第二十三話 報告(4)


 主殿の正体と、ライの身元調査は、報酬に関わってくるので、最後にしましょう。


 部屋の様子は、聖樹・・・。ユグドに関わってくるので、後回しです。

 主殿の正体に関わることで、主殿の戦力ですが、これも最後に回しましょう。


 魔石へのスキル付与とポーションの説明が先でしょう。

 その前に、休憩ですね。


 私も疲れました。

 皆はもっと疲れていると思います。


「円香さん。一度、休憩にしませんか?」


「あぁそうだな」


 円香さんは、周りを見て休憩を決めました。

 休憩と言っても、情報の精査を行う時間が必要なのでしょう。身体の休憩ではなくて、気分と頭の休憩です。


 円香さんは、冷めきった蜂蜜入りの紅茶を飲み干しました。

 千明は、蜂蜜を塗ったクラッカーを口に入れます。そのあとで、紅茶を飲み干しました。


「茜。まだあるの?これ以上に?」


 千明が私を非難するような目つきで見ながら聞いてきました。


「うん。楽しみにしていて、きっと、聞いて後悔すると思うよ?」


「聞かないという選択肢は?」


 聞かないのはお勧めしません。

 聞いておいた方がいいでしょう。そうしないと、千明はアトスから聞かされることになるでしょう。その時に、慌てても手遅れです。


「でも、聞かないでいると、もっと後悔すると思うよ?」


「・・・。はぁわかった。それで、休憩は?」


「うーん。あっ!」


 ライから連絡が入りました。

 話したいことがあるようです。


「どうした?茜?」


 円香さんが慌てます。

 私も慌てました。


「お姉ちゃん。ライから連絡が来たけどどうする?」


 ユグドが暴露してくれました。

 でも、休憩なので丁度いいです。


「うん。私にも、連絡がきた。ユグド。ライの用事を聞いておいてくれる?」


 ユグドは、部屋から出て、ライから用事を聞いてくれるようです。

 ライとユグドの話は、私にも流れてきます。


 そういうことですか・・・。

 少しだけ考えた方がいいかもしれません。センシティブな内容を含んでいます。


「わかった!」


 休憩時間は、30分と決まった。

 蒼さんと千明は、スキルの合成と魔石を作り出す方法の練習をしている。


 円香さんは、私の資料をブツブツいいながら読み込んでいる。

 孔明さんも、同じように読み込んでいるけど、円香さんと違って、何かを書き込んでいる。あと、アイテムボックスを一つ一つ確認をしている。受託販売が可能なアイテムの確認をしてくれているのだろう。

 横流しに見えるようにしなければならない。


 そして、円香さんのいい笑顔から見れば、横流ししたアイテムや素材がギルドから大量に売りに出されたらどうなるのか?

 円香さんと孔明さんならやりかねない。


 さて、私は・・・。

 ユグドが戻ってきました。話の内容は解っていますが、円香さんに聞かせる意味があるので、声に出して聞きます。


「ライからの連絡は?」


「うん。なんか、さっきの話で確認をしたいみたい?」


 ”さっきの話”で、円香さんが私を見ます。


「確認?ライが?あっ。主殿が、何か確認をしたいの?」


 そこで、次のヒントを出します。

 ライからの質問ではなく、主殿からの確認なのです。円香さんも解ったのでしょう。私を見てから、孔明さんを見ます。


「うん」


「どんな確認?」


「うーん」


 皆の前で聞いてはダメなのは解っています。

 ユグドも解っているので、言葉を濁してくれます。


 ユグドが、孔明さんを見る。

 予定調和ですが、必要な事です。


「孔明さん。手伝ってください」


 孔明さんも解っているのでしょう。

 既に、私を見ています。


 理由は、何でもいいのです。


「ん?何を?」


「カップを片づけます。あと、何か摘まむ物を用意します。休憩にはお菓子が必要だと思うのです」


 部屋から孔明さんを連れ出します。

 ユグドもついてきます。円香さんは、何か察したのでしょう。さりげなく、蒼さんと千明に話しかけて、視線を逸らしてくれました。


 廊下に出れば、中から声は聞こえません。

 これも、後で説明する案件です。


「茜嬢?」


 廊下に出て、すぐに立ち止まったので、不審に思ったのでしょう。廊下に出ただけなら、中まで聞こえてしまいます。廊下に出た意味が殆どありません。不審に思っても、孔明さんは言葉を飲み込むしかありません。


