第二話 元奴隷の日常


「お姉ちゃん。おはよう」


「メイ。おはよう」


 ルブラン様。違った、魔王様から、呼び名を貰った、本当の名前は、”家族から貰ったものだから大事にしなさい”と言われて、普段は魔王様から貰った名前で呼び合うことに決まった。

 家族も大事だけど、私は魔王様から貰った、”メア”という名前がすごく、すごく、すごく、大事だ。


「うん!」


 妹も、貰った名前を気に入っている。


「メイ。今日は、学校だね?」


「うん!ヒカと一緒に行ってくる!」


 ヒカは、人族の子供だ。メイが、よく一緒に遊んでいる。

 村に居た時には、人族と”遊ぶ”なんて考えられなかった。でも、奴隷になって、魔王様に救われた時に、種族で差別をするなと教えられた。皆が同じことを言われた。人族は、狐人のことを”狡猾”だと思っていた。私たちは、”狡猾”じゃない。確かに、”狡猾”な人も居たかもしれないけど、それは人族も同じだ。だから、種族で差別をしないで、人で判断しなさいと教えられた。


「しっかりと勉強をしてきなさいね」


「うん!」


 メイは、学校がある日には、早く起きる。今までも、早く起きていたが、あれは早く起きないと打たれたり、何も食べられなかったり、水さえも無い場合があったからだ。でも、今は違う。楽しみで早く起きて、着替えをして、身支度をして、時間が来るのを待っている。

 学校が楽しみでしょうがない様子だ。

 勉強は、苦手な様子だが、新しいことを覚えるのは好きだと言っている。友達も出来たと、夕ご飯のときに教えてくれた。メイは、将来を決めていない。学校の関係者や、ヒア人族の族長に聞いた話では、メイはスキルの素質が有るようだ。火に関わるスキルが特に得意だと教えられた。特殊な弓矢を使えば、火を纏った状態で獣を射抜くことが出来るようだ。


「お姉ちゃん!お引越しは、明日?」


「うーん。ルブラン様からは、いつでもいいと言われているのだけど・・・」


 本当は、ルブラン様からは早めに引っ越してくるように言われている。

 また、帝国が魔王様を討伐するために、魔王城にやってくる。4-5日後には、森の外周部に到着する。


「あ!そうだ。お姉ちゃん。ルブラン様から、私も”一緒に、来ていい”と言われたよ!」


「え?ルブラン様から?」


「うん。お姉ちゃんが、ルブラン様のお手伝いをしているときに、お部屋の掃除を頼まれた!でも、一人用の部屋だから狭いと言われて、お姉ちゃんと相談しなさいと言われた」


「メイは、どうしたい?私は、ルブラン様のお手伝いをするから、部屋に居ないことも増えるよ?」


「メイは!お姉ちゃんと一緒に居たい。部屋もモミジ様が、島にある宿よりも広いって教えてもらった!」


 メイと一緒に居られるのなら、迷うことはない。


「わかった。ルブラン様に、ご確認してみる。大丈夫だったら、明日には引っ越しをしよう」


「わかった!あっ!ヒカが来たみたい。学校に行ってくるね!」


 ドアをノックされている。迎えに来てくれたのだろう。

 魔王様からの指示で、島に行くときには、女子は一人では歩かないように言われている。理由は教えてもらっていないが、女子だけの場合には3人以上で行動しなさいと、指示を貰っている。男子は二人以上。女子と男子なら、二人でも大丈夫だと言われている。メイは、ヒカと二人で学校に行くことが多い。習っている内容が重なっているのだ。


 魔王様から指示が出されたときに、ヒアが、訪ねてきて、ヒカを紹介された。ヒカは、ヒアの”弟のような”人物だと紹介された。同じ場所で育ったと教えてくれた。ヒカを送ってくる時に、ヒアも一緒に来る。ヒカとメイが島に向かうのを見送ってから、私とヒカは、ルブラン様のところに一緒に向かう。一緒に行く必要はないが、ヒカが誘うので、流れで一緒に向かっている。


「お姉ちゃん!行ってきます!」


 ヒカとメイが、転移場に走るように急いでいった。急がなくても、時間は大丈夫なのだが、授業が始まる前に、カンウ様やバチョウ様が訓練をしてくれる。お二人に、一撃を入れられたり、攻撃を避けたり、攻撃を褒められると、ご褒美が貰えるらしい。年少組では、難しいのは当たり前だけど、お二人は適度に力を調整してくれるので、訓練にちょうどいいのだと、ルブラン様から教えてもらった。


