2.コンビニ店員と常連客の片想い

「いらっしゃいませー!」


コンビニの客の来店を告げる音にほんの少しいつもより声が高いのは来店した男性に気がついたからだ。

ほとんど毎日決まった時間に訪れるその男性客と言葉を交わすことがあるとしたらレジをする際の決まりきった言葉のやり取りのみ。プライベートな会話等したことは当然ない。

だが、ついその男性客を目で追ってしまうのは店員である彼女がその男性客に惹かれているからに他ならない。

「ありがとうございます」といつも丁寧にレジでのやり取りを終える姿。同じタイミングでレジに来た別の客へ「どうぞ」と譲るにこやかな笑顔。


(あ……今日も譲ってる)


同じタイミングでレジに並ぼうとした他の客に嫌な顔せず譲る姿に思わず頬が緩む。

客の入りが多い駅前のコンビニである為、その男性客ばかりに意識を奪われるわけにはいかずテキパキと手を動かすが、どうかタイミングよく彼のレジを担当出来ればいいのにと願う。ほんの少し、レジ作業のスピードを調整してお目当ての男性客が自分のレジに来るようにと、そんなことをしてしまったことがないわけでもない。


(そんなことを知ったら引かれるかな……)


それでもほんの少しでいいから接点を持ちたいという恋心の現れ。

いつもより元気な声も、いつもより明るい笑顔も、少しでも印象に残して欲しいという店員である彼女が客である彼にできる最大限の努力。


(あ……)


男性客が彼女の前に立ち、商品を置いた。レジに商品を通し、金額を言ってお金を受け取る。それをレジの金銭投入口に入れて出てきたお釣りと袋詰めした商品を渡して終わりだ。


「あの」

「え?」


いつもとは異なる出来事に視線を上げる。そして差し出された折りたたまれた白い紙を反射的に受け取った。


「え……?」

「読んで、もしよかったら連絡ください」

(連絡? 誰に?)


湧いた疑問に問いかけようとして後ろに並ぶ他の客の存在を思い出して慌てて手を動かす。お釣りと商品を渡して「ありがとうございました」といつもより小さな声で伝えるといつものように「ありがとうございます」と返ってくる。


「仕事中にすみません」


そう申し訳なさそうに、しかし照れくさそうにぎこちなく笑みを浮かべた男性客に彼女は頬が熱くなるのを感じた。

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