第三十五話 治療(7)


 言葉は、茜さんが教えてくれるようです。良かったです。

 茜さんは優しいから、お姉ちゃんみたいで頼ってしまいます。


「真子さん。話がごちゃごちゃしてごめんなさい」


「いいよ。私は、何をしたらいいの?どうしたら・・・」


 真子さんが、布団から出ている手や足を見ます。

 足は、欠損の状態がはっきりとわかります。指は、解らないように、ギプスのような物が付いていますが、見れば義指だとわかります。


「最初に伝える事があります」


「はい」


 まっすぐに私を射抜くような視線で見てきます。


「モモちゃんと契約すると、モモちゃんの寿命が、真子さんの寿命と同期します」


「え?」「え?」


 茜さんも驚いています。

 説明をしたと思うけど、しなかったかな?


「モモちゃんは、真子さんが死ぬときに、消えてなくなります」


「え?なんで?」


「私も解りません。魔物として産まれてきた場合には、ドロップや遺体が残ることがありますが、動物が魔物になってしまった場合には、何も残しません」


 時間が経過して、魔物として過ごす時間が増えてきたら変わる可能性もありますが、今は”消えてしまう”現象しか確認が出来ていません。


「真子さんは、強化系の適性が皆無なので、”魔物鑑定”と”魔物支配”のスキルは付かないと思います。その代わりに、”魔物同調”のスキルが芽生える可能性があります」


「貴子嬢」「あっ質問は、後でお願いします。話が進まないので・・・」


 孔明さんの心配はわかります。

 でも、最後まで一気に説明をさせてほしい。


「すまない。続けてくれ」


「ありがとうございます」


 孔明さんと円香さんに頭を下げます。


「真子さん?」


「なんでもない・・・。です」


 モモちゃんが、いつものポジションなのでしょう。真子さんの肩に座っています。


「スキルは、実際に芽生えてから説明します」


「はい」


「ありがとうございます。モモちゃんにスキルが馴染めば、次はスキルが共有されます。これは、モモちゃんが拒否も出来ますが、拒否はしないようにお願いします」


「え?あっ・・・。はい」


「”再生”と”治療”ですが、簡単に説明をします」


「お願いします」


「”再生”には、アクティブとパッシブがあります。あっこれも、私たちが呼んでいるだけで、ギルドでは違う言い方があるかもしれません」


「はい」


「”再生”のアクティブ・スキルは、そのまま”再生”です。過去に遡って、身体を治していきます」


「え?」


「時間的には解りません。3日ほど前の欠損では、ほぼ瞬時に治りました」


「え?」「は?」「ほぉ・・・」


「真子さんの場合には、時間がかかるかもしれません。それは、ごめんなさい」


「・・・。治る?本当に?」


「はい。治ります。足が生えて、指が生えます」


「貴子嬢。なにか、代償はあるのか?」


「そうですね。魔力と呼べばいいのか?私は、マソと呼んでいますが、スキルを使う時の根源の力が必要です。真子さんの場合には、モモちゃんからもマソの共有を受けるので、マソが無くなるまでは再生が行われます」


「貴子さん。マソが無くなった場合と、再生を途中で止めることはできるのか?」


「マソが無くなった場合には、私の家族たちは、気絶しました。半日から長い子でも1日くらいで復活しました。死ぬようなことはないです。真子さんのマソ量がどの程度になるかで、起きるまでの時間は変ってきます。マソ量はスキルを取得するまでわかりません。ごめんなさい」


「ありがとう」


「再生を止めることは可能です。真子さんが思い描く、最良の場所で再生は止まります」


「・・・。ねぇ貴子ちゃん。再生があると、老化しないってこと?」


「わかりません。”再生”はクールタイムが長いので、老化はすると思います」


 あれ?

