予兆
第34話 別大陸へ
ノーボーダーズは別の大陸にも支部を作る計画をしていた。ランニィでの支援活動終 了後、ネイチヤ大陸に設ける予定だった。それがフロンティア大陸の住人から来るように誘われて応じたため、急遽変更する形となる。
フロンティア大陸の住人を最初に見た時は異様だとエイルは感じていた。髪の毛がなく、目が顔の大部分を占めており、薄気味悪いぐらい肌が真っ白な見た目だ。宇宙人を想像すると分かりやすいだろうか。一応服らしきものは着てはいるが、エイルの常識を逸脱していた。全身タイツのようなものだった
ストリア大陸でよく使われる言語だったとは言え、たどたどしい言葉遣いだったため、ジェスチャー混じりになりながらも、どうにか理解をし、支部を作ることに承諾をした。直後にフロンティアの住人はエイルの手を握った。見知らぬ風景が目に入った。エイルは戸惑いながらも理解する。知らない内にストリア大陸の西にある別の大陸、フロンティア大陸に到着したと。
「ここがフロンティアか。未知の大陸と言うのも頷ける」
何もかも初めて見るものばかりだった。見上げるぐらい高い塔。空中に浮かぶ城。魂のない金属の人形。ストリア大陸だけではなく、ネイチヤ大陸とロックランド大陸にもないだろう。ストリア大陸の冒険者が偶然辿り着いたのは100年ほど前で、移住者が少しずつ来ているという話である。途中で空からの移住者が来て、様変わりして未知の大陸と呼ばれるようになったらしい。
「ついて来いというわけか」
連れてきた本人はエイルに何かを見せてきた。手に持っているものは、力を入れたら割れるのではないかと思うぐらい薄くて透明……なのだが、これが硝子なのかというと違うかもしれない。絵を見せてくれた。矢印の下に髪の毛のない本人とエイルっぽい何かがある。どうにかやり取りが出来た理由がこれである。
「興味深いものばかりだ」
エイルはきょろきょろと周囲を見渡しながら付いて行く。魂のない金属の人形が案内をしたり、車椅子が浮いていたりしている。魔術ではまだ出来ていないところだ。エイルは素人ながら、フロンティアが発展してる大陸であると理解が出来る。開発途中なのか、道路は未だに凸凹状態だが、それは時間の問題だろうということも分かる。
「こっちに入るのか」
木で作られた塔を5つ重ねたような建物に入る。看板らしきものがあり、警備員らしきものが目を光らせて……ではなく、興味津々にエイルを見ていた。頬が赤いのは気のせい
だろう。きっと。
「コッチ。ハイル」
珍しくドアのない部屋だけしかない。その内の1つに入る。真ん中に机があり、椅子がある。会議室のようなものだろう。カウボーイハットに似た格好の背の高めの男の人間がいる。
「初めまして。俺はライアン・ファーンだ。堅苦しい言葉は使わなくていいぜ」
カウボーイのような男は彫りの深い顔で、青い目で、金髪を刈り上げている。右手を差し出している。
「エインゲルベルト・リンナエウスだ。エイルと呼んで構わない。よろしく頼む」
エイルは名乗り、握手に応じる。
「早速本題に入るとしよう」
ライアンは地図を机に広げる。国家があるわけではない。3大陸の国家の植民地があるわけでもない。冒険者が開拓者となり、少しずつ土地を広げていってることが分かる。
「昔に比べりゃ、土地が広くなったよ。その分、災害に遭う事が多くなってな。春の嵐とか冬の山火事とかは結構よくあることだな。昔は人数少なかったし、土地も狭かったから、まあどうにかな。けど増えてきた今は手数が足りねえんだ。前なんて半分も亡くなった。俺達じゃどうにも出来ねえ。どうすっかって思った矢先、国関係なく救うっていう団体があるのを聞いて、こっちに呼んできたってわけだ」
エイルはノーボーダーズの長として意見を出す。
「事情は理解した。いずれ別の大陸にも支部を置く予定だったから、喜んで引き受けようと思う」
2人の顔が明るくなる。目が異様に大きい案内人は体を大きく動かすことで喜びを表現しちゃっている。
「ライアン」
褐色の肌色、天然パーマの黒髪の男性が部屋に入って来た。ベストのような服を直接来て、頭にカラフルな鳥の羽根を付けている。
「なんだ。珍しいな。こっちに来るなんてよ。紹介しよう。彼こそフロンティアの原住民族の1つ、アスペン家の者だ」
アスペン家の者が静かに会釈する。
「ところで何故こちらに? アポなしでこっちに来るなんて珍しいじゃないか」
ライアンは傾げながらアスペン家の者に聞いた。
「忠告をしに来た。よその大陸の組織を受け入れるのは慎重にしておけとな。というかそもそもここの村長の許可無し……はまあ放っておくとしてだな。ただの村人でやるのは狂気の沙汰だと思うが」
国境を超えて活動するとは言え、トラブルになったら元も子もないため、周辺の人に何も言わずに好き勝手にやっているわけではない。いや。国家関係ないからこそ、慎重に行動をとっている。具体的に言うと、事前にアポを取ったり、団体の説明をしたり、地道なものばかりのものだ。色々と察したエイルはふらりと倒れそうになるが、どうにか堪える。
