第三話☆妖精さん
「妖精さん…?」
思わず疑問を口にする。
目の前に浮かんでいる、いや飛んでいるという方が正しいだろうか。
4枚の羽を震わせ、緑のドレスを身にまとい、腰のあたりまで伸びている金髪の髪が光の加減でキラキラと輝いている。まっすぐこちらを見据えるパッチリとした翡翠色の瞳の中に私の姿がうっすら見える。
「まぁ!確かに私は妖精族の一員よ。”さん”と敬称をつけるのは良い心意気だわ!…はっ!私はそんなことを言いに来たんじゃないのよ!あなたこんなに大きな音を立てて木を切るなんて!しかもちゃんとお祈りはしたの??そーゆーのは、ちゃんとお断りをいれなきゃだめよ!もう!!…あら?ちゃんと私の話を聞いてるの?」
「…はぁ。」
その妖精は可憐な見た目とは程遠く、口から言葉が止まらない。
え…?頭がパンクしそう。色々言われて最初何言われたのかもう分からなくなってきた。
「妖精さん!お名前は?」
私はすべての思考を放棄し、とりあえず挨拶から改めることにした。しかし、私の言葉に妖精は呆気に取られたかのように一瞬目を見開き、考え込む仕草をした。
「…。いや、でも…。あ、あなた精霊の祝福があるのね…?うーん…。」
え、名前を尋ねるのはこの世界ではタブーだったのか…?
「あ、あの!言いたくなかったら無理に言わなくても…」
「いいわ!!!私、あなたの妖精になってあげる!!」
「…わぁぁ!本当!?嬉しい!」
何がなんだかよくわからないが、この世界に来て、初めて言葉を交わした相手と友達のような関係を築けるなら私は何でも良かった。ついでにこの世界のことを教えてもらいたい…!
「先にあなたが名乗って頂戴。あなた、名前は?」
「…」
私はせっかく異世界に来たなら、この世界に合った名前に変えたい、という気持ちが強かった。
「ねぇ、妖精さん。あなたが私の名前を付けてくれない?」
「私が…?そんなことを言われたのは初めてだわ。ちょっと待ちなさい。」
妖精さんは私の目をしっかりと見て、考え込む。そしてハッと閃いたように目を大きく開け、答える。
「決めたわ。あなたの名前はリリィ。リリィ・ガーネット。」
「いい名前。ありがとう、妖精さん!」
たまたまなのか、妖精には見通す力があるのか、判断がつかなかったが、元の名前に近い名前を与えてくれた。全く異なる名前より、馴染みがあり、嬉しい。そして、私は気づく。
あぁ、私は前の世界のことをすべて消し去りたいわけじゃなかったんだ…
そんなことをしみじみ感じていると、妖精さんが私に話しかけてきた。
「今度は私の番よ。私に名前を付けてくださらない?」
「…分かった。…うん。決めた。妖精さん、あなたの名前はレア。」
「そう。気に入ったわ。私の名前はレア・ガーネット。よろしくね、私の新しいご主人さま。」
「…ご主人さま…?」
レアは首を少し傾け、さも当然の事のように言葉を紡ぐ。
「妖精の名付けだもの。リリィが私のご主人さまよ?」
あ…れれ…?お、お友達じゃなくて…?
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