第二十九話 治療(3)


 結局、円香さんと孔明さんの眼力に負けて、ライが新しく出した”鑑定”スキルは私が取得することになりました。魔物鑑定があるからいらないと粘ったのですが無駄でした。


「貴子さん。これから、スキル付きの結晶は、簡単に出さないで貰いたい」


 円香さんが注意します。

 主殿には必要な事です。簡単には出しているとは思いませんが、価値が高いと思っていない可能性はあります。


 魔石を磨くという技術も凄いのです。そもそも、”鑑定”と”錬金”スキルがなければできないのですが、”錬金”がなくても、魔石を磨くことはできるのでしょうか?聞いてはダメだろうけど、聞いてみたいです。


「?」


 主殿はよくわかっていない雰囲気です。

 自分が作った物がどういった物なのか解っていないのでしょう。


「茜から聞いているとは思うが、貴子さんが茜に伝えた情報だけで、既に3億円になっています」


「え?1億だという話では?」


「茜!」


 私に話を振らないで欲しい。


「最低1億とは説明しましたが・・・」


「貴子さん。もうしわけない。アイテムはまだこれから精査して受託販売やオークションにするつもりだが、それ以外の情報の価値が高すぎて・・・。精査と確認に時間が必要になっています」


「そうなのですか?」


 主殿が不安そうな表情で私を見ます。


「円香さん。私が、貴子ちゃんの家に行って説明します」


 そうでした。

 金額の前に、口座の話とかいろいろすっ飛ばしています。


「・・・。そうだな。それがいい。そうだ!茜。貴子さんに、会社とカードの説明はしたのか?」


 渡した記憶はあるけど、説明はしていなかった。

 説明をした気になっていた?説明をしたけど、簡単にしかしていない。


 ここは、忘れたことにした方が無難です。


「忘れていました」


 主殿に用意してもらった法人に紐付けした銀行口座には、2億近い金額のお金が振り込まれているはずです。以前の情報と鑑定石のお金です。


 主殿は笑って許してくれましたが、これからの事を考えると、主殿の会社の形を整えておく必要がありそうです。


 本当に、日本は面倒なことが多いです。

 そして、想像通りに、私に面倒なことを・・・。いえ、凄く光栄な役割が割り振られました。


「ほへぇ・・・。前に聞いていた金額よりも多いですよね?」


「貴子さん。貴殿の情報が、価値がある物なのです」


 主殿が、嬉しそうな表情で私を見ます。

 頼られて嬉しいのですが、これ以上の負担は・・・。誰かを巻き込まなくては・・・。


「そうなのですね。わかりました。これからは、茜社長にお知らせして、情報をギルドに共有してもらいます!」


 そうなのです。

 主殿の会社の社長に私が就任することになってしまいました。主殿の寿命がわからないこともあり、名前が出てしまう社長では都合がわるくなる可能性がある為です。定款とかをやり直す必要がありそうです。主殿が用意した会社は、主殿のお父様が持っていた法人格だという話です。

 後でしっかりと調べる必要があります。

 2億円もあれば、綺麗にできるでしょう。


「それで、貴子嬢。真子は、どうしたら?」


 孔明さんが、ちょっと無理矢理ですが話を元に戻します。孔明さんとしては、真子さんの話が重要なのです。お金の話は、私と円香さんに任せてしまいたいのでしょう。


「あっごめんなさい。モモンガちゃんに、再生と治癒を使ってもらって、眷属にしてもらった後で、有用だと思って鑑定を持ってきました。”聖”のスキルでもいいとは思うのですが、欠損を治すのは、本当に大変なので、”再生”の方がいいかと思ったのです」


 一気に話します。

 多分、主殿は研究職とかに向いているのでしょう。自分に興味があることには、まっすぐに向かって行ってしまうのでしょう。気が付いて、恥ずかしそうにするのが可愛いです。頭を撫でたくなってしまいます。


「もうしわけない。”聖”では治らないのか?」


 私もそう思いました。

 欠損が治る可能性があるのは、”聖”のスキルですよね?でも、スキルの熟練度が上がらないとダメとか制約があるのでしょうか?

