第二十一話 報告(2)


「売りましょう。スキルが付与されていない物ですし、ギルドが持っていても意味がありません」


「茜。いいのか?魔石は、鑑定石で使うのではないのか?」


「そうですね。他にも、いろいろ使い道があるのは解っています。でも、アイテムボックスの中にあるものは売っても大丈夫です。数が多いので、全部売れるのか・・・。そちらの方が心配です」


「茜嬢。魔石は、有ればあるだけ売れる。売ってしまっていいのなら、日本国内だけではなく、海外にも欲しがる者は多い。でも、いいのか?残さなくて?」


「大丈夫です」


 私は、両手をテーブルの上に置きます。


 数回しか練習をしていませんが、できるはずです。私は、”やればできる子”なのです。


 ほら、出来た!


 手から、”コロン”と小さな魔石がテーブルに転がります。

 よかった。よかった。無事に成功した。


「あ、あか、茜!な、な、何をした。お前は、い、いつから、手品が得意になった!」


 蒼さんが動揺しています。それが欲しかった反応です。円香さんも、孔明さんも、怖いです。睨まないで欲しい。二人に反応してしまっている。クシナとスサノが怖いです。スキルの発動はしないように言っていますが、怖いです。


「ははは。そうですね。主殿の所で、魔石を産み出す手品を教えてもらいました」


 冗談にしてしまおうかと思ったのですがダメですよね。

 解っています。


「茜!」


 円香さんが、テーブルを叩きます。


「魔石は、スキル持ちなら作ることが出来ます。ただ、コツが必要なので、簡単には出来ないと思います」


「え?」


 ほら、”私を殴りたい”という表情になった。


「すまん。茜嬢。聞き直しで悪いが、今、”スキル持ちなら作れる”と聞こえたが?」


「はい。そういいました。主殿は、”私以外では試したことがない”と言っています。でも、スキルを持っていれば、できるというのは正しいと思います」


「そうか・・・。俺にもできるのか?」


「そうですね。まずは・・・」


 私は、千明を見ます。


「え?私?」


「うん。千明。私の手を持って?」


「え?あっ。うん」


 手を交差するようにして、手を繋ぎます。

 そこから、主殿がしてくれたように、魔力を循環させます。千明の魔力は、主殿と違っています。でも、動けば大丈夫です。


「え?え?え?茜。なんか、動いているよ。気持ち悪い」


 魔力を動かすなんて情報は、ワイズマンも持っていません。

 でも、魔力を身体の中を循環させることは出来るのです。血液とは違うし、なんの物質なのか解りません。


 でも、確かに存在はしているのです。

 不思議な感覚です。


 目に見えない。

 匂いもしない。

 触ることも出来ない。

 でも、存在はしている。


 そんな物質の様なのです。


「少しだけ、我慢して、動いている感覚を覚えて」


 この感覚を掴むまでが難しいのです。

 ふふふ。

 これが出来れば、ほらアトスも千明を見ています。多分、アトスなら解るのでしょう。


 糸を出しています。

 魔力の放出ができています。


 あの魔力の糸を調べれば、どんな部室なのか解るのでしょうか?

