第26話 噴火と魔物 その2
救助団体ノーボーダーズは地学研究者マルタゴンと共に、研究仲間が集まる場所へ向かった。空間転移を何度か使い、約2日で辿り着くことが出来た。クレフスト火山から10km地点にある見晴らしの良く、近くの村へ連絡が取りやすい良い場所だったため、待ち合わせにしたのだそうだ。
火山らしきところからは何も出ていない。噴火の頻度が少なくなったのだろう。それでも青い空が見えていない。火山灰が降っているせいで暗い。エイルは腕時計を見て、時刻を確認する。朝の時間帯だった。
「あ。マルタゴン。来た来た」
既に到着していた研究の仲間達が手を振る。ターバンのようなもので頭を巻いている茶色のふわふわの髪の毛の青年がマルタゴンの背中を叩く。
「まさか噂の救助団体と一緒だとはね。やっぱ何か持ってるよな。お前」
「たまたまですよ」
青年が褒めると、マルタゴンが照れるように言った。仲が良いやり取りで微笑ましい。
「初めまして。ノーボーダーズの皆さん。俺達は火山を主に調べている者だ。先に着いている皆もそうだよ。俺のことはセージと呼んでね」
ターバンのようなもので巻いている青年は名乗りながら、手を差し出す。
「救助団体ノーボーダーズのリーダー、エイルだ。火山の専門家が協力してくれるのは実に心強い」
「それはこっちの台詞さ。人を救うために、俺達が持つものが使えるんだ。光栄だよ。こっちで話そうか。どういった感じかを教えないと動けないだろ?」
握手を交わした後、情報交換をすることになった。その前にエイルは仲間に言う。
「そうだな。君たちはしばらく待機だ。現在の状況を把握してから、次の指示を出す」
マルタゴンを褒めたセージの案内で、1番大きいテントに入る。木のテーブルの上に紙が雑に置かれており、山が崩れている。何枚かは地面に落としている。
「ごめん。だいぶ汚くて」
セージは目を逸らしながらも、資料らしき紙をささっと整理する。大きい地図を広げられるぐらいのスペースの確保が出来たようだ。
「これでいいかな。これ使って」
エイルは背もたれのない木の椅子に座る。セージも座ったので、情報交換が始まる。
「さて。俺達は3日前にここに着いて、使い魔を飛ばして、調査を始めている。火山灰の範囲はこんな感じだね」
地図を見てる限り、数日前にエイル達がいた村が1番遠い位置にあるようだ。風の流れが西から東に行く傾向があるためか、東に行けば行くほど、幅が広くなっている。クレフスト火山周辺が未調査なのか、何も書いていないところがエイルは気になった。
「直接クレフスト火山まで飛ばせたか」
「いやー……それがそこまで使い魔の操作技術が低いのか、環境故なのか、まあ色々と原因はあるとは思うけど、出来てないんだ」
セージが困ったように言った。地学の専門家も魔術師育成機関のカリキュラムを受けてはいるが、得意分野が違うのか、使い魔を遠くまで飛ばせない理由が分かっていないみたいだ。
「そうか。魔術に関する知識はヴィクトリアに任せた方がいいな。使い魔に関することは彼女から聞いておけ。観察しててどう思う」
「そうだね。大規模な噴火はなくなったよ。3日ぐらいで終わったと思う。あとはちょくちょく小さいのが出るぐらい。近くの村から国の上に連絡はしているけど、まだ
返事が来ないんだよね。ごめんね。色々と騒がしくて」
「いや。気にするな」
テントの外が騒がしくなっているのはいつものことのようだ。音を遮断できるような魔術を使っていないからだろうかとエイルは気にせずに資料を見る。この情報量では今後の活動がどうなるのか不透明だ。
「どうやって近くまで行って、使い魔を飛ばせるようにするかが課題かな。あとクレフスト火山近くの観測者から連絡来ればなー……送ったけど返事が」
セージはテントの出入り口を見る。集中して何かを探ろうとしている。異変を感じたエイルはセージに聞く。
「いつもと何かが違うか」
「そうだね。ちょっと様子を見よう。絶対変だ。おい。何があった」
セージは顔を外に出し、地学研究者の仲間に聞き始めた。声だけしか聞こえないが、驚きや戸惑いなどを思わせるようなものばかりで、良いことが起きたわけではなさそうだ。
「そうか。分かった」
セージの顔が青くなっている。
「やべえ。マジか。最悪なケースになっちまった」
この言葉でエイルは察した。セージが言う最悪なケースというのは火山噴火後に生まれる魔物が集落を襲うことだ。畑が燃える。家が燃える。そういう魔物で、並みの戦士では太刀打ちできない。剣でぶった斬ればいいものではないため、倒す手段が限られている厄介なものだ。
