第二十二話 報告(3)


「茜。主殿には、他にも魔物がいるのか?」


「それは、後にしましょう。先に、蜂蜜の話をしましょう。美味しいですよね?ギルドで買い取りますか?全部で、100瓶くらいあります。1キロくらいの瓶が100本です」


「茜嬢。これも、受諾販売でいいのか?」


「はい」


「蜂蜜の成分は解っているのか?」


「わかりません。ただ、ミツバチが一生懸命に、いろいろな花から蜜を集めていました。それこそ、ブドウみたいな果実やスミレみたいな花とか、あぁロウバイの花も咲いていました。リンゴも桃も柿も、イチゴもありましたよ」


「ちょっとまって!それは、ハウスがあるの?でも、ハウス栽培は・・・」


「そう思います?」


「・・・」


 円香さんが黙ってしまいました。

 そうですよね。今までの流れから、ハウスのはずがありません。


 スマホで一枚の写真を表示して、皆に見てもらいます。


「主殿の家の・・・。裏庭です」


 多分、極楽浄土というのは、こういう風景なのでしょう。果実がなっている横の木では、花が咲いています。夏の花の横で、季節感を無視したように冬の花が咲いています。素晴らしい風景です。合成を疑われても”そうですね”としか言えない。実際に見た私が信じられない気持ちだったのです。


 絶句しています。

 さらに水槽を撮影した動画を見せます。


「茜。茜。茜」


 千明が壊れました。

 私の名前を呼んでいます。アトスを呼んで、千明の膝の上に置きます。少しは落ち着いて欲しいです。


「ふぅ・・・。茜嬢。真実だとして、育て方は?」


「教えてもらいました。魔石を使います。魔石を漬けた水を撒くのと、魔石を木々に融合させるようです。融合の方法も教えてもらったのですが、まだ実践をしていないので、できるのか解りません。イチゴとかは、土に砕いた魔石を混ぜるといいようです」


「実験は・・・」


 孔明さんが写真を見なおします。

 必要があるとは思えません。


「検証は必要だと思います」


「そうだな。円香?これは、ギルドで検証をして、ギルドとして発表してもいいと思うが?」


「そうだな。茜。主殿は、何か言っていたか?」


「”知っていますよね”って感じです」


「わかった。ギルドが検証をして発表を考えよう。その時に、特許として主殿のギルドカードでギルド特許として申請をしよう」


「はい。それがいいと思います」


「茜。これで報告は終わりか?それなら・・・」


「え?まだ、半分も終わっていません。残りは、後悔する話が6件。頭を抱えたくなる話が3件。殴りたくなる話が2件あります。まずは、私が公開した方がいいと思う話から報告します」


「・・・。頼む」


 円香さんは、どこか諦めた表情で、一言だけ告げて、蜂蜜を入れた紅茶を飲みました。

 美味しいですよね。この蜂蜜は・・・。安心できる味です。


「わかりました。ユグド」


「うん!」


 ユグドに、水見式と海底火山の話を簡単にまとめた資料を配ってもらいます。

 公開した方がいいのが、たったの2件です。残りは9件。本当に、今日中に終わるのでしょうか?


 基本属性は、「強化・助勢・放出・変異・特異」の5つに分類していた。


|強化→自らを強化する系統

|助勢→仲間を強化する系統(弱体もできるらしい。強化を剥がすこともできるらしい)

|放出→補助属性を付与して放出する系統

|変異→物質を変える系統

|特異→固有で取得するスキル


 円香さんの表情が変わります。

 多分、最後に書かれていた、”魔物を倒しても、スキルを得られる場合と、得られない場合がある部分”なのでしょう。主殿は検証が必要だとは言っていましたが、法則としては納得ができる内容です。


「茜。これは?」


「主殿の実験と考察した結果です。この属性に、私たちが呼んでいる、土や風や火や水が乗るようです」


「茜嬢。この情報は、公開していいのか?」


「はい。主殿は、自分が知っている程度の情報なので、皆が知っていると思っているようです」


「情報の対価は?」


「それも聞いています。最後でいいですか?」


「わかった。茜嬢の言い方では、金銭ではないのだな?」


「・・・。はい」


 皆が黙ってしまいました。

 金銭で払えるわけがないのです。公開していいのかも解りません。スキルの考え方もですが、スキルの取得方法が解る可能性があるのです。検証は必要だと言っていますが、多分間違ってはいないのでしょう。


