支援活動の合間

第30話 勉強会

 国境関係なく動く救助団体ノーボーダーズは治癒魔術師だけで100名以上が所属しており、ドラグ王国以外にも支部を少しずつ増やし、その分人の数も大きくなっている。腕のある者もいれば、やっと1人前になっているような者もいる。誰でも得意不得意の分野がある。そして魔術は日々進歩している。


 だからこそ勉強を怠らないようにしている。その1つの方法として、勉強会を定期的に集まっているのだ。人の都合によって人数はバラバラだが、大体2桁は行く。


 内容は様々だ。数少ない物資の中、どう治療していくのか。精神ケア。災害時のリスク。話し合ったり、教え合ったりするスタンスが多い。場所は決まっているわけではないが、ドラグ王国の本部が多い。もちろん支部でも行われることがあり、情報共有をしている。


 因みにサピエン近くの国での活動から帰った後の勉強会ではイザベラ・フックスが講師役として務めていた。場所はドラグ王国にある本部で、簡単な食事会が出来るぐらいの広さの部屋に小さい席が30ぐらいあり、全部埋まっている状態だ。初めて教える立場になったのか、イザベラはガチガチに固まっている。


「あれ。いつの間に髪の毛切ってたんだ」


 イザベラ・フックスは長い癖のある茶髪を1つに纏めていた。現在はバッサリと切り、襟元ぐらいしかない。イザベラと親交がある女性治癒魔術師じゃなくとも、誰でも気付くことだった。


「ええ。まあ。色々と」


 困ったように笑い、頬を掻く。仲の良い誰かが面白そうに問う。


「へー。ひょっとして誰かに振られちゃったりして?」


「告白してませんから!」


 イザベラは否定した。耳まで赤くなっている。後ろの席にいるエイルがわざとらしく、咳払いをする。視線がエイルに集まる。


「切るきっかけは腐る程ある。恋愛だと決め積めるのは浅はかだ。というかそういうのは外でやってくれ。愚痴ならエセ紳士になるが、ダンデなら聞いてくれるさ」


 諌めるのかと思いきや、何だかんだエイルも楽しそうに揶揄っていた。


「もーエイルさんったら! あとダンデさんは本物です!」


 どこから聞こえてきたのか、ドアを開く音が聞こえた。


「やあ。俺が何だって」


 ひょっこりとダンデが顔を出してきた。


「おっと。勉強会だったか。お邪魔したね」


 部屋にいるメンツで察したのか、そっと退散した。突然の登場と退場でイザベラは呆気にとられる。他の皆も似たようなものだった。


「イザベラ・フックス。気持ちは分かるが……続きを頼む」


 エイルの台詞にイザベラはハッと気づく。自分自身が講師であることを忘れていたのだろう。


「そ……そうでした! 解呪を教えるのですが、その前にご存じだと思いますが、呪いについて説明を! します! 呪いのパターンは2つあります。魔術によるものと自然由来のものです」


 指でパチンと鳴らし、空中に文字が浮かび上がる。2つのパターンと特徴について書かれている。


「黄泉の誘いとも呼ばれている自然に出来た呪いは感知することが出来ず、解くことすら出来ません。寿命が近づいてきた時、体力が消耗してきた時などにかかります。対策は無いに等しいですね」


 誰かが静かに右手を挙げる。


「はい。どうぞ」


 イザベラは発言を許可する。誰かが発言する。


「対策は無いに等しいと言っておりますが、病が原因の場合対策は可能なのではないかと考えているのですが、どうお考えでしょうか」


 講師は少し考えて、返答する。


「原因がはっきりしている場合は可能でしょう。ですが申し訳程度であることが多いのが事実です。一時的に元気になっても、次の日に亡くなっている……なんてこともありました」


「そ……そうでしたか。自然の呪いを舐めてはいけないのですね。失礼しました」


「いえ。呪いはまだ不明な点が多いので、そういった意見の交わし合いは大事です。いい勉強になりました。自然由来について説明しましたので、魔術によるものの説明をしていきます。ざっくばらんに言います。素人でも分かるぐらいメッチャ分かりやすいです! すぐに分かっちゃいます!」


 パチンと鳴り、大まかな分類3つが浮かび上がる。


「術者とかけられた者がはっきりしているケース。不特定多数をターゲットとしているケース。一定の範囲でしか発揮されないケース。この3つだけを紹介しておきました。本来は更に細かいのですが、割愛させていただきます。大まかに説明しましたが、質問等があれば受け付けます」


 誰も手を挙げず、じっとイザベラを見つめている。


「それでは解呪の方法について説明していきましょうか。こちらがメインです。大事なのはどれだけ相手に負担をかけないで、呪いを解くのかです。特に術者とかけられた者がはっきりしている場合はそうですね。呪詛返しと呼ばれるものもありますし」


 ドアを静かに開ける音が聞こえてきた。癖のある短い茶髪に眼鏡をかけた茶色のたれ目の男性、ラオリー・グラジオラスだ。両手で抱え込むぐらいの大きさの籠の中に人形らしきものがたくさん入っている。それを見た者は困惑する。


「これで十分かい?」


 ラオリーはイザベラの元に行き、そっと籠を床に下ろした。


「はい。ありがとうございます。色々とお忙しいのに」


「いや。こういうのは滅多にないからね。いい勉強になったよ。それではこれ以上邪魔にならないよう、退室するよ」


 優雅に出て行った。イザベラは無言でペコリとお辞儀をした。


「さて。実践しながら学んでいきましょう。1人1つずつ、配っていきます」


 その後、参加者は解呪の練習を行った。イザベラが言うには簡単なものを頼んだらしいが、初めてのこともあり、苦戦している者が多かった。


「あー終わったー!」


 どうにか出来る者が出てきて、勉強会が終わった。解呪は難易度が高いものだと改めてエイルが実感した勉強会だった。


「終わった?」


 ヴィクトリアとマチルダが覗いてきた。イザベラは走って、2人の元に行く。


「ヴィクトリア様、ご協力ありがとうございます!」


 大声で言ったのか、ヴィクトリアは思わず後退りをする。


「こっちも暇だったし、お礼は良いわよ。それで勉強会はどうだったのって聞くまでもないわね。全部解けてるし」


「はい。初めての者が多かったので時間はかかりましたが、これで十分でしょう」


 この時、誰かがヴィクトリアの後ろを通りかかる。気配に気づいたのか、マチルダが通りかかった者に話しかける。


「やはり貴殿だったか。ルーシー」


 こじゃれた台車に紅茶が入っているガラス製のティーポッドとコップと茶菓子を乗せていた。ルーシーが用意していたものだ。


「そろそろ終わるんじゃないかと思って用意してきたの。みんなー、お茶とお菓子用意したけどいるかしら?」


「ください!」


 ルーシーの提案に即答した人が多かった。よほど欲しがっていたのだろう。帰る前に紅茶を飲んでゆっくりするという選択をした人ばかりだった。そして女性が多かったため、知らない内に女子会となり、男性陣の肩身が狭いという事態になったとか。

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