《第一回遼遠小説大賞》
『黒猫の夢』
タイトル通り、ネコの夢のお話です。
自主企画『第一回遼遠小説大賞』参加作品。「小説はどこまで遠くに行けるか」という裏テーマのある企画です。
作品URL:https://kakuyomu.jp/works/16817139555052741268
企画URL:https://kakuyomu.jp/user_events/16816927862113636016
今回の私は珍しく、タイトルとキャッチコピーで悩みました。いつもはタイトルから書き始めるのですけど……。
はじめに考えていたのは『吾が誰かはさておいて』というタイトル。キャッチコピーは『猫か悪鬼かそれとも蟲か』。
「人生」や「無関心な現代社会」、「自分勝手な人間関係」を書きたいと思って、ドロドロぐちゃぐちゃで不愉快なオムニバス作品にするつもりでした。 「遠く」といえば、「道」。特に「人生」という道なき道はこの企画のテーマにぴったりだと思って……。
でも、主催の辰井さんに以前、別の企画で"ほんわかしてるのが良い"ってレビューいただいたことがあるんです。それが私はすっごく嬉しかったんです。
(https://kakuyomu.jp/works/16816700429273797457)
ふと、そのことを思い出して、嫌なお話にするのはやめました。もし「ほんわか」が私の作品の長所なら、あの話のような「ほんわか」……とまでは行かなくても、それに近い何かにしたいと考えました。
この企画にはとびっきり私らしい作品で参加したかったので。
そして、あらためて裏テーマ「小説はどこまで遠くに行けるか」と向き合いなおして、書いたのがこの作品です。
私は「小説はどこまででも行ける」ものだと思っています。フィクションは何でも描けますし、どんな風になっても、書いた人が小説のつもりなら、それは小説と言っても良いと思います。
ただ、私の実力であまりに遠くへ行ってしまうと、読み手を置いてきぼりにしてしまうかもしれません。誰かのすぐ側に居るお話を私は書きたいのに……。
そこで、この作品は「どこにも行かない」ことにしました。
「どこにも行かない」で「どこかに行く」お話。といえば、やっぱり夢でしょう!世界には大冒険をする夢オチの物語が数多とあります。
また、夜に見るの夢も、将来に見る夢も、思い出や理想から生まれるもので、それはどこか小説に通じる部分もあるのではないでしょうか。……我ながら良い題材だったのではないかとこっそり自負しています。
ただ、小説の可能性への挑戦状のようなテーマでもありますので、私もポエムを冒頭で思いっ切り爆発させるというチャレンジをしました。
まぁ、私がポエムを書くのはいつものことですけど。「日常から遠くへ」という意味を込め、通常の小説から離れた文体をやりたいなと思ったのです。
レイアウトを考えるのは、とても楽しかったです。空白をどうとるか。ずらして段々にしたり、下に寄せたり、中に言葉を隠したり。
1話単体では小説か怪しくなってしまいましたけれど、作品の中の一部なので、好きにやりました。
また、今回はポエムとお話を意識的にリンクさせています。いつもは誰かの想いを詰め込むだけなのですけど、やっぱり話の流れを表す方が綺麗ですね。……今までの横暴を反省しています。
他に、言葉遊び的なものも詰め込んでいます。特に、「青い百合根」や「とっとと~」の辺りは「風の又三郎」のリズムを意識しました。あのリズムが小学生の頃からずっと好きなのです。
気づいてもらいやすいように、1話のタイトルにも「風」をいれて、又三郎を連想するタイトルにしようかとも思いましたが、あんまりこだわると今回の「遼遠」から離れてしまいそうだったので、やめました。
話のタイトルといえば、epilogueの「白日夢。」。お話そのものはあまり白昼夢っぽくありませんが、希望的な終わりなので、ある意味「夢」とも言えるかなと思っています。「八月」というのも葉月のことでした。
また、実はこの作品の登場人物は三人とも別作品に登場させたことのあるキャラたちです。
この作品は、前述したように『吾が誰かはさておいて』というタイトルと『猫か悪鬼かそれとも蟲か』というキャッチコピー考えていたので、そこから「我輩は猫である」を連想して猫のキャラを出す案がありました。それが彼女、玄野祢子です。
新キャラを出してもよかったのですけど、私は「似たキャラが既存キャラにいるなら、使いたい」派なので、彼女を引っ張り出してきました。ちなみに他の二人も、既存キャラで彼女と親しい人たちです。
| 《※関連作品はシリーズとして、コレクションにまとめているので、そちらもご覧いただけたなら、とても嬉しいです。》(https://kakuyomu.jp/users/n8osoeuta/collections/16816927861852494254)
一応、お話の中でハッキリ触れていない説明もしておきます。
祢子は化け猫で九つの魂を持っていました。人間に紛れて暮らしていた彼女は、人間の宇野葉月とも親しくなります。
ただ、ある日、情緒不安定になって、葉月と距離をとりました。これが、4話目の「繰り返し」でのお話です。
ここは離人症の症状を意識して書きました。すごく簡単に言うと"現実感のなくなる"病気です。
私がここで書きたかったのは、離人症に限らず、"人と人は分かりあえるけど、全部は無理"ということです。
祢子が不安になっていることに葉月は気づきますが、祢子の嘘にまでは気づきません。とはいえ、ちゃんと思いやってくれる彼女に祢子は甘えることができなくて……。という気遣い合戦です。いつも一緒に側に居る人とでも、心は異世界のように近く遠いと、私は思います。
とにかく、二人はすれ違ったまま。そのうち、生まれ変わった祢子は透と出会い、今は彼と暮らしている。というのが現在です。
epilogueをつけることで、ハッピーエンドにしたつもりではあるのですけど、私自身として、ひとつ気になるのが……。
祢子が透とイチャイチャしてることです!
葉月がいるのに?私はふたりの百合だと思っていたのに、もしかして、これは
ただ、これは不自然ではないようにも思います。記憶があるとはいえ、もう一度仔猫からやり直したなら、新たな祢子として生き直したわけで、以前の彼女とは少し違うのです。
つまり、祢子も葉月は生き続けることで「遠く」に来たとも言えます。いろいろ苦労しながらも、大学時代を懐かしかったと思う葉月も、また祢子から少し離れてしまっているわけです。
それでも、また祢子と仲良くなりたい葉月は、再び近づきたいと最後に願います。
こうして、近くにいるはずなのに遠くて、近づいたり離れたりを繰り返すのが人間関係なのかなぁと私は思います。
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