 楽しみです。

 そもそも、魔石を調べているのに、いまだに物質の特定ができないのが不思議でしたが、自分で魔石を産み出せるようになって解ってしまいました。

 魔力や魔石は、私たちが知っている科学の埒外にあるのでしょう。


「うん」


「いくよ!」


 一気に魔力を流し込む。

 そうしたら、両手に異物が出来るのが把握できる。


「え?」


 両手に魔石ができる。


「ほら、千明。今度は一人でやってみて!」


 次の報告の為に、魔石があと一つ必要だ。


 千明は素直に手を握って集中する。1分くらいの集中で、小さく「できちゃった」と呟いた。


「ね」


「”ね”じゃない!茜!これが、どれほどの事なのか解っているのか!」


「円香さん。座ってください。これが、”私を殴りたくなる”報告の一つです、ね。殴りたくなるでしょ?」


「なにを・・・。ふぅ・・・。それで?」


「それで?」


「この技術は公開していいのか?」


「あぁ主殿の思惑ですか?」


「そうだ」


「なにも・・・」


「え?」


「この程度の事は、『ギルドでは知っていますよね?』という雰囲気で雑談の中で出てきた話です。公開も何も、既知の情報だと思われています」


「はぁ?」


「あぁ次の報告をしますね」


「まて、まて、茜!」


「いえ、待ちません。魔石関連は、まとめて報告します」


 テーブルの上に転がっている4つの魔石を集めます。

 極小の魔石で、スライムの魔石程度の大きさです。


 四つを手で覆います。

 一つになるように念じます。


 一つになった小さな魔石がテーブルに転がります。

 上手くできた。


「ユグド」


「小を3つでいい?」


「うん」


 ユグドが、小さな魔石を3つテーブルの上に出します。

 もちろん、ユグドは動いていません。正確には、動いているのですが、テーブルが盛り上がって、魔石が産まれたように見えます。


 同じように、魔石小を4つ持って、一つにします。


「ユグド?スキルがついている?」


「うん。あっ、ない方が良かった?それなら、こっち」


 新しく、3つの魔石が出てきます。

 先に出てきた魔石から、新しい魔石に切り替えます。これなら大丈夫だ。


 大きめの魔石ができる。

 オークの魔石くらいの大きさで、100万くらいの価値があるらしい。


 皆の視線が魔石に注がれる。


「茜。お前、人間を辞めたのか?」


「円香さん。酷いですよ。人間ですよ。これも、スキルを持っていれば誰でもできる事ですよ。多分」


 また、質問攻めです。

 でも、まだ報告の続きです。


「ちょっと待ってください。この大きめの魔石ですが・・・。魔力を流しながら、形が変えられます。主殿は器用に指輪を作っていました。私は、まだ丸にすることしかできません」


「指輪?」


「はい」


「それは、スキルがついていてもできるのか?」


「出来ます。本命は、そちらですね」


 円香さんが、大きく息を吐き出します。

 わかります。聞かなければよかったと思っていることでしょう。この技術の取り扱いだけでも、かなりの爆弾です。でも、”まだまだ”です。まだ、序盤です。


「茜嬢。ちなみに、これは?」


「え?もちろん、知っていますよね?レベルです。聞いて後悔してください。取り扱いは、ギルドに一任されています」


 ふふふ。

 その顔が見たかった。


「俺は、疲れた。あとは、孔明と円香に任せていいか?」


「え?蒼さん。疲れたのですか?甘い物でも舐めますか?」


「ん?甘い物があるのか?」


「ありますよ。ユグド、出してあげて、クラッカーがあったから、一緒にだして」


「うん!」


 ユグドが、パタパタと部屋から出ていく、別にキッチンに行く必要はないけど、キッチンに行くようです。


「茜。あの子は?いったい?」


「あぁ後で説明します。部屋の様子にも関係することで、本当に、本当に、本当に、聞いたことを後悔して、頭を抱えて、私を殴りたくなります。だから、最後に報告をおこないたいと思っています」


「はぁ・・・。わかった」


 円香さんが納得してくれました。

 丁度、ユグドが戻ってきました。


 人数分の紅茶も持ってきました。

 確かに、あの蜂蜜を使うのなら、紅茶がいいかもしれない。


 クラッカーも持ってきてくれています。


 皆の前に、新しく入れた紅茶と蜂蜜とクラッカーが置かれます。


「茜嬢。これは?」


「蜂蜜です。紅茶に入れてもいいですし、クラッカーに付けても美味しいと思います」


 孔明さんが、小指に蜂蜜をつけて舐めます。

 目を見開きます。わかります。美味しいですよね。


 孔明さんの様子を見て、皆が舐めます。


「茜嬢。これは?なんだ?」


「なんだと言われても、主殿が売りたいと言ってきた”蜂蜜”です。審査を受けていないので、解らないのですが、食用です。それに、数値的な事はわかりませんが、魔力が回復します」


「茜。この蜂蜜は売るのか?」


「売れたら、売りたいと言っています。主殿の中では、この蜂蜜くらいしか売り物にならないと思っている様子でした。あっ!定期的に売れると思います」


「はぁ?」


「ミツバチ?の魔物が居て、蜂蜜を集めていました」


 ほら、ほら、その顔です。

 まだまだ続きますよ。


 まだ、序の口です。

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