人魚伝説の生きる街で

@blanetnoir





この街には人魚がいる。






そんな噂がある街に、とある3人が、

その街唯一の駅に降り立ったのはもう夏が終わろうとする気配の滲む、8月の下旬だった。




男は、大学の夏休みの思い出作りに一人旅で。


女は、編集者の仕事として。


もう1人の女は、人魚伝説に惹かれ趣味の研究で、




偶然に同じ日の同じ時刻の電車に乗って、

この街の駅のホームに降り立った。




蝉時雨がオレンジになりざしの空に滲むような刻だった。




そして、波の音が聴こえる。




駅から海が近くにあった。

穏やかに波が揺らめいている。








たまたま同じホームに居合わせた3人は、

互いを気にすることなくそれぞれの目的のために歩き出し、駅を出て行くが、




その10分後、

3人は、同じ屋敷の玄関の前にいた。





大きなホテルなどはないこの街で、

数少ない民泊のような事をしているいくつかの家に電話し、空いていたところに予約をとったら、その家まで奇跡のように重なったのだ。



その建物は、明治時代の香りがする美しい洋館で、生活感のあまり感じない雰囲気からおそらく別荘のような邸宅なのだろうと想像される。





趣味の研究でこの街に来た女は、雰囲気のある今日の宿泊地に気分も上がったのか、他の2人に会釈をしながら呼び鈴を押して門を開け、引率するように敷地内に入った。




門から玄関まで距離があり、

やや和風な趣の植え込みを横目に見ながら歩けば、

ちょうど玄関にたどり着いたタイミングで扉が開いた。




「やぁ、こんにちは。

今晩宿泊の皆さんかな?」




そう言って現れたのは、まるで映画俳優のようにダンディで優雅な雰囲気のある初老の男性だった。





「ようこそ。

ホテルのようなおもてなしは期待されずに、

親戚の家に来たような気分で過ごしてもらえたら嬉しいよ。」





初老の男性はそう言いながら、手振りで3人に家の中に入るよう誘う。








―――そうして旅人たちは、




明日以降に事件が巻き起こることなど知る由もないまま、




人魚伝説の生きる街で、夜を迎えることになる。







事件は早朝。







誰かの上げた悲鳴からはじまるのだ。








誰の身に、何が起きたのか。






ここから先の物語は、

3人の旅人たちの知性と発想力によって紡がれていく、まだ終わりの知らぬ物語である。






どうか、この先の旅人たちの無事を祈って欲しい。






その旅人には、もしかしたらあなた自身がなるのかも知れないのだから。

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