14.マスク越しのキス

「もう帰れよ」


風邪で辛そうな彼の看病に来たけれど早々にそう言われてしまう。移したら大変だから、と。そんなにも辛そうな彼を1人にしたくないのに、彼は自分のことより私を心配してくれるのだ。

いつも強気な彼の弱った姿は新鮮だけど、やっぱりいつもの彼がいい。早く元気になって欲しい。


「もう少しだけ」

「……移っても知らねーぞ」

「私がその風邪貰って治るならいくらでも貰うのにね」

「何言ってんだ」

「とにかく寝てて。私、お粥とか食べやすそうなもの作ってくるから」


そう言って立ち上がろうとすれば腕を引かれて床に逆戻り。どうしたのかと振り返ればバツの悪そうな彼の表情。


「1人は心細い?」

「ざっけんな」


そう睨まれるけれど熱で弱った彼の睨みなんて怖くもなんともない。むしろ、普段とは違う彼の姿に愛おしさが募る。

私はベッドへ身を乗り出して彼を見下ろすと、マスク越しなその唇にキスを落とした。


「へへ……すぐ戻るから待ってて」


照れ隠しに笑ってそう告げる。

けれど彼に掴まれた腕は離されなくて、逆に引かれて彼の体の上に倒れ込んだ。


「お前……普段そんなことしねーだろが」

「でもしたくなっちゃって」

「何で今なんだよ」


身を起こして彼を見れば恨めしげに私を見つめる彼は、私の腕から手を離すと後頭部に回して引き寄せる。

マスク越しのキス。そして苛立った瞳に見つめられた。


「くっそ、マスク邪魔……」


そんな彼にくすりと笑って立ち上がる。


「お粥作ってくるね」


そう言って部屋から出ようとして呼び止められて振り返った。彼は風邪のせいなのかそれとも別の理由なのか、眉間に皺を寄せて私を見ている。


「……治ったら覚えてろよ」


そんな彼の言葉に目を丸くして、そして笑う。そんな私に彼は更に表情を顰めたけれど、私は気にせず部屋のドアを開け、出た廊下から部屋の中に顔を覗かせる。


「早く元気になってね。私もマスク越しじゃない方がいいから」


彼の反応を見る前にドアを閉めたのは少し恥ずかしかったから。きっと頬も赤い。

そんな頬の熱さを誤魔化すように手で扇ぎ、私はお粥を作るべくキッチンへと向かった。

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