「孔明さん。真子さんのことで、質問です」


 すぐに本題を切り出します。


「あぁ何でも聞いてくれ」


 孔明さんも隠し立てするつもりは無いようです。

 部屋を見てから、大丈夫だと言ってくれます。


「ありがとうございます」


「真子さんは、右足が膝から下が欠損。左足は、足首から先が動かない。腕は傷跡があるけど、怪我は治った。指が欠損と聞きましたが、具体的には?」


 最初に、ギルドで聞いた話を繰り返します。

 主殿が聞きたいのは、傷の規模と欠損の規模です。


 詳しい状況を知りたい様なのです。


「指は、左手の中指と薬指と小指が全損。人差し指が第一関節から先が欠損。親指は動くが、痛いと言っているから、腕の怪我が影響しているかもしれない。あと、顔と肩にも傷がある」


 それは・・・。

 確かに、死んでしまいたくなる。


 高校生の時という話だけど・・・。


「わかりました。ユグド。これだけ?」


 ユグドが、ライ・・・。主殿との話を続けます。

 何を気にしているのかわからないけど、必要なことなのでしょう。


「あと、いつの怪我?」


「”いつ”?」


「えぇーと、何年前?」


「あぁ4年前だ。正確には、3年と10ヶ月前だ」


 4年前?

 そうなると、真子さんは成人している?


 うーん。秘密を知ってしまうのですよね?

 ギルドの職員になれないかな?


「ありがとう。お姉ちゃん。ライがいうには、ポーションでは、全部を治すのは難しいみたい」


「え?」


 孔明さんの表情が絶望に染まる。

 これしか残されていないと思っていた”糸”が切れたのだ。


「でも、スキルを使えば、治る可能性があるみたい」


「え?スキル?」


「うん」


「ユグド殿。そのスキルは?取得は?誰が?」


「ちょっと待って、お姉ちゃん!?」


「孔明さん。少しだけ。本当に、少しだけ落ち着いてください。今更、情報を隠したいしません」


「・・・。すまない。興奮してしまった」


「あのね。説明が難しいから、こっちに来たいらしいけど、いい?」


「ライが?」


「うん」


 孔明さんが頷いている。

 孔明さんは、すぐに来て欲しいと思うでしょう。それに、私もライが来てくれれば、これから説明をする部分では楽ができる可能性が高い。他に、爆弾がなければいいな。無理だろうな。ライだけで来るとは思えない。


「ねぇユグド。主殿も来るの?」


「うん。ライだけでは難しいらしいよ」


「わかった。私の部屋に来るように言って、案内は?」


「大丈夫みたい。キングとクイーンが来るみたい」


「わかった。ベランダに誘導して」


「うん」


 ユグドが、リビングに向って、ベランダに出た。

 誘導はこれで大丈夫。部屋から、クシナとスサノも来たので、大丈夫だろう。


「茜嬢?」


「聞いていたら解ると思いますが、主殿とライが来ます」


「それは、わかったが、キングとクイーンとは?」


「あぁ種類はわかりませんが、タカです」


「もしかして・・・」


「はい。主殿の家族です。わかりやすい繋がりを言えば、眷属ですね」


「あとで、詳しく教えてくれるのだよな?」


「はい。でも、私も全部を聞いたわけではないので、私が聞いた範囲ですよ」


「そうか・・・。聞いた範囲か・・・」


 孔明さんが、遠くを見ています。

 私も、多分、主殿の家で同じような表情をしたのでしょう。


 一端、部屋に戻ることにしました。

 休憩時間中に、主殿とライが到着したら、待っていてもらいましょう。


「ユグド。お願い」


「うん。わかった!」


 主殿も準備があるようで、2時間くらい後だとライから伝言が入った。

 十分だとは思わないけど、十分な時間です。

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