「ねぇ茜。この海底火山の話は?」


「憶測だよ。でも、海に魔物が居ないとは誰が決めたの?それに・・・。理屈としては、合っているでしょ?」


「うん」


 千明は、アトスを撫でながら認めてくれました。


「孔明。円香。この情報は、国際的に検証を始めれば・・・」


「そうだな」


 円香さんが私を見ます。

 何を言いたいのかわかるので頷きます。報酬の話だと思います。


 気が付いている人はいると思うので、ギルドでワイズマンに聞けば終了になるかもしれません。知らなければ、ワイズマンが世界中のギルドに検証を依頼するでしょう。


「そうか・・・。確かに、海底火山は盲点だったな」


 蒼さんの呟きが部屋に木霊します。

 これだけの話ですが、大きな情報です。


 海が安全だとは誰が決めたのか解りません。

 円香さんが厳しい表情をしているので、もう一つの危険性に思い至ったのでしょう。魔物が、海底で生まれて・・・。


「茜。魔物は、呼吸をするよな?」


「わかりません。でも、呼吸は必要な生命活動でしょう」


「そうだな。呼吸が出来ない魔物は死ぬのか?」


「多分」


「その時には、ドロップ品はどうなる?」


「わかりません」


「もし、討伐と同等の現象になって、ドロップ品が魔石だった場合には、海の生物が魔石を飲み込んだら?」


「そうですね。可能性の問題ですが、魔物になると思います。かなり、高い可能性で・・・」


「そうだよな・・・」


 海底には魔物の楽園が出来ている可能性があります。


「ねぇ茜。そろそろ、アトスが出していた糸を説明してくれる?」


「え?あっ。アトスに聞けば教えてくれるよ?ね。アトス?」


”みゃみゃぁぁっみにゃ”


「え?本当?嘘?私も?」


「千明。どうした?」


 円香さんが、私ではなく、千明に質問をします。

 よかった。よかった。魔力の放出は、千明に説明をしてもらおう。


 千明が私を睨んできましたが、知らないふりをします。

 多分、千明にもスキルが芽生えたのでしょう。これで、一安心です。千明も無事に、人間を辞め始めています。魔石を作らせたのが良かったのでしょう。


「茜!」「あかねぇぇ」


 円香さんと千明です。

 説明が出来なかったようです。


「簡単に言えば、眷属が目覚めたスキルは、主にも反映されます。あっ取得が可能な場合という条件がつきます」


「え?」


「あと、眷属が持っている魔力も主は使えるから、魔力が増えていると思うよ?」


「は?」


「糸は、魔力で出来ているから、”スキルを持っていれば、誰でもできる”とも言われました」


 意味が解らないという雰囲気です。

 私も同じ感じなのです。


「どういうことだ?」


「解りません。主殿は、”こういう”物として、ギルドでは把握していると思っているようでした」


「わかった。蒼。検証を任せていいか?」


「俺に、人間を辞めろというのか?」


「大丈夫だ。千明がサポートだ。いいな」


 二人は、お互いを見てから頷いた。

 まぁそういう事なのです。


「そうだ。それなら、丁度良かった!スキルの融合を試してください」


「は?融合?」


「はい。簡単に試しますね。クシナ。スサノ」


 揃って、私の肩に乗ります。モフモフです。気持ちがいいです。


”クフォ!”


”クォクォ”


「うん。お願い。弱くていいよ」


 クシナとスサノがスキルを発動します。わかりやすい。火と風です。ユグドを見ると、少しだけ嫌そうな顔をしています。許して欲しいです。


「これが、スキルの融合です」


「・・・」「・・・?」「はぁ?」「・・・。あのな」


 不思議な反応です。

 意味がわかりません。


「説明は?何をしたの?意味がわからない?」


 千明が叫びます。

 私も叫びたかったのですが・・・。


 しょうがないので、スキルの融合を説明します。


「それは・・・」


 孔明さんが呟きます。

 検証が難しいのはわかります。公開してもいいとは思いますが、難しいでしょう。組み合わせが多すぎます。それに、他人にスキルを教える行為は、タブーと思われています。


 難しい事や考えても無駄な物に何時までも関わっていても時間の無駄です。

 次に行きます。次の報告です。


 今日中に終わればいな。

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