心に強く残った活動記録
第18話 巨人の島 その1
ドラグ王国があるストリア大陸の北方にある島、ギガンティック・アイランドと言い、周りの国家から巨人の島と呼ばれている。そこには古い神の時代の名残だと言われている巨人が暮らす。人間も住んでいるが、遥か昔から巨人を支える役目を担う。
巨人の島は地域政府の集合体のようなものだ。1つ1つの村のようなものが国みたいなものと言った方が良いかもしれない。そして、集落ごとの各長から決められた強き者が巨人という種族の王だそうだ。
その巨人の王から救援依頼を出してきた。引き受けた救助団体ノーボーダーズは北方に向かったわけだが。
「ここまで被害が大きいとはな」
地震による大津波で多大な被害が出たという報告が来ていた。ある程度覚悟していたエイルですら、絶句しそうになった。旅に慣れたエイルや現場慣れしているダンデ以外は青ざめたり、吐きそうになっていたりと様々な反応をしている。
現在いる見晴らしの良い小山から見渡しているわけだが、悲惨なものだった。生活している居住地だと地図で書かれているが、建物が壊され、畑が泥まみれになり、何処かから流れてきた木材が歩く道を遮ったり、陸地にないはずの船が流れ着いたりしている。
空は灰色に近い雲で覆われ、雪が降っている。寒いのか、息を吐くと、白く出てくる。気温がとても低い中での大地震、更に大津波。頑丈だと言われている巨人でもひとたまりもないだろう。
「ああ。俺はこの国に訪れた事はないけど、文献で読んだことがある。幾たびも神の怒りによって、地響きが大地にまで届くと。周りの国よりも地震が多く発生する仕組みになっているみたいだよ。百年前も似たような事があったと書かれているからね」
ダンデは地図をエイルに投げ渡す。エイルは片手で受け取り、現在位置を確認する。集落地や会議で使われる場所、祭壇などが書かれているが、この状況では何処にあるのか分からない。魔力がたくさん集まる所に行って、拠点を築き、情報を集めるしかないなと考える。
「人が集まってる場所に行こう。ヴィクトリア。辛いと思うが、魔力感知を頼む」
ノーボーダーズの中で最年少はヴィクトリアだ。天才ではあるが、経験はしているわけではない。初めて見る事の方が多い。精神的に辛いとこがあるはずだ。受け入れられないところだってあるはずだろう。それでもやらなければいけないので、エイルは敢えて指示を出した。
「こっこれぐらいはどうってことは。まだ全体を見てるわけじゃないし。それにやらないと。ジョシュア。ハイビス。手伝ってくれない?」
青ざめたままの発言である。強がってはいるように思えた。それでもやってくれる。他の仲間も現実を目の当たりにし、魔術が出来るかどうか分からない状況だと言うのに、やる覚悟があるようで、目の光だけは失っていない。力強く感じる。
「ええ。何もせずというわけにはいきませんし」
3人で魔力感知を行う。通常よりも広範囲に行う。出来るだけ人が多く集まっている所を探し出そうという考えからだろう。
「エイル。地図貸して」
エイルはヴィクトリアに地図を渡す。少女は指で位置を示す。西方面の山にある祭壇だ。
「ここが1番強く感じるとこよ。ここでどうするつもり」
「情報を集めたい。たくさんの国が津波に遭ってるようなもんだしな。全体を指揮するはずの巨人の王が率先してやるべき事なのだが……愚痴を言っても仕方ない」
巨人の王はいるが、政治を執り行う存在ではない。力の象徴として存在するだけの者だ。全体を把握していない。流石にマズイと思ったのか、周辺国家に支援の要請を送って来たらしい。
「行こう!」
「はい!」
既に他国家が何かしらの行動をしていればいいのだがと願いながら、西の山にある祭壇に向かった。これがどれだけ甘い考えだったのか、実際に行って、思い知らされた。
「応じたのが俺達だけか」
白い石で出来た祭壇に着き、毛皮のコートを着た金髪青目の人間の女性が大喜びで迎え入れてくれた。彼女から状況を聞いた時、エイルは苦虫をかみ潰したような顔になった。
「はい。周辺の国にも出したらしいのですが……その残念ながら」
女性が暗い顔になる。
「横やりですまない」
マチルダが前に出る。何故か女性は下から上まで見て、驚いている。騎士に近い恰好をしているからだろうか。
「あ。はい」
「何故周辺国家が応じない。かなり特殊でも来るだろ。一般的に。確かに巨人は大きいし、強力ではあるが。理由にはならないだろ」
一般的に巨人の大人は小さくても3Mあり、膨大な魔力を持つ。普通の戦なら、基本勝ち目がない相手だ。外交は力以外に、資源や人材などをカードとして持ち、ゲームを行うようなもの。だから理由にはならないはずだ。彼女はそう考えている。
「……その、力がありすぎて」
その考えすら通用しないのが巨人の島だ。
「巨人の島って他国との戦争、一度もなかったのよ。マチルダ、あなたは凄い力があるから、巨人に対してはそんなに怖いって意識、ないんでしょうけど……普通の人にとってはそうじゃないの」
ヴィクトリアの言葉を聞いて、マチルダはある事を決意したのか、巨人がいる祭壇の奥に進む。
「少し彼らと話をしても構わないか」
「え……」
突然の行動に現地の女性が唖然とする。
「エイル。あとは頼んだ」
