第13話 活動終了

 ティラカにあるキャンプ地で支援を行い始めてから半年後。エイル達はドラグ王国に戻る日を迎えていた。半年も経過している事もあり、季節は冬になり、白くて冷たい雪が空から降って来る。既にこの国の大地は真っ白になっている。こうなると国民はある事をし始める。

 

 フィー公国の雪を食べるのだ。美味しくてほんのりと甘いからだ。その事もあってか、雪菓子と呼ばれるものが存在し、名物のように扱われる事もしばしば。味わって欲しいという気持ちがあるため、出発する時間より前に、ラークスパーから、


「まあ帰る前に名物をいただかないのもあれですし」

 と言われ、黒い木の器に小さい山と化した雪の塊と赤いシロップを渡され、エイル達はもそもそと食べていた。


「まさかこの寒い時期に冷たいものを食べるとはな」


 マチルダは初体験だ。一番戸惑っていたのは彼女だ。それでも捨てるのはだめだと、パクパクと口に入れている。


「美味しいけど、体が冷えるのが欠点だな」


 青年に分類されるエイルですら、この寒い時期に雪を食べるのはキツイ。


「一応魔術使ってるけど……どう?」


 ヴィクトリアがただの石に魔術で付与をし、周りを暖めてくれるので、どうにかなってはいるが。


「ああ。助かる」


「予定はどうなってるのかな? 大きい仕事をした後は女王様の城に赴くのが慣習だと聞くけど」


 数秒で完食したダンデが今後の予定を聞いてきた。エイルは来たばかりの手紙を見て、確認する。公国からだ。正式だと妖精文字しか書かないと聞いていたが、人間である彼を考慮して、彼でも読める文字を使用している。ひと通り目を通して、答える。


「確かにお前の言う通り、ティターニア様のとこに行くのが通例なのだが、今回はすぐに帰ることになる」


「あらまあ。珍しいわね」


 ある程度周辺の他国を知っているルーシーは生姜を入れた茶を飲みながら言った。お茶を積極的に飲み、氷を溶かしている辺り、相当体が冷えているようだ。


「もう少し強く出来るか」


 察したエイルは魔術師のヴィクトリアに頼む。


「ごめん。これ以上は無理」


 申し訳ないと顔に出ている。


「良いわよ。話、続けちゃって。こっちはどうにかするから」


「分かった。さっきの話を続けよう。あちら側から手紙が来た。確かにダンデの言う

通り、他国から来て、ここで大きい仕事をした場合、帰る際に女王様の城に訪れるのが慣習だ。だが今回は無しだ」


「流石に冬だからないか」


 フィー公国で働いた他国出身者は帰国する時、女王ティターニアがいる城に赴き、挨拶をする慣習がある。行われる時期は春から秋まで、雪が降り積もる冬はない。妖精の城は山頂にあり、道に雪が大量に降り積もっているからだ。負担をかけさせたくない意向のようだ。


「そういうことだ。少し席を外す。返事の手紙、書いてくる」


「手伝うわよ?」


 ルーシーが右手を挙げて、手伝いの立候補をする。魔術を使用し、体温を上げたのか、頬が赤くなっている。笑顔なのは相変わらずである。


「いや。ティターニア陛下相手に何度もやっている事だ。特に心配は……おい。ヴィクトリア、その目は何だ」


 ドラグ王国以外に旅した事のあるエイルはガレヌスと共に王と対面したことがある。手紙のやり取りも経験済みである。失礼に当たるような言葉を使う事はまずない。普段のエイルの口の悪さを見ているので、信用出来ないのも事実だが。


「心配する気持ちは分からんでもないが、あれでも国王陛下と会ってるんだぞ。問題はないはずだ」


 意外にもマチルダがフォローに入っていた。若干毒が入っているように思えるが、気のせいだろう。


「そう言えばそうだったわね。馬車が来るまでに間に合いそう?」


「ああ」


 ティターニアへの返信を早急に送り、荷物をまとめ、出発する準備が終わった。見送りに来たラークスパーが代表として言葉を彼らに送る。


「今まで私達の手伝いをしてくれて、ありがとうございました。これからあなた達の通る道は険しいでしょう。それでも歩み続けると信じております。妖精の加護があらんことを」


「こちらこそお世話になりました」


 短く別れを告げ、エイル達はドラグ王国に戻った。王に挨拶をし、報告書を書くわけだが、


「あら。ヴィクトリア。数が間違ってるわよ」

「え!?」


 とこのように魔術師が苦戦していたのもあって、予定日より1日遅くなった。暖かい建物の中、見守られながら、書き終える事が出来た。


「これで大丈夫なのかしら……」


 完成した物の質が良くないと感じているヴィクトリアは頭を抱え込んでいるが、転移陣設置について事細かに書かれている書物は早々ないだろう。


「素人で申し訳ないが、ここまで書かれてるだけ凄いと思うぞ。私は」


 マチルダは彼女達が書いた物を見ながら言った。


「それに関しては同意かな。ああ。エイル、お代わり」


 既に読んでいたダンデはお茶のお代わりを要求。エイルは立ち上がる。


「自分で入れろ。今から出しに行く」


「私も付いて行くわ! 遅れたの明らかに私のせいだもの」


 責任感を感じたのか天才魔術師も付いて行くみたいだ。


「丁度良い。私も付いて行こう。知り合いがそちらにいるからな」


「途中まで同行させていただこうかしら。珍しいの取り扱ってる店があるもの」


 マチルダもルーシーも別件で同行するようだ。


「それじゃ俺も行こうかな」


 ダンデはただ面白そうだからだろう。


「……何で全員付いてくんだ」


 ため息を吐きながらも、拒否する気配はない。1人で大陸を旅してきた頃と違い、

賑やかだなと思いながら、寒い外に出て行くのだった。

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