第3話 前にいる女

子供の頃の話なんですけど。

確か小学生くらいの夏休みの時でした。


彼岸花ってあるじゃないですか。

あれって木の棒とかで勢いよく切ろうとすると、綺麗に折れるんですよ。

それがすごい面白くて。

その日は友達2~3人と彼岸花がたくさん生えている場所に行ったんです。


最初は綺麗に彼岸花が切れるもんで、みんなでサムライごっことか言いながら遊んでました。

今思うと、誰の私有地なのかもわからないところで、そんなことするなんてよくないですよね。


しばらく遊んでいると、雨が降ってきたんですよ。

多分天気予報でも何も言ってなかったので、通り雨だったと思います。


それで今日はもう解散しようって話になりました。

僕以外の友達は自転車で来ていたので、あっという間に帰ってしまいました。

僕は当時自転車を持っていなかったので、親に迎えに来てもらおうと思って電話したんですけど、母親は買い物に行っていて、迎えに来れないので歩いて帰ってこいと言われました。

リュックに折り畳み傘が入っていたので、帰ること自体に苦労することはありませんでした。


道路の白線に沿って歩いていて、途中から前に女の人が歩いていることに気が付きました。

傘も差さずに両手で何かを食べているようでした。

まぁでも、夕立だったので傘を忘れたんだくらいにしか思っていませんでしたね。

急ぐ素振りは見せずに僕と同じスピードで歩いていました。

10メートルくらい先を歩いていたと思います。


その女の人、おかしいんですよ。


僕が曲がろうとする道で、毎回先に曲がるんですよ。

後ろからついてきているのなら、つけてきているってのがすぐわかると思うじゃないですか。

でも僕の前にいるので、おかしいって気が付くのに時間がかかったんですよね。


偶然だと思うじゃないですか。

でも、ずっと前にいるんですよ。

近道しようとして曲がっても。

遠回りしようとして曲がっても。


まさかこの人、僕の家に来てしまうんじゃないか。

そう思った瞬間、ぞわりと背中の産毛が逆立った感覚を今でも覚えています。

それで、一気に走って追い越そうって思って。


走りました。

でも、その女の人も走り出したんです。

その時、あぁこの人は本当に僕の家に来るんだ。って思いました。


それで……恥ずかしいんですけど、その時僕あまりの怖さに走りながら漏らしてしまったんですよね。

そうしたら、その女の人が急にピタッと立ち止まって。


もうこのタイミングしかない。と思って追い抜かそうとしたんですよ。

それで僕がその女の人を抜かそうと近づいたとき、


ばりばり、ぱき


そんな音が聞こえました。


追い抜かす瞬間、その女の人の顔を見ました。


そうしたら、鶏をそのまま食べていたんです。

たぶん、生きたままだったんじゃないかと思います。

顔は鶏の血と毟られた羽で、何も見えませんでした。


そのまま走って家まで帰りました。

女の人は追いかけては来ませんでした。


それ以来、その女の人には会っていません。

なんだったんですかね、アレ。


面白半分で彼岸花で遊んでしまっていたからなんですかね。

わからないですけど、花で遊ぶのはやめた方がいいですよ。


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