第二十話 報告(1)


 方向性が決まった。

 まずは、ポーションを用意しよう。それから、魔石を持っていってもらう。


 ユグドに相談かな?


 円香さんと孔明さんが、何かを話している。銀の名前が出ていることから、さっきの話なのだろう。私には解らない。そっちは、円香さんと孔明さんに任せてしまおう。


”ユグド”


”なぁに?”


”ポーションを作りたいのだけど、材料は揃っている?”


”うーん。お水が欲しい。出来れば、綺麗なお水がいい!”


”綺麗な水?”


”うん”


 二人を見ると、まだ話をしているけど、報告を終わらせたい。


「円香さん!孔明さん!」


「なんだ?」


「綺麗な水が必要なのですが?」


「綺麗な水?」


「はい。蒸留水とかがいいのでしょうかね?」


「それなら、高純度精製水でいいか?エンチョーに行けば買えると思うぞ?」


「ポーションを作るのに必要なので、買いに行ってきます」


「茜!待て、まずは報告を先にしてくれ、頼む」


「え?そうですね。蒼さんと千明は?」


「そろそろ」


 千明から、スマホに連絡が入った。

 私の部屋に行ったけど、空いていなかったらしい。当たり前だけど、急いで行くと連絡を入れる。蒼さんも一緒にいるようだ。


 円香さんと孔明さんに千明からのメッセージを伝えて、私の部屋に移動する。

 ポーションの作成は、説明が終わってからに決まった。


「茜。本当に、大丈夫なのか?」


「大丈夫です。部屋の状態が、報告の1件です。ちなみに”頭を抱えたくなる”レベルです」


「・・・。まぁ、わかった」


 部屋の前では、アトスを抱いた千明と蒼さんが待っていた。

 蒼さんは、私と円香さんと孔明さんを見て何かを納得した感じがしたので、多分知っていたのでしょう。


 玄関を開けて、部屋に案内します。

 やっぱり、そうなりますよね?


「あ!お姉ちゃん。おかえり!」


「ただいま、ユグド。椅子とテーブルをお願い」


「うん!」


 部屋の中央に、椅子とテーブルが現れます。もちろん、で構成された物です。


 円香さんが私を睨みます。

 皆も、困惑している表情です。話が進みません。


「聞きたいことは理解しているつもりです。だから、お願いです。座ってください。ユグド。飲み物をお願い」


「うん!」


 ユグドが、パタパタと部屋から出てキッチンに移動する。もう何でもありだな。珈琲メーカーの使い方を教えてある。それに、主殿とも繋がっているので、いろいろ知っている。


 椅子に座って、テーブルの上に置かれた珈琲を飲んでから、円香さんが私を睨みます。わかりますよ。早く説明をしろと言いたいのでしょう。理解をしています。気持ちもわかります。

 少しだけ待ってください。後ろで、クロトとラキシがアトスにいろいろ教えています。クシナとスサノも加わっています。ユグド。お願いですから、声に出して説明をしないでください。皆の視線が怖いです。

 お!アトスが、糸が使えたようです。あとは、練習していれば、スキルが芽生えて、千明にもスキルが芽生えるでしょう。

 よかった。よかった。


「茜?アトスが、忍者猫になったの?」


「えぇと、まずは、孔明さん。円香さん。買い取りとして預かった物ですが、どうしましょうか?これが、”頭を抱えたくなる件”の2件目と3件目です」


「茜。まずは、物を見せて欲しい」


「いいですよ。ユグド」


「うん!お姉ちゃん」


 ユグドが、アイテムボックスを持ってきた。

 一つは、魔石が入っていた物で、半分くらいは、ユグドの本体に与えてしまった。これは、黙っているつもりだ。主殿から、私が貰った物だという判断にしてしまおうと思っています。


「うーん。蒼さん。箱を持って、中に手を入れてみてください」


「茜。中は、空・・・。ん?何か変だぞ?」


「大丈夫です。中に手を入れてください」


「あぁ・・・。お?おい!茜。これは、何だ?」


「何だと言われても、”頭を抱えたくなる報告”の一つです」


「これは、誰でも使えるのか?」


「スキルを持っている人なら使えるだろうと、主殿から言われています」


「茜さんや・・・。え?これよりも、酷い報告があるのか?」


「”酷い”?違いますよ。”すばらしい”です。ただ、どこまで報告するのか?どこまで公表するのか考える必要があるだけです」


「おい。蒼!茜!説明をしろ!」


 円香さんは痺れを切らしました。蒼さんが、円香さんにアイテムボックスを渡します。手を入れると、円香さんの顔が変わります。私を睨んでも・・・。そのまま、黙って、孔明さんに渡します。孔明さんも、手を入れてから、首を横に振ります。そして、千明に渡します。千明は、手を入れてから、私を見ます。