 それとも、自分には使えないとか・・・。スキルの研究も、進んでいないのが現状です。多分、主殿が世界で一番スキルに詳しい人だと思います。


「どうでしょう?以前にお話をしたのですが、治るとも、治らないとも言えません。実験できるような事でも無いので・・・。それなら、私が確認している、”再生”の方がいいかと思ったのです」


「”再生”は確認されているのですか?」


「はい。あっ!茜さんの所に居る。スサノは魔物にやられて、片足と片羽を失っていたので、再生を与えて、スキルを使ってもらったら、治りました。あとは、最近家族に加わったデイジー。狸なのですが、足をゴブリンにめちゃくちゃにされて居たのを助けて、再生を与えたので、哺乳類でも大丈夫だと思います」


 今、重要な情報を・・・。

 さらっと言われてしまいましたが・・・。スサノは、私の眷属になっています。眷属が持っているスキルは・・・。私にも”再生”が付与される?


 もう人間を辞めていますね。

 でも、少しだけ、本当にほんのわずかな可能性に縋って、主殿に聞くことにします。


「貴子ちゃん。ちょっと待って、スサノは”再生”スキルを持っているの?」


「持っていますよ?」


 そんな可愛く言ってもダメです。我慢が出来なくなりそうです。抱きしめたくなります。

 再生スキルも私に反映されているのですね。


 あれ?自分で確認してみると、反映していない?

 スサノを見ても、”再生”スキルがグレーアウトしています。どういう状況なのでしょうか?


「貴子ちゃん。スサノに再生スキルはあるけど、使えないように見えるけど?」


「・・・。あっ!クールタイムです。ごめんなさい。期待させちゃって・・・」


 謝られるほどの事ではないのですが、また新しい事実です。

 クールタイム?


 円香さんと孔明さんを見ますが、首を横に振っています。

 スキルの保持では、円香さんと孔明さんは、先輩に当たりますが知らなかった情報のようです。


「ううん。それは大丈夫。それよりも、クールタイムって何?」


「スキルを使うと、次に使えるようになるまでに時間が必要ですよね?その時間を、クールタイムってゲームみたいに呼んでいます。違います?」


 円香さんも、孔明さんも、その表情が見たかった。

 私が思っている事を、口にしたら怒られるので、口にしません。


「貴子嬢。その、クールタイムは、どうやって決められる?」


「うーん。わからないです。ただ、使ったスキルによって違います。スサノみたいに欠損を治したら、クールタイムは長いです」


「貴子嬢の家族の・・・・」


「デイジー?」


「そうそう、デイジーのクールタイムは?」


「1週間くらいでしたね。正確な時間じゃなくてもごめんなさい」


「いやいや、十分な情報です。ありがとうございます。あっそれで、モモンガにスキルを覚えさせてから、真子は何かする必要があるのですか?」


「うーん。既に、絆が結ばれていたら、魔物になったモモンガちゃんが眷属になると思います。私がご一緒していいのなら、モモンガちゃんにお願いができると思います」


「いいのですか?」


「はい。なんか、凄いお金を貰うので・・・。そうだ。真子さんに、”聖”のスキルを覚えてもらえば、自分で魔物を倒して、”聖”のスキルを得て治したとか言えませんか?」


 あぁ

 確かに、凄くいい話です。

 これで、真子さんもギルドに・・・。いや、私の同僚になることが決定です。私が、決めました。

 主殿の会社に就職してもらいます。そこから、ギルドに派遣です。いいアイディアです。モモンガちゃんの魔物化もごまかせます。


「貴子嬢。真子の治療をお願いしたい。受けていただけるか?」


「・・・。はい。必ずとはお約束は出来ませんが、最善を尽くします」


「ありがとう」


 孔明さんは、頭を思いっきり下げます。

 慌てる主殿が可愛いです。

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