第四章 連合軍

第一話 緊急招集?


 説明を終えたミアは、座りなおして、背筋を伸ばしてから深々と頭を下げる。


 内容の精査をするという理由で資料はテーブルの上に残してもらう。ミアにはこれから行う会議での資料を準備するように指示を出す。

 ミアは、新たな仕事が貰えたことに喜んで、部屋から出ていく。


 セバスには残ってもらった。

 ミアには、残っているメンバー眷属を塔の最上階玉座に集まってもらう様に指示を出した。


 ミアが部屋から出たのを確認してから、もう一度セバスには俺の正面に座ってもらう。


「セバス」


 ミアが居る時には見せなかった微笑だ。ミアたちの前では、”ルブラン”呼びになってしまう。やはり、セバスと呼ばれるのが好きなのだろう。

 前に聞いた時には、”心が縛られる感じがして心地よい”のだそうだ。真名マナで呼ばれるのは、””だけなので、それが心地よいのだろうと勝手に解釈している。


「魔王様」


 セバスの目線が何かを訴えている。

 報告の中に含まれていないが、重要な何かを握っているのだろう。


「ミアには言えない事でもあるのか?」


「はい・・・。いえ、ミアたちには、聞かせるべきか迷っているだけです」


 ”ミア”と表現したことから、ミア一人に関係することではないのか?

 獣人に関することか?

 でも、獣人族に関係することなら、ミアに聞かせても問題にはならない。他の獣人たちも同じだ。


 そうなると、どこかの獣人族の集落に関する問題か?狙われているのは集落単位か?


「獣人族の集落か?」


「はい。王国内にあった獣人族の集落と連絡が取れなくなっています」


 いやな想像は当たりやすい。

 問題は、”王国内”ということだ。俺たちが領有している場所に接している王国。


 動向は探っていたが、無礼者が時々、流れて来るだけで、軍事行動が無かったのであまり警戒をしていなかった。


 獣人族の集落で問題が発生したのなら、ミアは兎も角・・・。他の者が飛び出してしまう可能性がある。

 それを停める必要は無いのだが、不確かな情報では意味がない。だから、ミアたちには聞かせないで、俺に相談をしてきたのだな。


「ん?王国?それに、その情報は?」


 王国内?

 セバスが俺に報告を上げてきたのなら、ある程度の裏は取れているのだろう。


「魔王カミドネの支配領域に逃げてきた獣人族からの情報です」


 逃げてきた?

 避難民が増えているのは報告で聞いている。


「そうか・・・。ん?そもそも、カミドネの所に居るのは、逃げてきた獣人だよな?」


「はい」


 逃げてきた獣人族が、他の獣人族と連絡を取っている?

 逆ならわかるが、逃げてきた先から、別の場所に?自分たちの場所を知らしめるような行動をとったのか?


「王国内の獣人族と連絡を取っていた?」


 連絡を取るのにも、カミドネが何か与えたのか?

 それなら、多少は安全にはあるだろうが、相手側にも存在を知られるようなことになってしまう。


「はい。獣人族の集落としては、自衛の意味が強いようです」


 自衛?


「自衛?」


 余計に意味が解らない。

 俺が勘違いをしているのか?


 魔王カミドネの領域に移り住んだ獣人族から連絡をしたのではないのだな。

 自衛というのなら、獣人族が集落単位で連絡を密にしていたのか?


「逃げられる場所の確保です」


 そうか・・・。

 やはり、外部からカミドネの領域に移動してきた獣人族の集落に連絡をしていたのだな。


「あぁそれで・・・。ん?カミドネの領地には、獣人族の集落が出来ているよな?」


 集落が大量に出てきているのか?

 獣人族は、種族での結束が強いと聞いている。


 俺の領域が異常なだけで、実際には集落単位での小競り合いも発生すると聞いている。


「はい。すでに、1万に届きそうな人数です」


 1万?


「ん?1万?定住が?」


 1万だと、一つの集落は20人程度で、多くても100人だとミアが言っていた。


 集落の人数が、平均50人程度だとしても・・・。


 200の集落が出来ている?

 あの森に?


「はい」


 そうか、1万か・・・。

 俺たちの領域には、島しか自由に住める場所は用意していなかった。


 難民となった獣人族は、カミドネの所に流れたのか?