「茜。これ・・・」


「うん。主殿は、”アイテムボックス”と呼んでいたよ」


 それから質問の嵐です。

 私が知っていることを、メモを見ながら答えます。


「茜。これは、どうした?」


「え?主殿に貰いました。荷物が多くて大変だからと・・・。ね。”頭を抱えたく”なるでしょ?この箱は6つですよ?6つ!それも、『”作れる”から持っていってください』ですよ。そして、箱の中に、箱が入るとか言っていましたよ?酷いと思いませんか?」


 茜さんと、蒼さんと、孔明さんが、頭を抱えます。


「ねぇ茜。この箱の中身は?」


「主殿が”売却したい”ドロップ品です」


 千明が当たり前のことを聞いてきます。

 話の流れから、それ以外は無いでしょう?


「取り出しは・・・。出来た!」


 千明が、箱からオーガの・・・。多分上位種のオーガの角を取り出しました。

 大きさは、30cmくらいでしょうか?それが、たしか8本。箱の大きさを余裕で越えます。


「え?大きい!ねぇ茜。これってブルーオーガの角らしいけど、上位種?の角が8本もあるの?孔明さん!買い取り金額は?」


 孔明さんが、首を横に振ります。

 私の言っていた意味が解ってくれたようです。


 凄く嬉しいです。”ざまぁ”です。私、一人に押し付けたのですから、これからは、皆で分かち合いましょう。


「茜。本当に、これは”買い取り”なのか?」


「はい。主殿からは、ギルドに預けるので、売れた場合の売却金額を下さいと言われました」


「受諾販売か?」


「はい。ギルドが預かって、売る形です。あっ!アイテムボックスの一つは、私が貰った物ですから、売りませんよ!」


「そうか・・・。孔明!」


「無理だ。売れるわけがない。買い取りも・・・。少しだけなら可能だろうけど、無理だな。これだけの物が出たら、市場が荒れる。ギルドが戦場になるぞ。それに、このアイテムボックス。一つでも、数億でも安いぞ。自衛隊なら喜んで買うぞ。20億くらいなら、5つ全部欲しいと言い出す。そして、資金力がある犯罪組織なら数百億、数千億の値段を付けるぞ」


「え?そんなに?」


「当然だ。まず、この箱の仕組みはわからないが、密輸に使えるだろう?X線とか無意味だろう?重さも無視している。そうなると、金塊の密輸やそれこそ武器が持ち込めない場所への持ち込みも可能だ」


 皆が黙ってしまいます。

 孔明さんの指摘はもっともだし、私も考えました。しかし、無意味なのです。


「孔明さん。千明。確かに、アイテムボックスは価値があるけど、売れませんよ?」


「え?なぜだ?」


「これには設定されていませんが、利用者設定が可能です。それに、スキルを持っていれば、解ってしまいます。あと、今のところ、作れるのは主殿だけです。多分」


 皆が黙って、アイテムボックスを見つめます。

 わかります。欲しいですよね。一人に一つずつあります。


「買い取りですが、不可能だとは伝えてあります。あと、主殿の家には、蔵があって、まだ沢山、アイテムが転がっていました」


「それは・・・」


「本当です。5つのアイテムボックスに入っている物は、一部です。全体の2割にも満たないと思います。大物もありました」


「大物?」


「はい。確認はしませんでしたが、高さ3メートル級の全身骨格です」


 はい。また黙ってしまいました。

 また、二つの報告しか終わっていません。


 今日中に終わるのか不安になってきました。

 話を聞いて後悔する件を先にすれば良かったのかもしれません。


「孔明!」


「なんだ?」


「受託販売は可能か?」


 円香さんの目つきが厳しいです。

 あの組織を使うのですね。確かに、このアイテム類なら、孔明さんが裏切ったとは思わないでしょう。横流しをしていると思うはずです。


「ん?あぁ可能だ」


 孔明さんも、円香さんの狙いがわかったのでしょう。


「目玉は、オーガの角にして、ウルフ系やゴブリン系の素材を受諾販売に踏み切ろう。魔石はどうする?」


 それは、天使湖に居たことが把握できている魔物たちです。そういうことですか・・・。


 円香さんが、私に聞いてきます。

 魔石は、今までなら使い道が有るので、取っておくべきでしたが・・・。


「売りましょう。スキルが付与されていない物ですし、ギルドが持っていても意味がありません」


 皆が不思議そうな表情をします。

 当然ですよね。魔石で、スキルが付与された魔石の回数が復活します。他にも、使い方があるのは解っているのです。


 ふふふ。

 次の報告は・・・。

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