「魔物が近づいてくるのか」
「それだけじゃない。彼奴らドワーフ達を見捨てたらしい」
エイルの眉間に皺が出来る。どうにか怒りを抑えながら、発言をする。
「まだ確定してるわけではないだろ」
「その通りだ。お嬢ちゃん」
下の方から渋い男の声が聞こえてきた。2人とも顔を下げる。てっぺんがツルツル、恐らく円形脱毛症になっている成人男性の腰ぐらいの背丈のおじさんがいた。フード付きのローブを着ている。
「あなたはドワーフの」
「おうよ。クレフスト火山の近くで鍛冶をしてた者だ」
エイルは膝を曲げて、視線をドワーフのおじさんと同じ高さに調整する。
「お嬢ちゃんではなく、男なのだが、避難などを聞いてもいいか」
「おう。噴火する3日前ぐらいに勧告が来とったよ。大規模の可能性があるとな。強制力があるわけじゃねえし、何人かは残ったと思うぞ。まあ半分以上はどこか安全なとこに行ったろうよ。拠点を作ってくれたしな。前代未聞の行動だったから、信じても良いかは不安だったが、今となっちゃー……良かったと思う」
おじさんは穏やかな顔で言った。
「いつもなら放置しておった。が。今回はそうしなかった。時が流れたというのはこういうことだろうよ」
少なくともディジミバは亜人を好んでいるわけではないが、国民として一応扱ってはいるみたいだ。それを知ったエイルはひとまずホッとした。
「問題は避難をしなかった連中だ。ある程度の対策はとってはおるが、魔物の出現で生存は厳しいだろう」
避難勧告は強制ではない。居残った者が噴火後に現れる魔物に襲われたと考えて良さそうだ。エイルはおじさんに質問する。
「ディジミバの騎士団からの派遣は? 狩人は?」
既にディジミバには冒険者という職業がないため、ああいった質問になっている。
「相手が悪い。それに噴火してんだぞ。派遣は厳しい」
例の魔物はマグマの塊のようなものだ。特殊な剣を持たない限り、武勇に優れていようと、無事じゃ済まされない。しかも噴火後の現場に向かうことになるため、どこの武力を持つ組織でも躊躇する。そうなると魔術師の派遣しかない。強力な召喚術を使えば、あっという間に終わる。
「魔術師の派遣をすればいいだろ。いやまあ俺はキツイけどさ。力量的に」
セージの指摘におじさんが困った顔で頭をガシガシとかく。
「力のある連中の中には亜人を好まない奴がいるからな。それに貴族の力が強い業界だ。違う意味で派遣出来そうにない」
おじさんの答えを聞き、エイルはため息を吐く。
「はあ。亜人関係なく、襲うのにか。支援しなかったら、民衆からのバッシングをくらうと思うのだが……その辺りはどこの国も同じか」
今から動かないと魔物の活動範囲が広がり、被害者が更に増えていく。ノーボーダーズの中に優秀な魔術師はいるが、数が圧倒的に足りない。そうなると最初にやるべきことはすぐに決まる。
「臨時募集をして、強力な魔術師を集めよう」
エイルはボソッと言った。ドワーフのおじさんと地学研究者のセージがその発言を聞き、信じられないような目付きでエイルを見る。
「本気!?」
セージが大きい声を出した。
「当たり前だ。そうでもしないと被害が大きくなる。ああ。もちろん報酬は用意するさ」
「いや……そういうのじゃなくて」
エイルの答えはセージにとって望むようなものではなかった。気にしている点が違うのだろう。察したエイルは彼が知りたいことを口に出す。
「これは国としての行動じゃないから、ディジミバの偉いところに悪影響は来ないはずだ。セージ。村まで案内してくれ。俺がこの国に来た頃と変わっていないなら、すぐ国中に情報が広まるはずだ」
「えー……すぐ行動とか凄いリーダーだよ。ほんと」
テントから出る前にエイルはドワーフのおじさんの方に向く。
「情報提供、助かった。あなたがいなかったら、やるべきことを見誤っていたかもしれない」
おじさんはただ微笑むだけで何も言わなかった。外に出たエイルは力強く仲間に指示を出す。
「事情が変わった。人を救うため、魔物を狩りに行くぞ。その間に魔力回復薬の用意をしてくれ。設置型の術式が用意出来るなら、そっちの方も頼む。俺は人員を補充するため、ディジミバ内に魔術師の臨時募集をしてくる。夕方になる前には倒すぞ」
ランニィから頼まれた調査から魔物狩りに変わってしまったが、根本的にやることは変わらない。エイルはセージと共に村に行き、急いで魔術師の臨時募集の紙を出したのだった。
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