第二十九話 帝国


 俺の討伐部隊が攻め込んできてから、3ヶ月が経過した。

 魔王城(仮称)は、今日も平和だ。


 帝国からは、奴隷と関係者が、200名ほど連れられてきた。同時に、違法奴隷を扱っていた商人や貴族も連れられてきた。”好きにしてよい”と言われた。元奴隷たちに聞いたら、殺したいほど憎んでいる。


 父親を、母親を、家族を殺された。

 妻を目の前で犯された。

 恋人を殺された。

 子供を殺された。


 攻め込んできている者たちの中に、獣人や多種族を奴隷にするために、町や村を襲っていた者が居た。しかし、奴隷たちは、商人や貴族たちの処遇を魔王である俺に一任した。自分たちは、”違法奴隷を扱った者たちとは違う”と言っている。

 しかし、指示を出していた者だけは許せない気持ちになっているようだ。その者は、ヨストという名だと、帝国からの使者が教えてくれた。


 帝国とギルドから、使者が来た。2つの組織の動きは早かった。帝国は、まずは帝都に居る違法奴隷を連れてきて、魔王に面会を求めてきた。ルブランが対応して、奴隷たちを受け取り、その場で”解呪”を行った。連れてこられた、商人の半数が、身体を無数に殴られたような痣が出来て、体中の骨が折れて、足や手に刺し傷が出来て、体中が傷だらけになった。


 死ねた者は幸せだったかもしれない。死ねなかった者は、森に縄で縛られた状態で放置した。


 帝国には、攻め込んできた者たちの迷惑料と奴隷への慰謝料として、食料を要求した。

 帝国は、攻め込んできた者たちの安否確認はしてこなかった。帝国は魔王に敵対はしないが、貴族の私兵や、名誉や財宝に目が眩んだ者たちが攻め込む可能性があるが、”帝国とは関係がない”と宣言してきた。攻め込んできた者は、俺たちの好きにして良いということだ。


 奴隷が増えて、ポイントも溜まった。

 帝国から、食料が届いたが、子どもたちは、俺が提供した物の方が美味しいので嬉しいようだ。住民が増えたから、簡単に食料の提供が出来ない。ポイントには余裕があるが、自立させたほうがいいだろう。

 元奴隷の大人も居ることだし、農業をやらせる。肉は、狩りで確保する。幸いなことに、食べられる魔物を、森に放っている。ポップするだけではなく、自然に増えている。カンウとバチョウに鍛えられた者たちが、森に入って狩りをして、肉を供給するようになった。


 ポイントが溜まったから、出島?島?を作った。ダンジョンが作られている。50階層だ。俺も挑戦したい。娯楽と考えるには、危険すぎるが、魔王の所業だ。許して欲しい。


 ダンジョンがある島は、セバスたちには絶賛された。

 遊びでセバスたちも攻略を行っている。少し・・・。本当に、少しだけ羨ましい。簡単にクリアしていくので、悔しくて、40階層以降の罠は、魔王城(仮称)のように連動する罠を配置してしまった。


 ギルドも、魔王には手を出さないが、”ダンジョンを利用したい”と打診してきた。”死んでも文句を言わないのなら好きに使え”とセバスに魔王感を満載で答えさせた。許可を出してから、ギルドの支部を作りたいと打診があった。許可は出したが、元奴隷に危害を加えたり、侮辱したり、差別したり、脅した場合には、ギルドや各国が庇おうが、”魔王城(仮称)に招待する”と宣言した。それも、もしパーティーを組んでいたら、パーティー全員の責任として処理を行うと付け加えた。ギルドの担当者は、それだけで意味が通じたようだ。他に、商人たちにも不正が見つかった場合には、同じ処理を行うと宣言して、島に入る前にギルドが責任を持って説明と契約を行うようにした。


 肝心の攻め込んできた連中は、1ヶ月くらいは頑張っていた。


 しかし、奴隷の識別が出来るようになり、奴隷になっている者たちを優先に捕らえて隔離し始めてから状況が変わった。今まで、奴隷にさせていたことも自分たちでしなければならなくなり、険悪なモードが漂い始めた。残っている奴隷を殺す者や、固まって廻りを警戒する者が出始めた。こうなると、攻略が進むはずがない。


 2階にも進めずに、討伐軍は瓦解した。


 奴隷たちは上位者の結束が弱くなっていると感じていた。サボタージュまではいかなくても、一人や数名で行動を行う。四天王たちに奴隷の確保を命じた。奴隷たちは直ぐに”解呪”を行う。ついには、奴隷を渡すから”出してくれ”と懇願する者も現れたが、奴隷だけを貰って、逃がすような事はしない。


