7.夏祭りに彼女とベタな展開を

夜の神社で行われる夏祭り。その入口で賑やかな光景を眺めながらぼんやりと彼女を待つ。約束の時間から3分過ぎて、時間に正確な彼女のことを思えば珍しい遅刻だった。


「おまたせ」


少し息を弾ませた声に振り返り、言葉を返そうとして思考が停止した。

いつもは下ろしている髪が結い上げられ、明るく元気な彼女らしい明るい色合いの浴衣姿。


「……おせーよ」


思わず見惚れてしまったのを誤魔化すように口を開けば、口をついて出たのは彼女を責めるような言葉。似合っている、という言葉は気恥ずかしくて口にすることが出来なかった。けれど彼女はにんまりと笑って俺の顔を覗き込む。


「今一瞬見惚れたでしょー」

「バカ言ってんなよ」

「酷いなー、あ……でも遅れてごめんね」

「別に。行くぞ」

「うん! 何から食べようか? たこ焼きも焼きそばもかき氷もいいよねぇ。あっ、わたあめとりんご飴も食べたいね!」

「お前、ホント食うの好きだよな」

「こういう所で食べる食べ物っていつもより美味しく感じない?」

「まぁ、分からねぇでもないけど」


そうやって様々な屋台を見て周り祭りの時間も終盤に差し掛かる。最後に近くで打ち上げられる花火を見て終わりだ。今日限りの彼女のこの浴衣姿ももうそろそろ終わりかと少し残念な気持ちが沸いた。


「花火、どこで見よっか」

「兄貴からいい場所聞いてんだ」

「え、何それ。楽しみ!」


彼女と夏祭りデートだと兄貴に話したらにやにやした表情で教えてくれた穴場スポット。人気もなく花火もしっかり見える特等席だそうだ。

けれど、向かった先には数組のカップルが既にそこに居た。


「……あのデタラメ兄貴め」

「どうしたの?」

「いや、何でも」


兄貴が言っていたような人気がないようなスポットではなかったが、場所はさほど悪くない。彼女と並んで花火が上がるのを待ちながら他愛のない話をした。


「あ……」


彼女が空を見上げて小さな声を上げる。その直後に大きな音が響いて空が明るく染まった。


「綺麗……」

そう呟く彼女の横顔に見惚れて花火よりも彼女を見ていた。隠しもせず堂々と見つめていれば彼女も当然気づき、照れたような困ったような表情で俺を振り返る。


「もう、私じゃなくて花火見ようよ。花火、綺麗だよ」

「……あぁ……綺麗、だな」


視線はまだ彼女を向いていた。


「綺麗だ。さっきは言えなかったけど、その浴衣姿も似合ってる」

「……なんか、ベタな展開だね?」

「悪かったな」


からかうような彼女はそれでもやっぱり照れていて、それに釣られて自分の頬が熱くなるのを感じた。

そんな俺を覗き込むように彼女が俺を見上げる。


「こういうベタな展開だと、もう少しベタなことがあってもいいと思うんだけどなぁ?」

「は? 何言って……」


彼女が何を言いたいのか、疑問を口にしようとしたが、彼女の表情に彼女の言いたいことが分かってしまった。手を伸ばし彼女の頬に触れるとぴくりと反応した後、そっと目を閉じた。

そして花火が上がる音を耳にしながらそっと彼女に顔を寄せ、色とりどりの花火を背景に、俺は彼女の唇に自分のソレを重ねたのだった。

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