと思ったけど、何かイヤな予感がしたから黙っておいた。だって、臨時放送に流れる名前の中に、教頭先生の名前があったから。


・〇月×日△曜日

 昨晩のNNN臨時放送を見たという同級生が二名ほどいた。二人とも、自称“霊感がある”“霊を見た事がある”生徒だった。また、その時間にテレビを点けていたけど見てない、と主張する生徒もいた。何か、あの放送を見るための条件があるのかもしれない。

 最近イヤな胸騒ぎがする事が多かった。臨時放送もそうだし……特に学校で、ぞわっと鳥肌が立つような事もあった。その理由が今日、分かった。学校に怪異が居る。居た。この目で見た。放課後、教頭先生を襲っていた。大きな口を開けて一口、丸飲みしていた。

 あのNNN臨時放送は、ホンモノだ。


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【まるのみ】


 昔、貧乏な一家に、よく食べる子どもがいた。小食な兄とは違って、食事をまるごと飲み込むようにぺろりと平らげるその子は、貧乏な一家にとってたいそう重荷となっていた。


 ある日その子は、口減らしのためとある木の下に埋められた。


 数年後、その木には赤くてきれいな丸い木の実が成った。木の実はどんどん大きくなり、やがて大きな口のような割れ目を作り、そして一家全員を丸飲みしてしまったそうな。


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・〇月×日△曜日

 教頭は、噂では借金があって夜逃げしたって言われているけど、私は確かに見た。でも、誰も信じてくれないだろう。興味を持った人が肝試しなんかに来て襲われても問題だ。どうにかできないだろうか。危険すぎて、玲汰にだって話せない。

 “まるのみ”の存在を……この世に怪異が実在するって事を知っているのは、私だけだ。


・〇月×日△曜日

 数日前から行方不明になっていた、うちの学校の不良生徒三人が電車に轢かれて亡くなった。その現場である道之駅を見に行ったら、怪異と遭遇した。なんとか電車に乗って逃げられたけど、それはまるでテケテケのようだった。もしかすると、三人の内の一人かもしれない。……私に何かできることはないだろうか。


〇月×日△曜日

 できた! まるのみを、教頭を殺した怪異を祓うことができた。怪異にはそう成った理由があって、生前に由来する解決方法がある。まるのみはお腹が空いて、でも満足できなくて、挙句、最愛の家族に口減らしのために殺されてしまった、哀れな怪異だった。

 調べると、校舎の立つ何百年も前にここには集落があって、校門の傍にある大きな木の根元に、まるのみの亡骸が埋まっていると分かった。その木を大切に世話してやると、それ以来まるのみは現れなくなった。文字で書いてあるほど簡単ではなかったけれど……。

 危ない事だって分かっている。でも、こんな私にもできることがあると分かった。

 この体験は、きっと面白い本を書くための良い材料になる。


〇月×日△曜日

 今までにも怪異が関わったような事件があるかもしれないと思って色々調べたら、どうやら学校近くにある鈴木さん宅で起こった火災以降、そこで妙な事件が続いたらしい記事を見つけた。怪異の仕業かもしれない。不可解な点が多いから、もっと詳しく調べてみることにする。


〇月×日△曜日

 鈴木さん宅の火災の新聞記事をコピーしたものが母に見つかった。

 何でこんなものを見ているのか聞かれて、怪異が~なんて言えなくて黙っていたら、母が話し始めた。どうして母がこんなに問い詰めてくるのかと思ったけど、話を聞いて理解した。

 私は母の実の娘ではなく、母の姉の娘だということ。それに関係している話だった。

 私が持っていた新聞記事に書かれたこの事件の被害者である、鈴木家。母は、この鈴木家へ嫁いだ姉の妹で、この事件で姉が亡くなり、当時生まれたばかりだった私を引き取って育てたのだという。そして、母は今の父と結婚し、風間という姓になったのだと。

 まさか実の母と姉が火災によって亡くなっていたなんて。それも驚きだったけれど、それ以上に、もしかするとそこに怪異が絡んでいるのかと思うと、どうにも言い表せないような複雑な気持ちになった。

 もし鈴木家の人たちが生きていたら、私はどんな人生を送っていただろう。オカルトなんかに興味を持たなかった? 仲の良い姉妹になっていた? どうしても想像できない。今の父と母や、そして玲汰と出会わなかった人生なんて。

 

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【タッちゃん】


 今邑竜也は不良だった。校舎裏で仲間を二人連れてタバコを吸い、部活動の顧問には手を上げ、授業はマトモに受けない。そんな生徒だった。


 しかし彼は半年前までは優等生で、将来も期待されるような生徒だった。しかし、彼の母が亡くなってから、変わってしまったのだ。


 恨みを買うような事を多くしてきた彼は、電車に轢断されて死んでしまった。


 やがて、最愛の母に顔向けできるような人生を送ってこなかった彼はこの世に未練を残し、怪異となって人を襲うようになった。道を違えてしまった憂さ晴らしをするように。


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〇月×日△曜日

 この近隣では不可解な事件が多い。

 怪異の存在を察知している人は果たしてどれくらいいるのだろうか。きっと多くない。もしかしたら、一連の怪異は誰かに意図的に引き起こされている可能性がある。特に、この学校には怪異も被害者も多い。私の姉になるはずだった鈴木家の娘も、この学校に通っていた。

 この一連の怪異を起こし、殺人を犯している人物と、鈴木家の人たちを殺した人物は同じかもしれない。

 そしてまた、NNN臨時放送を見た。玲汰の名前があった。


〇月×日△曜日

 玲汰が失踪した。何も言わず、どこかへ消えた。臨時放送で名前を見てから、ずっと注意していたのに!

 周囲に聞くと、道之駅で誰かと会う約束があると言っていたらしい。テケテケが居る場所だ。

 玲汰が誰と約束をしたのかまでは分からなかった。

 これまで不可解だと思った事件を調べると、大抵が怪異の痕跡を残していた。だから、この町で一体何が起こっているのか解き明かすために調査を続けていたけれど……もしかしてそのせいで、玲汰は消された……?

 どうか生きていて欲しい。私の弟ならきっと、怪異から逃げ延びられているはず。


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 玲汰は驚愕した。一旦ページから目を離して強く目を閉じ、こめかみを押える。


 優香は、あの鈴木家の娘だった。


 そういえば新聞記事には、鈴木家の母は出産直後で、赤ん坊は検査のために退院が先延ばしになったと、そのように書いてあったはずだ。雨谷によって悲惨な事件が起こされたが、それがなければ玲汰は優香と出会う事がなかった。そう考えると、皮肉なものだった。


 そして、雨谷の言っていた通り、この日記にも記されている。「玲汰は消えた」と。


 ならば、自分は一体──?


 そしてその衝撃に続き、メモ帳の最後にヨレヨレの字で書かれた話。それを見て、玲汰は全てを悟った。

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