「ああ。分かった」
物凄く短いやり取りだが、エイルに現状の確認をしてくれと言っている事が分かる。さっそく彼女は巨人たちに話しかけている。色々と強い。
「マチルダさん。すごい。流石はエーデルワイス家の者ね」
「ああ。騎士の魂を引き継いでると言われてるからな」
後ろでこそこそと仲間が喋っている。気持ちは分からなくもないが、救助団体としての役割を果たさなくてはいけない。
「今の内に持ってきた物資の確認をしてくれ。俺は現在の状況を聞く」
エイルは指示を出す。お喋りがぴたりと止まり、みんなの顔付きが引き締まっている。
「はい! 質問してもよろしいでしょうか!」
癖のある茶髪のイザベラが挙手した。
「どうした」
「確認が終わり次第、周辺の探索や負傷者の治療をしても? あ。もちろん設営もですけど」
エイルは少し考える。設営とここの祭壇にいる負傷者の治療は良い。問題は周辺の探索だ。何処まで許されるのかが不明で、現地の人に確認を取ってからの方が良いだろう。
「こちらの準備が終わり次第、周辺の探索をしてもよろしいですか」
「もちろん構いません! 人手が欲しかったところなので!」
不安を持ちながら、聞いたが、普通に喜んで許可してくれた。
「ありがとうございます。みんな、さっき言った通り、持ってきた物資の確認をしてくれ。早く終わった場合、治癒魔術師はここにいる怪我人の治療を、それ以外の者は設営や探索の手伝いだ。質問はあるか」
反応はない。理解したと捉えてもいいだろうと判断したエイルは大きい声で言う。
「各自行動を開始!」
仲間達が動き始める。エイルは現地の女性に向く。こちらの持つ情報を伝えられるように努力をする。
「俺達は国王陛下から支援の要請が来てこちらに来ました。把握していることは100年ぶりの大地震で津波があったということ、甚大な被害を被ったこと、海岸沿い全体と範囲が広いことです」
国王陛下から貰った文は短く簡潔に書かれていた。時間がない中で書いたのか、詳細は全く書かれていなかった。
「ここだけで構いません。詳しい事を聞かせてもらえないでしょうか」
「こちらでお話します」
彼女の案内に付いて行こうとした時、エイルの足元が浮く。誰かに自分の襟首を掴まれた感覚がある。女性は困った顔をして、見上げていた。
「珍しい客人が来たと思ったら。なるほど」
老婆と思わしき声。器用に大きい手のひらにエイルを乗せている。巨人に掴まれて、乗せられた感じだろうと冷静に分析する。
「オリーブ様、いきなりそのような事は。彼は他国からの使者なのですよ。問題を起こしたらまずいかと」
あわあわと女性が狼狽える。オリーブと呼ばれたお婆さんは豪快に笑う。
「心配するでないわ。万が一の事があっても、戦に負けはせぬよ。それにだ。この小僧は気にしてはおらんようだしな。名は何と言う」
「エインゲルベルト・リンナエウスと申します。ドラグ王国の国王陛下からの支援要請でこちらに来ました」
「うむ。夫から聞いておった救助団体の長か。我の名はオリーブ。暫くは世話になるな」
オリーブの口から「夫」と気になる言葉が出て来る。それでも彼は特に言及することなく、発言をする。
「ええ。こちらこそ、活動するときに世話になります」
オリーブは目の前にいる女性の名を呼び、経過を尋ねる。
「アルケミラ。何処まで話した」
「いえ。まだ何も。こちらに来たばかりですし」
アルケミラと呼ばれた彼女は緊張しているものの、正確に伝えている。
「それなら我も同伴しよう。これでも手伝いをしてる身なんでな」
そう言って、何故かオリーブはエイルを下ろした。流石に彼でも困惑する。
「例の魔術を」
「はい。心得ました」
灰色の長い毛皮のコートを着ている約4Mという大きさの老婆が後ろにいる。初めて巨人と会ったが、彼女の表情が柔らかいので、不思議に怖いと感じない。少しだけ目を動かすと、アルケミラが何か念じているようだ。白い光が発生し、エイルは思わず目を瞑る。それも一瞬だけで、すぐ瞼を上げる事が出来た。
「いつもすまないな」
「いえ。補佐をやるのが私達の役目ですから」
光景を見て、何が起こったのだろうとエイルは思った。巨人のはずのお婆さんがエイルより少し小さい大きさ、つまり人間と同じぐらいになったのだ。
「これの方がお前もやりやすいだろ。……ははっ。まあ驚くのも無理はない。こういうものは最近出来たばっかだからな。ずっと島に引き籠るわけにはいかんし」
一時的に、巨人を人間と同じぐらいの大きさにさせる魔術のようだ。彼らも小さい種族とどう接するのか模索をしているのだろう。
「さあ。行こうか。我らが知る限り、お前に伝えておこう」
「お願いします」
2人と共に、エイルは動物の毛皮で出来たテントに入る。ぽかぽかとまではいかないが、寒さは遮断されている。中央に太い糸で編んだ青いマットが敷かれ、クッションらしきものがある。
「座ってくれ」
「はい」
ノーボーダーズの長は彼女たちの言葉を脳に叩きこみ、何が必要かを分析し、仲間にやるべきことを示し、行動に移さなければいけない。エインゲルベルト・リンナエウスは真剣な表情で彼女達と向かう。
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