第三十話☆牛さん
私は普通に牛が好きだ。かと言って、好きすぎて飼う事を考える、とか牛のグッズを集めてしまう、とかそこまで好きなわけではない。普通に、好きか嫌いかと言ったら好き。そんな程度。
でも、私は牛に前の世界で大変お世話になっている。
毎朝コップ一杯の牛乳を飲み、私の通っていた学校は珍しく給食制だったので、お昼ご飯にもパックの牛乳を飲み、小さな頃から眠れない日には牛乳を温めて飲んだ。そして、牛乳が欠かせない数々の料理、お菓子など。
それから、私の大好物のビーフシチュー。牛丼もたくさん食べた。
私が身近に感じるのはこんなところだが、他にもどこかでお世話になっているのかもしれない。
そして、小学校の遠足で牧場見学に行き、乳搾りも体験し、命の大切さを教えてもらった。
まぁ、ただの女子校生が知っている知識など限られたものだが、これだけは確かだ。
普通の牛の頭は1つだと言うことが。
私なりに落ち着いてちょっと考えてみる。
そもそも、牛の定義って何?
私は目の前にいる牛のような動物をもう一度観察してみる。
まず、パッと目に入るのは白色の体に黒色の模様があちこちに入っている大きな体。
大きな図体にしては頭の上に2つ小さな耳が。その真上には2本の角。
うーん。牛…なのかなぁ…。
その時、目の前の牛が黒色の鼻から息を大きく吸い込み、声を発した。
モォォオオオオ!
えぇー。モーって言ってるじゃん。もう牛でいいか。
私は目の前の動物が牛かどうかを考えるのをやめ、レアの方を振り返る。
「?」
目が合ったレアは何?と言うように首をコテン、と傾ける。
か、可愛い…!じゃなくて、牛を捕まえなきゃ!
「ねぇ、レア。牛って攻撃してくるの?」
私の質問を聞き、レアはクスッと笑う。
「ふふ、リリィは大丈夫よ。ゆっくり近づいてみて。目と目を合わせてみると意思疎通だけ取れるはずよ。」
「わ、分かった…!」
あの角で攻撃されたら、と思うとちょっと怖いけど、レアの言葉を信じ、抜き足差し足で近づいてみる。
しかし、今まで足音など消す事などほとんどしてこなかった私の足音は静かな森の中によく響いた。
残り牛との距離が3メートル、と言う地点で牛の耳がピクッと動き、頭が一つゆっくりこちらを向いた。
モォォ…
私はその場で足を止め、咄嗟に目をグッと閉じた。
やばいやばい!何か目、閉じちゃった!目と目を合わせて意思疎通、だっけ?
え、目を開けるのすっごい怖いんだけど…!
そして、ゆっくりと向こうからこちらに近づいてくる音が聞こえた。
え!え!近い?近いの?
目を開けるのがもっと怖くなってくる。
ふぅぅううんんんん…
生暖かい風が急に顔にかかり、前髪がふわっと上がる。私は叫びたい気持ちを一生懸命抑える。冷や汗がダラダラ垂れてくる。
んー…!鼻息ですよねぇぇ!?
でも、この距離で襲われてないって事は敵対してないのかな…?
そして、私は意を決して目をゆっくりと開けた。
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