「メアさん。今日は?」


「ヒア。何度も言っているけど、私に”さん”は付けないで!」


「え?あっごめん。メア」


 ヒアは、私だけ”さん”を付けて呼ぶ。なんかイヤだと言ったら、緊張してしまうのだと告白してきた。それは、もっとイヤだ。私が、ヒアをいじめているように、皆に思われたら悲しい。慣れてきたら、大丈夫だと言っているが、皆が居るところでは、”メア”と呼んでくれるけど、二人だけになると、”メアさん”に戻ってしまう。なぜか、分からなかった。ルブラン様にご相談したら、私が気にする必要はないと言われた。


「いいよ。ヒアは、今日は、モミジ様のところ?」


「今日は、バチョウ様を手伝うことになっている」


 そうなると狩りに行くのかな?

 ヒアは、ロア狼人の族長と違って、狩り班には入っていなかったよね?バチョウ様に呼ばれたのかな?


 でも、お仕事の内容は、あまり聞かないほうがいいよね。


「そう。私は、今日もルブラン様のお手伝い。そうだ、ヒアは、お引越しはどうするの?」


「え?メアは?カンウ様から・・・(メアさんの隣の部屋が空いていると言われて・・・)」


「ん?私?今日、ルブラン様に、ご確認して決めるつもり、メイがルブラン様から一緒に来てもいいと言われたみたい。メイと一緒ならどこでもいいと思っていたし、ルブラン様も早めに引っ越して来なさい。と、おっしゃっていたから・・・」


 ヒアがなんだか、表情を曇らしている。理由がわからない。


「そう・・・。近日中には引っ越しをしないと・・・。カンウ様には、早く部屋を選べと言われているから・・・」


 カンウ様に言われているのなら、早くしないとダメだよね。


 話しながら歩いていたら、転移場にたどり着いた。


「あっ僕は、バチョウ様に訓練場に呼ばれているから・・・」


「うん。私は、ルブラン様に資料の整理をご命令されている!こっちね。また。後でね」


「あっ・・・。うん」


 ヒアと分かれて、ルブラン様に指定された番号の転移門を発動させる。

 出たところは、魔王城の最上階だ。


「ルブラン様」


「メア。ご苦労さま」


「はい!ありがとうございます」


「今日は、居住区に移動してもらいます。付いてきて下さい」


「はい!」


 居住区とは、魔王様がいらっしゃる場所だ。

 私たちが引っ越しをするのは、魔王様の居住されている部屋の隣室になる。


 ルブラン様について歩いていく、本当に綺麗な人だ。


「あっ!ルブラン様。メイが・・・」


 なんと、お聞きすればいいのか迷ってしまう。


「聞きましたか?魔王様から、部屋が狭くなるけど、問題がなければ、二人で使って良いと言われまして、メイに伝えました。どうしますか?」


「!!ルブラン様。ありがとうございます。メイと一緒に、引っ越しをしたいです」


「良い返事です。でも、お礼は、魔王様に言いなさい」


「はい!わかりました」


 ついていくと、転移門ではない方法で、地下まで移動するようです。

 坂道になっていて、最上階から地下まで降りられるようになっているようです。本来なら、罠が設置されていると説明されました。解除方法を覚えておけば、大丈夫だと教えられました。


 地下に着いたら、今日は本の読むように言われました。

 魔王様の本は、私には読むことが出来ません。スキルを使って読むようなのですが、私たちでも読めるように、簡単な本を渡されて、読んでみなさいと言われました。読めないのが当たり前だから、1ヶ月だけ頑張ってみて、読めた物だけ報告しなさいと言われました。


 村に住んでいる時には、本に触れられなかったけど、さすがは魔王様です。本が、100冊・・・。ううん。もっと沢山の本があります。

 そして、すごく綺麗な絵が書かれている物まであります。触ったらダメかと思ったら、魔王様が笑いながら、これで勉強しなさいと渡された本にも、すごく綺麗で可愛い絵が書かれています。

 ルブラン様を見ると頷いてくれたので、両手で本を受け取って、胸にかかえてしまいました。すごく嬉しい。


 注意点として、自分の部屋以外には持ち出さないようにしなさいと言われました。

 それから、ルブラン様から、魔王様が使われる文字と本にかかれている文字の対応表?を頂いて、本を読むお仕事を開始します。

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