10.会社の後輩と
「先輩、持ちますよ」
仕事で使った資料や備品を片付ける為にダンボールとその上にファイルを乗せて運んでいるとそんな言葉と共にダンボールが腕から取り上げられる。そのダンボールを視線で追うと後輩がダンボールを持って立っていた。
「ありがとう。でもそのくらい持てるわよ」
「いや、結構重いですよこれ。こういうのは男に任せておけばいいんですよ」
「あら。女じゃ力仕事はできないって言うの?」
「あ、いや、そういうわけじゃ……」
じとりと後輩を見つめれば彼は焦ったように言葉を濁し、そんな様子に私は笑った。
「冗談よ。でもまぁ、せっかくだからお願いしちゃおうかな」
「任せて下さい」
ホッとしたような表情を浮かべる後輩にまた笑って、並んで備品をしまっている倉庫へと向かう。
部屋について借りてきた鍵で開けて中に入り電気をつけるとお世辞にも片付いているとはいえない倉庫の様子に眉を寄せた。
「ここもいい加減少しは片付けないとねぇ」
「この前、必要な資料探すのに手間取りましたもんね」
「けどここの片付けに人手を避けるほど暇でもないのよね」
「ですね。あ、これどこにしまいましょう?」
「とりあえずこっち。その資料関連のものは一応こっちにまとめてるのよ」
後輩の持つダンボールの上からファイルを受け取って自分なりに分かりやすく管理している棚へとしまう。せめて自分が使用した資料だけでもきちんとしてないと後々苦労する羽目になる。これまでに嫌という程経験したので使った事のある資料や備品に関しては片付ける時に自分なりに工夫してるのだ。
「でも、先輩がそうやって整理してくれてるおかげで以前よりだいぶ分かりやすくなりましたよね。俺が入社した頃なんて今の5倍は酷かったですよ」
「まぁ毎年使うようなのもあるから、そういうのは分かりやすくしてると探すのが楽だからね。さて、ひとまず片付けたことだし戻ろうか」
「そうですね」
「ついでに自販機寄ってこ。手伝ってくれたお礼に奢るよ」
「え、気にしないで下さい。勝手に手伝っただけですし」
「いーのいーの、気にせず奢られてなさいな。ほら、行くよー」
「ちょ……っ」
部屋を出ていく私を慌てて追いかけてくる後輩に笑う。
そして鍵を閉め、2人で自販機のある場所へと向かって缶コーヒーを2つ買う。後輩は相変わらず遠慮していたけれど、時折飲んでいるのを見かける缶コーヒーを半ば強引に押し付けた。
「ありがとうございます」
「気にしないで。私が勝手に押し付けただけだから」
そう笑ってコーヒーを飲む。
ダイエット中なのもあって微糖のものを選んだけれど、やっぱり甘いカフェオレにしておけばよかったかもしれない。
「あの、先輩」
「んー?」
「今晩、何か予定ありますか?」
「ないけど、どうしたの?」
「よかったらご飯でも行きませんか?」
突然の誘いに首を傾げてしまう。後輩が入社した頃、教育係を務めていた私は仕事のアドバイスをしたり相談に乗ったりとする為に一緒に食事に行ったこともある。
けれど教育期間も終えた後にはそういった機会もない。そんな後輩からの誘いにもしかして何か相談したいことでもあるのだろうかと思うのは当然の事だった。
「何かあったの?」
「え?」
「何か相談したいことでもあるんでしょ? 力になれることなら何でもするよ」
「あ……いや……」
「ん? 違うの?」
「相談じゃなくて……、……誘ってるんです」
「何に?」
「デートに」
「あぁ、なるほど。デートね。デー……えっ!?」
驚いて後輩を見れば少し照れているようなそんな表情に冗談では無いのだと知る。そもそも後輩はそんな冗談を言うような人ではないし、軽い遊び人という訳でもない。
「ダメ、ですか?」
「だ……ダメ……じゃ、ないけど……」
思わずそう答えた私に嬉しそうな表情を浮かべる後輩に私は隠しきれないほどに熱い頬が赤くなっているのを感じた。
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