 茜さんが少しだけ残念な表情をします。老化したくないのなら?別の方法がある。でも、そうなると・・・。


「貴子ちゃん。”治療”は?」


「そうでした。”治療”は、痛みを快楽に変えます。それと、内臓や血管の損傷を治します」


「え?」「ほぉ・・・」


「”再生”だけだと、傷や欠損は治りますが、血が通わない臓器は腐ってしまいます。あっ私は、実感していないので解らないのですが、家族が言うには毛並みや皮膚にも”治療”は効果があるようです」


「髪の毛?」「それは・・・。また」「ははは」


「あと、真子さんには、”再生”と”治療”をごまかすために、スキルが芽生えたあとで、”聖”のスキルを覚えてもらいます。もしかしたら、自然に芽生える可能性もあります。これは、実際にスキルを得なければわかりません」


「”聖”?」


「はい。ゲームで言えば、ヒールとか、毒消しとか、癒しの魔法が使えるスキルです」


「・・・。お兄ちゃん?」


「信じられない話だろう?でも、本当のことだ。一部は検証が終わっている。円香」


「真子。本当だ。真子は、私のスキルを知っているよな?」


 真子さんが頷いている。

 茜さんは、知らないようだ。少しだけ動揺が見られる。


「貴子ちゃん。治療をお願いします」


「あっ。その前に、デメリットの説明をします」


「え?デメリット?」


「はい。”再生”と”治療”のスキルには、デメリットはありません。あるかもしれませんが、把握が出来ていません。これが、デメリットの一つ目です」


「それは、そうですよね。わかります」


「ありがとうございます。次のデメリットですが、真子さんのマソ量がわからないので、一度に回復できる部分が偏ってしまうかもしれません。私とライが持っている結晶を使う事が出来ますが、それでもデメリットがあります」


「・・・」


「まず、マソ量が足りない時には、再生は途中で止まります」


「はい」


「止った場合には、マソが回復してクールタイムが終わってからです。クールタイムは、治った怪我をおった現在までの日数の数倍だと予測されています。なので、真子さんの場合には、一気に回復する必要があります」


 時間に依存するのは解っているのですが、検証が出来ていない項目です。

 真子さんの場合には、クールタイムは5年の数倍。倍としても、10年は必要です。スキルを剥がしてもう一度つければ復活する可能性がありますが、検証が出来ていない項目です。どこかで試してみたいと思っています。


「日数の数倍?それは・・・。はい。納得ができます」


「ありがとうございます。結晶を使うことになるのですが、どの程度の結晶が必要になるのか解らないので、何とも言えませんが、マソの総量が増えて、新しいスキルが芽生える可能性があります」


「はい」


「デメリットは新しいスキルが芽生える事です」


「え?」


「魔物にしか芽生えないスキルが芽生えてしまうと、真子さんは”魔物”と同等になってしまいます」


 最大のデメリットが、魔物化です。

 スサノちゃんとクシナちゃんが、これに該当します。眷属になる前に、魔物しか芽生えなかったスキルが芽生えてしまって、魔物になってしまっていました。話を聞いていると、クロトちゃんとラキシちゃんとアトスちゃんも同じです。


 真子さんは考え込んでしまいました。

 当然ですよね。


「あっでも、魔物になったとしても、”結界”のスキルを覚えれば、殆どのことが解決します」


「貴子ちゃん。魔物になった場合に、姿はどうなるの?角とか生えるの?可愛い羽なら嬉しいな」


「見た目は変わらないと思います。これも、検証が出来ていないので・・・。ごめんなさい」


「貴子ちゃん見たいにスライムになるの?」


「スライムやゴブリンやコボルトと言った魔物にはならないと思います。家の家族ですが、魔物になった場合でも、元々の姿が変わった子は、居ません。草木から、エントやドリュアスになった子たちは居ますが、本体は草木のままです。エントやドリュアスは自分が望む分体を作り出すスキルを持っています」


「見た目は変らないの?」


「いきなり、魔物みたいな見た目にはならないと思います」


「え?それでは、デメリットは無いのと同じなのでは?」


「いえ。”結界”をうまく使わないと、街中で”センサー”に引っかかる可能性があります。あと、死んだときに何も残りません。いきなり、服だけが残ります」


「あっ・・・。でも・・・」


 孔明さんを見ますが、家族に何も残せないのは辛い事です。

 でも、年齢から考えると、先に寿命を迎えるのは孔明さんです。真子さんが気にしても・・・。


「あっ最後のデメリットですが・・・」

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