第三十四話 治療(6)


 ライが、モモンガちゃんに触れます。


「ライ?」


「うん。大丈夫」


 ライが。大丈夫だと言っているので、モモンガちゃんとのパスが繋がったのでしょう。

 強制はしたくないのですが、最悪は強制的にスキルを付与させることも出来そうです。


「え?なにが?え?」


「真子さん。治療の方法を説明します」


 外に居るライが。孔明さんを抑えておく必要がなくなったと報告を上げてきます。

 結界の必要もないですし、外に居るライに結界を解除してもらいます。


 ついでに、円香さんと茜さんを呼んできてもらいます。


 孔明さんだけに見てもらうよりは、茜さんや円香さんにも見てもらったほうが安心です。


「え?治療?本当に?」


 見た感じでは、デイジーの方が酷いので大丈夫だと思います。


「はい。本当です。孔明さんには説明をしていますが、最終の確認として、真子さんに説明をします。そのうえで、真子さんが決めてください」


「わからないけど・・・。わかった。貴子さん」


「うーん。できれば、”ちゃん”がいいです。真子さんは、年上ですよね?」


「え?あっうん。制服?が、どこの高校か解らないけど、制服を着る年齢じゃないよ?」


「それなら、真子さんの方が、年上です。私は、今年で16歳でした。スライムの年齢では1歳にも満たないのですが・・・。人間では、16歳まで年齢を重ねました」


「そう・・・。ご家族は?」


「両親と妹は、12歳の時に、魔物を追いかけていたと主張しているハンターが運転する車に跳ねられました。妹を庇った両親は即死でした。妹は十日後に苦しみながら死にました。握られた手の感触は魔物スライムになった今でも覚えています」


「え?」


「真子さん知っていますか?魔物を追っていたと言えば、事故を起こして、人を跳ねて殺して逃げても罪には問われないのですよ。不思議ですよね?」


「なっ!?」


「祖父は、同じ年に・・・。裏山で見つかった魔物を駆除しにきたと言っている自衛隊が撃った弾に当たって死にました。即死でした」


「・・・」


「裏山は私の家が所有している。所謂、所有地です。魔物の駆除依頼は出していませんでした。近所の人も魔物を見ていないと言っていました。不思議ですよね。自衛隊が、勝手に私有地に入って、勝手に誤射して、庭で祖母の好きな花を植えていただけの人間を殺すのですよ?」


「・・・」


「祖母は、祖父が死んだショックで寝込んで、そのまま病院で死にました」


「・・・」


「祖母が倒れた時にも誰も見舞に来てくれません。家は呪われているらしいです」


「あ・・・」


「兄は、両親の事故の抗議に出かけて、帰ってきませんでした。翌朝、警察から病院に呼ばれました。面会したのは、白い布を被せられていた兄でした」


「貴子さ・・・。貴子ちゃん。その、ごめんなさい」


「いいですよ。調べれば解ることです。兄以外は、事故です。兄も、警察からは翌日には”事故”だと言われましたから、兄も事故だったのでしょう。顔に殴られた跡があって、服が破れて、身体中に痣のような物があっても事故だったのでしょう」


「貴子ちゃん?」


「大丈夫ですよ。私には、家族が出来ました。人ではありませんが、私と同じように、スライムになってしまった者たちの集合体であるライだけではなく、人から虐待を受けたり、殺されかけたり、搾取されるだけの者たちでしたが、力を得た者たちです。私の頼もしくも優しい家族です」


「・・・」


 ダメですね。

 家族の事を聞かれると、熱くなってしまいます。おばあちゃんからも注意されていたのに、これでは八つ当たりです。


「ごめんなさい。それで、治療ですが」


「え?」


「え?」


 何に驚いているのでしょうか?

 真子さんの治療を行うために来たのです、治療の説明をしなければ先に進めません。


 布団で隠していますが、意味はありません。

 茜さんが孔明さんから聞いた話を思い出します。


 右足の膝から下が欠損。

 左足は足首から先が動かない。

 左手の中指と薬指と小指が全損。人差し指が第一関節から先が欠損。

 傷跡は、腕と顔と肩にある。傷跡は、右側かな?髪の毛で隠している。


「お兄ちゃん」


 孔明さんが、真子さんの横に腰を降ろします。

 モモンガちゃんはおとなしくなっています。


「真子さん。モモンガちゃんの名前は?」


 孔明さんが話をしようとしますが、目で制します。

 必要なことではないのですが、必要なことだと意識させます。


「モモ」


「モモちゃんは、魔物になってもらいます」


「え?」


「モモちゃんには、2つのスキルを覚えてもらいます。”再生”と”治療”です。ライが調べたのですが、モモちゃんは欠損も治療が必要な状態ではないので、スキルの定着は可能です。適性も、合っています。必要なら、他のスキルも与えられますが・・・。今は、二つのスキルを覚えてもらいます」