 それとも、様子見していた者たちが、”森”の中に移り住んだのか?


 理由は解らないが、カミドネの所に人が増えているのなら、問題はないよな。ポイントも黒字になっていると聞いている。他の魔王が、なぜやらないのか解らない。何か、理由があるのか?


「あぁすまん。それで、王国内にあった獣人族の集落との連絡が途絶えたのだったよな?」


 セバスが、俺を見つめている。

 自分の思考に嵌るのは後でできる。今は、セバスから解っていることを聞くのが大事だ。


 何か、対処を行っているのだろう。

 含めての


「そうです。カンウとバチョウが一緒に王国に向う予定です。キアとロアとベアを連れて行くことになっています」


 カンウとバチョウが向うのなら問題は、相手が生き残れるのかって所だろうが、俺たちに被害がなければ問題はない。


 キアとロアとベアか・・・。それにカンウとバチョウ・・・。

 四天王の武闘派(穏健派が居るとは思っていない)。ナツメやカエデに言いくるめられて、ストレスを発散するために・・・。なんて、ことはないと思いたい。


 また、何か問題を拾ってきそうだな。

 対応が難しいレベルでないのが、奴らが拾ってくる問題の困るところだ。


「大丈夫なのか?」


「マアとラアも一緒に向っています。戦力は十分だと判断しました」


 前衛と後衛と斥候が揃ったって事だな。

 7人か、キアが連絡係として残るか?ラアが後方支援を行えば、安全性があがる。


 完全に戦闘の為のメンバーだな。


「王国はカンウたちが帰ってきてから聞くとして・・・。帝国の防衛にも人員が必要だろう?」


 帝国への支援が必須だと思っていたが、神聖国を甘く見ているのか?

 実際に、俺たちの戦力を出せば撃退は可能だろう。


 神聖国にあるダンジョンの攻略が可能だとは思わないが、それでも、神聖国からの攻めてくるのが、ルブランの所に来た程度なら撃退は可能だろう。


「そちらは、魔王カミドネが支援を行います」


 支援か?

 そうなると、本隊は帝国か?


 まぁ当然だけど、大丈夫なのか?


「それこそ、大丈夫なのか?支援だけなのだろう?」


「大丈夫だと判断しました。トレスマリアスがアンデッドを率いて神聖国を縦断します」


 あぁ・・・。

 確かに支援だな。帝国に攻めるどころではなくしてしまえという乱暴な手法だけど、有効だな。


 トレスマリアスは、確か三人姉妹だったな。

 アンデッドを使う戦略なら被害は少ないか?確か、使役ができるのだったよな。神聖国の真ん中をアンデッドが通過する?


 百鬼夜行だな。


「帝国にも増援は必要だろう?そちらは?」


「モミジを向わせます」


 多分、モミジだけではないのだろう。さっきの感じから、モミジとミアとヒアか?それとも、シアをつけるか?

 モミジだけでも十分だろう。眷属を連れて行けば、撃退は可能だろう。最悪な場合でも、撤退は大丈夫だろう。


「わかった。残った連中を、集めてくれ、カミドネかフォリにも参加要請」


 カミドネからも現状を聞きたい。

 獣人の集落の現状は把握が出来ているのだろう。


 神聖国との戦いなら、俺よりもカミドネの方が長けている。

 状況次第では、セバスに出てもらう可能性がある。


 セバスには、王国や皇国への対応を行わせる必要がある。

 情報が少ないのが不気味だ。


 バチョウたちが何かを持ち帰ってくることを期待しよう。面倒ごと以外ならどんな些細な情報でも歓迎だ。


「かしこまりました」


 セバスが立ち上がって、俺の前に置いてある空になったカップを持って立ち上がった。

 そのまま、部屋を出ていく、洗い物なら俺がしておくのに、セバスと二人だけの会談の終わりでは、必ずセバスはカップを持って退室する。


 俺も、解っている情報だけでも整理しておくか・・・。

 ルブランが来るには時間が必要だろう。呼び出されると思っていたとしても、1-2時間は必要だろう。


 皆が集まれば、セバスが俺を呼びに来るだろう。

 それまで、領域の状況を確認しておこう。

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