 途中で、セバスの進言を受け入れて、スライムを配置した。スライムは最下層の魔物でポッドが存在していた。


 でも、殺されるのは気分が悪いので、スライムが討伐されるごとに、偉そうにしている奴の近くに居る者を殺すことにした。5人目を殺したところで、気がついてスライムを殺さなくなった。スライムには、悪いけど、奴らの排泄やゴミを綺麗に処分してもらう。死体を吸収する許可を出したら、喜んで実行するようになった。上位種を作った方が、統率が楽だと考えて、物理無効・スキル攻撃無効のスライムにスラムたちへの指示や運用を任せた。


 瓦解した後が酷かった。勝手に、殺し合いを始める始末だ。それでは、魔王城(仮称)の実験にもならない。


 偉そうにしている奴らを捕らえることにした。分離している一つの団体を捕らえるだけの簡単な作業だ。転移罠に誘導するだけでよい。荷物は置き去りにしておく、分裂した他の集団が物資を巡って醜い争いを始めるだろう。


 偉そうにした連中は、死なないようにして、魔王城(仮称)の2階に作ってある檻に閉じ込めている。最初は喚いていたが、誰も話を聞かない。食べ物も、奴らが奴隷に食べさせていたような物だけを与えている。服も武器も取り上げている。体中の毛を剃り落とした。


 捕らえた奴隷たちに、偉そうにしている奴らの首実検を行った。

 帝国から聞いていた通りの人物が、のうのうと生きていた。大物だが、殺すのは決まっている。殺し方だけが決まっていなかった。


 5番隊の隊長をしていて、奴隷たちの怨敵である。ヨストは、奴隷たちに任せることに決まった。皇太子?は、魔王らしく殺して、帝国に送りつけることになった。


 奴隷たちは、ヨストを殺さなかった。

 怨敵ではあるが、殺してしまうと、それで終わりだ。”苦しみ続けるようにして欲しい”と、魔王ルブランが頼まれた。


 他の捕らえた者たちも、殺すのは簡単だ。

 セバスやモミジや四天王の提案を受け入れて、効果が曖昧なスキルや罠の実験に使うことに決まった。


 2,000体ほどが死ねない実験体として、魔王城(仮称)の地下施設に捕らえられている。日々、実験に使われている。


 奴隷たちの争いや、子どもたちが初めての実践で大怪我をしたり、商人が値段をごまかそうとしてセバスたちに捕らえられたり、実験体が死にたいとうるさかったり、いろいろ有るけど、魔王城(仮称)は今日も平和だ。


 冒険者が、ダンジョンで死んだり、湖に落ちて死んだり、許可なく魔王城(仮称)に踏み込もうとして死んだりしているけど、魔王である俺が平和だと言っているので、平和に違いない。


---


 男は、椅子に座りながら、後ろから感じる気配に向けて質問をぶつける。


「それで?」


 窓際に人の影だけが映っている。

 影が主人である椅子に座る男性に返事をする。


「はっ。新しい魔王は、帝国の奴隷兵団と騎士団で構成された討伐部隊を殲滅しました」


「生き残りは?」


「3名です。それも、魔王の伝令に使われたようです」


「なに?」


「詳細は、暗部から提出します」


「わかった。それで?」


「ギルドにも探りを入れましたが、不明です。魔王は、女の魔族だと言われています」


「魔族?」


「だと思われます。そして・・・」


「どうした?」


「はっ。魔王城の城壁の中に、魔王が認めた者が生活をしています」


「・・・。そうか、我らの神と同じ発想なのか?」


「わかりません。しかし、魔王は、ギルドの情報官や、帝国のティモンの前に姿を現しています」


「なに?それは本当か?」


「はい。ギルドで確認をしました。また、島と呼ばれる場所にも、姿を現すようです」


「愚かな。支配されたいのか?」


「ギルドや帝国の暗部が魔王に手を出して、手痛い反撃を食らっています」


「解った。引き続き監視を続けてくれ」


「お耳に入れておきたい情報があります」


「なんだ?」


 椅子に座る男に、影は深々と頭を下げる。


「ありがとうございます。新しい魔王は、ルブランと名乗っています。そのルブランは、魔王城と島にエルフやドワーフやハーフリングだけではなく、獣を人として住まわせております」


「なに!本当なのか!」


「はい。島で獣の子供や大人を確認しました」


「わかった。真相を確認せよ」


「はっ」


 男は、振り返りもせずに指示を出し、残っていたワインをのどに流し込む。

 空になったコップを床に叩きつけた。

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