「ただでさえ、脆弱なとこが多いんだ。規模がデカくなって、災害の対応だって遅れてるの、お前だって分かってるだろ?」
アスペン家の者は何も答えない。ライアンは続きを言っていく。声がどんどん荒くなっている。
「しかも村長のジジィが動くのが遅いと来た。そうなると若い俺らでどうにかしねえと」
「それを悪いとは言ってない。慎重にやれと言ってるんだ」
下手したら喧嘩まで発展しそうだ。目の大きい住人がどうにかしようと右往左往しているが、止められそうにない。提案に乗った責任もあると、エイルは2人の間に入る。
「アスペン家の者が言うのも分からなくもない。ストリア大陸の国家が攻めてくるという警戒もあるだろうしな」
2人はグギギと首を動かし、エイルの方を見る。目をぱちぱちと開けたり閉じたりしている。エイルは長としての考えを述べる。
「まず秘密裏にここの組織との協定を結ぶことから始めたい。普段支援活動後は国王陛下に報告はしているが、何も報せたりはしない。あとは組織が国家と繋がっていない証拠を提示しないといけないな」
アスペン家の者はライアンの額を指ではじいて叩く。デコピンというわりにはライアンは痛そうだ。
「年下っぽい彼の方が冷静じゃないか。ちょっとは見習え。最初は情報というか……知識の共有から始めておきたい。彼らのこともあるからな」
アスペン家の者は宇宙人に似た住人を指す。
「彼らが来たのは最近でな。色々と謎が多い。ここで活動する際に支障を来たしたらまずいだろ。それに魔術に関しては数年遅れている。教えてくれると助かる」
魔術に頼らない技術の発展は見て分かる。それ以外の……特に魔術に関しては数年単位で遅れているようだ。
「分かった。都合が良ければ、こちらから何人か魔術師を手配しよう」
「頼んだ。こちらはツテを使って、災害についてまとめておく。協力できるような体制を作っておこう。所属しているシャーマン仲間に伝えておく。元からお前達の様な者を歓迎するような奴だ。快く承諾してくれるさ」
握手を交わし、交渉が成立した。他大陸の国家の動きに考慮し、あくまでも組織の間のやり取りという名義で、ノーボーダーズはフロンティア大陸での活動を開始した。更に同時並行で、ネイチヤ大陸の最大国家ジャッコウに支部を作り始める。貿易関係の相手でもあるため、情報は手に入っており、ノーボーダーズの名は知られていた。そのお陰でスムーズに支部の設立が出来た。
「民族がたくさんおるからな。気を付けろよ」
その代わり、ネイチヤ大陸の他国家に支部を築こうとしたら、他民族の関係のこともあり、すぐにというわけにはいかなかった。差別をするのではないかという疑い、よそから来た人間への不信感、持つ技術に対する偏見。この3つから来る睨みに怯んではいけない。そう思ったエイルはネイチヤ大陸の住人からの視線を背かない。
「てめえら。何を企んでやがるって言ってますね」
「そうか。アイザック。治療の準備をしてくれ」
「はい」
通訳案内の人を介しながら、治癒魔術師のアイザックと共に交流を繰り返す。彼らの困りごとをひとつずつ解決し、自分達の組織について説明をしたりして、信頼を獲得していく。少しずつ活動範囲を広げていく。
そして、エイルが他大陸にいる間、その他の仲間達がストリア大陸で様々な支援活動を行った。帰国した時に本部で活動報告を読んでいく。
「多民族国家のところか。戦争は未だに続いているが、あと少しで収まりそうだな」
ストリア大陸の北東部の国家での活動を最初に読んだ。いつもの領土争いの類で、戦に関われない女性と子供を逃がしたり、健康を維持するための活動を行ったりしたみたいだ。激戦地が静まるのに時間がかかると思われていたようだが、巨人が本来の姿になり、戦闘をしていた人達が腰を抜かしたことで早くなったらしい。そのお陰で戦争が終わるだろうと書類に記載されていた。
次に小規模だが、被害がやや大きい地震。その次に魔獣による被害の支援。目を通していく。その途中だった。行動を共にしていたふと眉の金髪の三十路の治癒魔術師アイザックが声をかけてきた。
「エイル。ちょっと気になったことがあるんだけど」
「なんだ」
「魔獣に関するものとか、穢れによるものとかが多い気がするんだ。普段はそこまで多くならないはずなんだよね?」
ネイチヤ大陸の滞在期間は2ヶ月。支援活動の件数は15件。その内の7件は自然災害や戦争に関するものではない。カテゴリーとしてはその他に分類されるものが半数ほどあったのだ。エイルもアイザックも、その点について不自然に感じていた。
「気のせいではない。全部を知っているというわけではないが……いくら何でもおかしい」
エイルは自分の仕事机の上に置かれていた封筒を開ける。ダンデからの手紙だった。
『ネイチヤ大陸での活動、お疲れ様。ところで活動報告を読んで疑問に思ったんじゃないのかい? その件について、調査中だ。2日後にここで話し合おう』
今後何かが起こるのではないか。そう思わせるような内容だった。
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