第二話 緊急会議


 セバスが俺を呼びに来た。


 謁見の間に皆が揃ったとの知らせだ。


 準備は終わっているので、謁見の間に隣接している控えの部屋に入る。

 そこで、俺の案内はセバスからミアに引き継がれる。


「魔王様」


 珍しく、ミアから話しかけてきた。俺の返事を待たずに、跪いて頭を下げる。


「どうした?」


 ミアが頭を上げる。


「魔王様。この度の作戦・・・。私にお任せ願えないでしょうか?」


 ミアは、俺が想像した通りの申し出を行った。

 セバスがミアに引き継いだ時点で、ミアが言い出すのは解っていた。セバスも承諾しているのだろう。


「ミア。それを、今から話し合うのだろう?」


「・・・。はい!」


 俺としては、ミアたちが行きたいのなら、ミアたちが主体で動けばよいと思っている。


 謁見の間には、皆が揃って居る。

 玉座になっている椅子までは、ミアが先に歩いていく、俺が指示を出したわけではないが、なぜか、ミアかセバスが先導する。先導した者が手前に立ち、先に居る者は、奥に立っている。今日は、セバスが奥に居る。


 ミアが、玉座の横に辿り着いたら、跪いて俺が前を通るのを待つ。ミアが跪いたタイミングで他の者も跪く。


 俺が玉座に座ると、今日ならミアが立ち上がって、皆に立ち上がるように伝える。最初は、俺がすべきことだと思ったが、俺は何も言わなくてもいいように、セバスやミアたちが手順をまとめている。

 ”儀式”だからと、セバスに説明された。俺は、面倒だと思っているが、セバスたちが”必要な事”だと認識をしているのなら、従っておいた方がいいだろう。俺には解らない何かがあるのだろう。


 セバスが宣言を行う。

 集まった者の名前を呼んでいく、呼ばれるまで、跪いたままだ。


「魔王様。カンウとヒアを除き、皆が揃っております」


「カンウは、まだ戻らないのか?」


「はっ。ミア」


 セバスではなく、状況の説明はミアが行うようだ。


「カンウ様とヒアは、威力偵察に出ています」


「ん?威力偵察?」


 バチョウは、出席している。

 カンウとバチョウが、王国に行くことになっていたはずだ。


「はい。バチョウ様からご報告があります」


 名前を呼ばれて、バチョウが一歩前に出る。


「王国内で、不穏な空気があり、ヒアがカンウと一緒に偵察に出かけました」


「それはわかった。なぜ”威力偵察”になった」


 バチョウを睨むように見る。

 セバスとミアを睨んでみるが、答えは返って来ない。


「バチョウ」


 セバスが、バチョウに説明するように名前を呼ぶ。


「カンウが、偵察ができるわけもなく、カミドネ町に向っていた部隊を潰して・・・」


 バチョウの必死の言い訳も、要約したら、出たとこ勝負になっているが、勝つだけなら問題はないと判断して、部隊を潰しながら情報を集めることになったようだ。別に咎めないし、問題ではない。俺たちの存在が公になれば、カミドネの森に居る獣人が安全になる。

 俺たちのダンジョンに攻め込んでくれるのなら、問題はない。

 返り討ちにすればいいだけだ。


 カンウとバチョウで話をして、ヒアを連れて行ったのは、獣人の関与が疑われるようなチーム編成を避けたかったらしい。


「ルブラン。ミア。補足や訂正はあるか?」


「ありません」「ございません」


 二人は、揃ってバチョウの説明で問題がないと宣言した。


「モミジ。何か、問題はあるか?」


「ありません」


 3人に聞いて問題がなければ、大丈夫だろう。


「わかった。それでは、状況の説明と、作戦の説明を頼む」


 ミアが、一歩前に出て、状況の説明を始めた。

 セバスが、ミアに教えていないと言っていた事も、ミアの口から説明がされたので、ミアにも情報が渡ったのだろう。


 どうやら、神聖国が旗振りをして、連合国と王国からも兵を出して、カミドネとルブランの両魔王の討伐を行う作戦が立案されたようだ。


 邪魔になるのは、帝国だけだという認識で、まだ残っている帝国の人族主義の貴族を先導して、帝国の動きを封じてから、カミドネとルブランのダンジョンに同時に攻め込む作戦のようだ。