「え?え?魔物?」


「真子さんには、モモちゃんと契約を結んでもらいます。既に、パスが出来ているようなので、名前を呼ぶだけで、モモちゃんが受け入れてくれると思います」


「パス?契約?お兄ちゃん?」


 不安そうな表情で、孔明さんを見ます。

 孔明さんは、私を見てきますが、これ以上の説明は難しいうえに、面倒です。


 孔明さんも解っているのでしょう。真子さんの手を握るだけに留めます。


「モモちゃんが真子さんを受け入れれば、モモちゃんは真子さんの眷属です」


「眷属?」


「私とライの関係です」


「え?」


「私とライは、眷属という繋がりを持っています。そして、ライは私に”命”を預けてくれています」


「え?」「は?」「ん?クロトたちも?」


「そうです。茜さんの所に居るクロトちゃんたちも、茜さんに”命”を預けています。だから、スキルが共有されています」


「え?なに?本当?」


「はい。あっ、今は、真子さんの治療ですね。それで、モモちゃんには、ライが確認をしましたが、真子さんに全てを委ねると言っています」


「え?モモ?本当?」


”ククク。プクプク!”


「ライ」


「うん。”一緒に居たい。楽しい。優しい。嬉しい”。魔物になって、真子さんの眷属になって、意識がはっきりしたら、もっと言っている事がわかると思う」


 ライのセリフに、茜さんが頷いている。

 クロトちゃんたちとの会話が出来るのは、茜さんが実感しているのでしょう。


「モモ・・・」


「私は、”魂の共有”と呼んでいますが、眷属化が出来たら、スキルが真子さんと共有されます」


「貴子嬢。少しだけ質問をしていいか?」


「はい。なんでしょうか?」


「”魂の共有”でスキルが共有されると説明を受けたが、真子が”再生”や”治療”に適性が無ければどうなる?」


「うーん。孔明さん。真子さんは、スキルを持っていませんよね?」


 真子さんも、孔明さんも頷いています。

 円香さんを見てしまいましたが、円香さんなら、スキルを持っているかどうかの判断が出来るのはスキル構成から解っています。


「茜さんに説明をした水見式は、スキルを得てからしかできません」


「そうだな」


 孔明さんが肯定してくれます。茜さんも、円香さんも頷いています。

 良かったです。私の意図が解ってくれているようです。


「ライなら、水見式と同じことが出来ます。スキルを持っていない人や動物に・・・」


「え?」


「もっと、汎用的に出来るようにならないか考えているのですが、なかなか難しくて・・・。今日は、ライが、真子さんを見ますか?それとも、モモちゃんとの共有ができないときに改めて・・・」


「見てください!」


 今まで黙っていた真子さんが、布団をどかして、傷ついた身体を晒して、声を張り上げます。

 何か、心境の変化が有ったのでしょう。


「はい。わかりました。ライ。お願い」


「うん」


「真子お姉ちゃん。両手で手を触って」


 ライは両手を差し出します。

 真子さんは、傷ついた手でライの右手を触って、右手でライの左手をしっかりと握った。


「適性は、放出が一番だよ。あと、変異と助勢かな。強化は、ほぼ適性がないみたい」


「貴子嬢?」


「ライ。レベルは?」


「放出は、レベル5以上。変異と助勢はレベル4」


「レベル3以上なら、”再生”と”治療”は取得が出来ます」


「貴子さん。横からすまない。レベルというのは?」


「あっごめんなさい。私たちがわかりやすいように、取得できるスキルをレベルで分けて管理しているのです。適性に合わせてレベルで考えるとわかりやすいので・・・。そうですよね。ギルドの言い方があるのですよね。茜さんに後で教えてもらいます。今は、このまま進めさせてください」


「あぁ。茜。後は頼む」


 茜さんが首を激しく横に振っています。

 これから、ギルドと歩調を合わせるのなら、ギルドで使っている用語に合わせる必要があると思っています。いろいろ大変だな。


 真子さんの適性なら、”聖”も使えそうだ。ライに準備をお願いしよう。

 強化の適性がないと、戦えない。いざという時に困らないように、”結界”も覚えてもらおうかな?


 よくわからないけど・・・。

 この家は・・・。

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