第二十八話 治療(2)


 お金の話が出来て良かったです。

 主殿に、価値を知ってもらえれば、自重を覚えてくれるでしょう。


 そういえば、果物も”魔石”が使われた土から作っているので、ポーションの材料になるようです。どの果実で作るのが、効果が高いか解らないようです。


「うーん。うーん」


 主殿がうなっています。

 何か、問題が発生したのでしょうか?


「どうしたの?」


「1億も持ったことがないから・・・。パソコンは、パパの使っていた物があるし、知識もないから新しい物にしても設定ができるか解らないし、スマホも困っていないし・・・。食べ物も、果物が美味しいし・・・。あんまり食べなくても大丈夫になっちゃったから・・・。遊びに行くにしても、皆が居るから、移動も困らないから・・・」


 なんか、贅沢な悩みだけど、食べる必要が無くなってしまったのは、スライムになったからだよね。


「ねぇ貴子ちゃん。パロットやラスカルやギブソンのお嫁さん?パートナーを探すのは?」


「え?」


「パロットがパートナーを欲しがるとは思えないけど、家族を増やすのは?その為に、お金を使ってみるのは?保護猫とか話題になっているよね?」


「あっ!それもいいかも!犬も飼ってみたかったから、丁度いいかも・・・。あと、茜さん。牛や山羊や羊とか、鶏とか買えますか?」


「買えると思うよ。そういうのは、今日、貴子ちゃんにお願いする人が詳しいから聞いてみて!」


「はい!ありがとう」


 主殿が少しだけ砕けてくれました。牛や山羊や羊は、ペットショップでは売っていません。家畜なので、買い付けて来る必要があるのですが、何とかしましょう。孔明さんが動いてくれるでしょう。


 牛や山羊や羊ですが・・・。自給自足が出来てしまいそうですね。家族を食べる様子は考えられないので、肉や魚は・・・。


「貴子ちゃん。魔物は、食べられるの?」


「え?あぁ・・・。オークは、豚肉ですよ。ミノタウロス?は、牛肉です。動物から魔物になってしまった子たちは、食べられないですね。美味しくないと言うのもあるのですが、肉をドロップしませんよ?」


 そんな、”知っていますよね”みたいな言い方をされても、オークが肉を落とすのも、一部では知られている情報です。そもそも、ミノタウロスって何?牛の魔物?


「あ!そうだ!茜さん。あれから、調べたのですが・・・」


 驚愕の事実です。

 海で釣りをしていた人が、釣った魚が消える事象があるようです。

 魔物になってしまった魚を釣りあげると、死んだときに消えてしまう。理屈が解っていれば、”当然”だと言えるのですが、急に消えたらびっくりするでしょう。生きている魚を捌こうと包丁を入れたら、消えてしまった事例もあるようです。

 元が動物な魔物は、倒してもスキルは得られないようです。


「ありがとう。担当に連絡をしておくね」


「はい!それで・・・」


「お姉ちゃん!」


 チャイムが鳴ったようだ。

 この部屋は、防音で外の音が聞こえない。円香さんと孔明さんが来たようだ。


 主殿が来る前に、二人に連絡を入れておいた。


「丁度、来たみたい。部屋に連れてきていい?」


「はい。お願いします」


 緊張している主殿が可愛い。

 力関係で言えば、主殿の方が上です。


 でも、女子高校生が社会人に会うと考えれば、緊張しないほうがおかしいですね。


「ユグド。円香さんと孔明さんを連れてきて」


「うん!」


 二人が部屋に入ってきた。

 珍しく、孔明さんが凄く緊張しているのが解る。円香さんも見たことがないくらいの表情をしている。もしかしたら、緊張しているのかな?


「主殿。挨拶は、初めてですね。私は、ギルドに務めている。桐元きりもと孔明よしあきです。皆は、私の事を、孔明こうめいと呼びますが、孔明よしあきです」


「始めまして・・・」


 主殿が私を見ます。


「孔明さん。主殿です。元々は、女子高校生でしたが、スライムにされてしまった被害者です」


 何か、孔明さんが言いそうになったので、先に円香さんの紹介をしてしまいます。


「円香さん。主殿です。円香さんは、ギルド日本支部のギルドマスターです」


 主殿が、会釈します。

 可愛いです。こんな、妹が欲しかったです。妹になってくれないでしょうか?


