9.2人きりの生活が終わる知らせ

『子供がデキたみたい』


ある平日の午後、自分の体調の変化にもしかしたらと思い至って検査した。その結果を仕事中である夫に連絡してみたけれど、仕事が忙しく、あまりスマホを見る時間もない彼からの既読はなかなかつかない。

18時過ぎ、定時を迎えた夫とのやり取りに既読がついた。彼はどんな反応をするのだろう。仮にも夫婦なのだし、困った表情を浮かべるなんてことはないはずだけれど、彼はあまり子供が好きな印象はない。

反応が気になって気になって何度もスマホを見ていたけれど返事はなかなか返ってこなかった。もしかしたら子供は欲しくなかったのだろうか。

そんな不安を抱え始めた時、慌ただしく玄関のドアが開く音がしてバタバタと足音がリビングへと近づいてきた。それに驚いているとドアの開けられたリビングの入口に息を切らせた夫が立っていて私は驚いていた。


「え、何で?」


仕事が忙しくいつも残業ばかりの彼がいつもなら滅多に帰って来れない時間に帰ってきた。


「妊娠のことを知った上司が今日は早く帰ってやれって言ってくれてさ」


2度程お会いしたことのあるあの人のことだろうか。仕事が忙しいはずなのにこうやって帰してくれるなんてなんていい上司なんだろうと感動していると彼に抱き締められた。


「──ありがとう……っ」


それが何に対するお礼なのかはすぐに分かった。

そしてその言葉に彼が喜んでくれていることも十分に理解出来て、滲む視界を誤魔化すように彼の胸に顔を押し付け、その背に腕を回す。


「男かな、女かな?」

「ふふ……まだ早いよ」

「あぁ……そうだよな。でも、本当にありがとう。俺、これからも頑張るよ。何よりも大事な君と子供を守る為に」

「ありがとう。でも無理はし過ぎないでね」


そして、これから私のお腹の中で育ち生れてくる子供のことを考え、その幸せを噛み締めながら私達は笑いあった。

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