初めての活動
第6話 王の計らい
白の大理石。金色の華やかな装飾。カラフルなステンドグラス。歩くところは赤いマットが敷かれている。ここはドラグ王国の城の玉座の間だ。王直々に呼ばれたエイルは1人で会いに来たのだ。
「お初お目にかかります。ガレヌスの弟子、エインゲルベルト・リンナエウスと申します。あなたにお会い出来て光栄に思います」
普段とは違い、丁寧な言葉を使い、王の前で姿勢を低くする。座っている王は顔に皺があり、髪の毛が白い男性で、既に歳は70を超えている。金の王冠を被り、首元にふわふわとした何かがあり、黒色のきっちりとした上下服を着たご老人である。
「顔を上げよ。ただ会いたいがためにこちらで話し合っているわけではない」
力強い声が響く。
「書類を確認した。国境を越えての活動。周りの国ではないもので恐らくどの大陸でもない団体だろうな。どのような団体でも書類を確認後、認めているのだが、前代未聞故、すぐに許可は出せぬ。面倒な考えを持つ貴族がおるからな。こちらも一枚岩ではないのだ。説得は私に任せて欲しい。ガレヌスに救われた恩、この機会で返しておきたいからな」
この組織を作るという宣言をして、すぐ活動出来る程甘くないのが、この世界の現実である。エルフやゴブリンなど、妖精を祖先とし人間と似た生命体、亜人と呼ばれる者を快く思われていない人間が一定数いるからだ。
ほとんどの組織は国内で活動し、亜人と関わる機会がないに等しいため、書類出しただけで問題はない。しかしエイルが設立する救助団体は亜人も助け、治療していく方針のため、一部の人から良く思われていないのだろう。国内だけの話ではない。他国の偉い所も似たようなものだ。
「分かりました。あなたが協力してくれるだけでありがたいです」
「なに。ただの恩返しだ」
王は優しく微笑む。
「お話途中、緊急連絡が来たので、失礼いたします。殿下。東の隣国のフィー公国から応援要請が来ております」
後ろに赤いコートを着た華やかな貴族らしい男性が入ってきた。息を切らしている。急いで走って来たのだろう。握ったまま走ったのか、紙がぐしゃぐしゃになっている。
「あ。お話途中、すまない」
平民相手に貴族とは思えない行為をした。丁寧なお辞儀だった。
「お気になさらず。先のそちらの件をしてください」
外交の話であると察したエイルは譲る。
「分かった。感謝する」
貴族は早足で王の元に行き、紙を丁寧に伸ばし、渡した。
「ふむ。そう言う事か」
「いかがなさいますか。こちらにそこまで出せる余裕はありません。物資の提供ぐらいしか出来ないと思いますが」
王はエイルを見つめる。何か企んでいるのだろうかとエイルは警戒する。
「流石に身構えてしまうか。奴にこれを渡せ」
読んでいた紙を貴族に渡す。
「っは」
「それとだ。エインゲルベルト・リンナエウス」
何故か王はエイルの名を言う。
「はい」
「お前たちに命ずる。フィー公国のティラカにあるキャンプ地に行き、治癒魔術師達と連携を取り、支援をしろ」
まさかの依頼要望だった。意外な展開にエイルは目を大きく開いて驚く。王は不敵な笑みをする。
「ひとまずは形としてドラグ王国から派遣されたと報告しておこう。研鑽してゆくといい」
「ありがとうございます!」
王へ感謝の言葉を全身全霊で言い、
「失礼しました!」
力強い声でそう言った後、退室した。
ドラグ王国の東にあるフィー公国ティラカにあるキャンプ地の支援。記録上ではドラグ王国からの指名でエイルを含む数人が派遣されたと書かれているが、事実上、エイル達救助団体の初めての活動である。
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