 円香さんも毒気を抜かれたような顔をして、ユグドが用意した椅子に座ります。


「茜さん。早速・・・」


 そうか、もしかしたら、主殿は人見知りなのでしょうか?

 私に近づいてきます。可愛いです。ライは、主殿の後ろに居るのですが、人見知りという感じはしません。よくわからないので、考えないことにします。


「孔明さん。真子さんは?」


「ん?あぁ真子は、家に居る。その前に、手順を聞きたい。主殿。教えていただけるか?」


「貴子です」


「わかった。貴子嬢。すまない」


「いえ、大丈夫です。手順ですが、ご存じだと思うのですが、私が作っているポーションだと、古い傷は治せるのですが、古い欠損は難しいです。ごめんなさい」


「いやいや。古い傷が治るだけでも・・・」


「そこで、ライ。あの結晶を出して」


「うん!」


 ライが、三つの魔石を置きます。主殿は、”結晶”という言葉を使っていますが、魔石のように見えます。


「貴子ちゃん。魔石と結晶は違うの?」


「え?あっうん。私たちの呼び方だけど、魔物を倒した時に、ドロップするのが魔石ですよね?」


「うん。そうだね」


「その魔石から、不純物・・・。あぁ魔力を抜いた?魔石を磨いたものを、結晶って呼んでいるのです。私たちが作る魔石とも少しだけ違っています」


「え?魔力を抜いた?」


「うん。魔物が使う力が不純物として魔石に含まれているから、そのまま使うと、不純物が混じってスキルが乗らなかったり、力が反発したり、面倒だから、不純物を除いた状態の魔石を作っているのです。ユグドちゃんと一緒に渡したのは、結晶ですよ?」


「え?そうなの?」


「はい。お渡しした物は、魔石の状態です。結晶の方がよかったですか?」


 ニコニコしていますが、円香さんも孔明さんも唖然としています。

 私の気持ちが少しだけ解ってもらえたようで嬉しいです。


「貴子ちゃん。魔石と結晶では、使い方が違うの?」


 前に教えてもらった”磨く”ことで、結晶になるのかな?


「はい。魔石は、動物がそのまま飲み込むと拒否反応が出ることも有りますが、結晶ならまず大丈夫です。カラントやキャロルが試した所、結晶なら失敗はありません。魔石だと70%くらいの成功率だと思います。あっ魔石でも後遺症とかは残らないですよ」


 ふふふ。


「あっごめんね。それで、手順は?」


「はい。結晶には、”再生”というスキルと、”治癒”というスキルと、”鑑定”というスキルが付与されています。真子さんは、ペットを飼っていると聞いたので・・・」


「真子は、モモンガを自分が動けない代わりに・・・」


「そうですか、モモンガは初めてですが、ラスカルが大丈夫だったので、大丈夫だと思います。魔物になってしまいますが、スキルを得て、真子さんに懐いているのなら、そのまま眷属にできると思います」


「貴子さん。少し質問をしていいだろうか?」


 円香さんの我慢が限界を超えたようです。それにしても、”さん”付けが凄く新鮮だ。


「はい。なんでしょうか?」


「再生も治癒も初めて聞くスキルなのだが?」


「そうなのですね。それで、ギルドのデータベースに問い合わせても、情報が出てこなかったのですね。うーん。説明が難しいですが、再生は・・・」


 主殿の説明を聞いて納得しました。


「鑑定かぁいいなぁ」


「え?茜さんも取りますか?ライ。結晶はまだあったよね?」


「うん!」


 え?ちょっと待ってください。

 円香さんも孔明さんも止めてください。止められるとは思わないけど、慌てて二人を見ますが、無理です。

 確かに、鑑定が使えるようになれば、かなり作業が楽になります。


 鑑定石だけでは、制約が出て来る可能性もあります。魔物鑑定とも違います。

 そのうえ、ギルドの上層部に取り上げられてしまう可能性もあります。


 円香さんの目が、”お前が言い出したことだ、お前が取得しろ”と言っています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る