 カミドネには、神聖国と王国の一部が向かい。カプレカ島を王国が抑えて、神聖国の一部と連合国がルブランのダンジョンを攻める。


 数は、不明だが、20-30万ではないかと予測されている。


 同時と言っているが、足並みが揃っていない。

 その為に、威力偵察という名前で、カンウが先走りしても大きな問題にはならない。


「ミア。作戦は?」


「魔王様。私の作戦でよろしいのでしょうか?」


「まずは、ミアの作戦を聞きたい。そのうえで、皆の意見を聞いて、決定する」


「わかりました!」


 ミアの作戦はシンプルだ。

 神聖国には、アンデッドが有効だと判明している。その為に、神聖系のスキルに耐性を持たせたアンデッドたちの部隊をぶつける。カミドネ配下のトレスマリアスがまさに作戦には丁度よい。森の中に展開されてしまっている者たちは、眷属のキャロとイドラが対応する。進化したキャロとイドラで十分に対応が可能だが、遊撃として、ベアとマアとラアがカミドネの森に進軍して、正規の部隊によるゲリラ作戦を決行する。

 トレスマリアスが、侵攻してきた者たちを駆逐する。駆逐が完了した場所から、神聖国の領地を削る。領有化は、カミドネと眷属のフォリに任せる。神聖国が領有している森をできる限り削るのが今回の目的になる。前回の戦いでは、森の中を流れる川までしか領有として認められなかったが、森の全てをカミドネの領域にしてしまう。そのうえで、堀や柵や壁で領有を主張する。川を渡った先の森は、アンデッドの森として形成する。


 連合国は、先の戦いで大きなダメージを受けている。

 この戦いでも、お茶を濁すような戦いの可能性がある。ミアの作戦は、この際だから、連合国を徹底的に叩いてしまうことだ。俺たちのダンジョンに接しているのは、王国も皇国も手出しの機会を狙っているだろう。王国の”エルプレ”を徹底的に叩いて、逃げるように仕向ける。呼び寄せて叩くのは、以前に行ったので、今度は集まる前に攻撃を仕掛ける。ナツメとキア。カエデとシア。バチョウとロア。3組が、それぞれの部下を率いて、奇襲を行う。そして、カルカダンとヴァコンとオラブルなどの上位の国を潰してから、合流したエルプレと神聖国の一部を3方向から攻める。戦略レベルは、単純な作戦だが、戦術レベルでは調整や連絡など考えなければならないことが多い。

 3つの部隊は、合流してからエルプレ国に潜入して、エルプレにあると思われているダンジョンを攻略して、ダンジョンマスターを倒してしまう。カミドネの様に命乞いをしても討伐する。そして、エルプレにダンジョンがあると、連合国や他国に喧伝する。

 上手くすれば内乱だ。失敗しても、連合国の力がそがれる結果になる。攻略が失敗しても、ダンジョンがあることが知れ渡れば、風向きも変わるだろう。


 王国は、モミジとミアが威力偵察を行っているカンウとヒアに合流して、そのまま攻め込んできている部隊を強襲する。

 威力偵察からの、ゲリラ作戦だ。王国の強さは、カンウとヒアが暴いている。二人での威力偵察で問題が無いのであれば、戦力は怖くないだろう。個で強い者の存在は懸念すべき事案だが、進軍を止めるのが目的であり、殲滅が目的ではない。

 4人での潜入になるが、4人なら逃げ帰ることはできるだろう。他と違って、部隊は連れて行かない。 

 神聖国と連合国を潰せば、王国だけなら閉じこもってしまえば怖くない。


「他の者で、ミアの作戦に訂正や補足はないか?」


 皆を見回す。


 セバスが一歩前に出る。


「大筋は、ミアの作戦で大丈夫だと思われます」


「あぁ」


「帝国で内戦が発生すると、カプレカ島や城塞村が不安定になってしまいます。私が、城塞村に赴いて対処をいたしましょう」


「うーん。却下だ。ルブランは、俺の近くで戦況をまとめる役目を与える。帝国は、城塞村に情報を流して、自分たちで対処させろ」


「魔王様。それでは・・・」


「ルブランの心配はわかるが、ダメだ。ボイドに情報を流して、対処させろ。帝国内部での処理が難しくなってしまったら、その時に改めて部隊を編成して向わせろ。ヒアとミアの種族の連合だ。帝国の人族主義者には皮肉に思えて丁度いいだろう」


 セバスが、納得して一歩下がってから頭を下げる。

 ミアも、頭を下げる。


 戦術は、各々の部隊をまとめる者に一任する。

 セバスに報告をまとめさせることにきまった。決まった事を、モミジがすぐにまとめて、関係者に渡される。


 作戦の開始は、準備ができた者から実行することに決まった。

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