第十二話 杖と付与


 倉庫の中は、お宝で一杯です。

 蒼さんが来ていたら狂喜乱舞していた可能性があります。


 頭陀袋は、ラノベの定番でした。

 こんな物を作らないで欲しかった。便利だから、使うけど・・・。主殿や家族たちからしたら、大した価値がない物だと解る。


 ライは、今は可愛い男児弟属性付きだけど、実際には魔王クラスのスライムだ。スキルで、アイテムボックスの様な物があるらしい。主殿も同じようなスキルを持っているようだ。


「茜さん?」


「ごめんなさい。それで、主殿とライのスキルは同じなのですか?」


 好奇心が抑えられません。好奇心が抑えられるような性格なら、ギルドに就職はしていない。


「簡単に言えば、私のスキルは、低容量で時間調整が可能で、ライは大容量で時間調整が出来ないスキルです。あっライは、ライ同士で共有できます。私は、主人格でしか使えないですね」


 よく解りません。


「時間調整?」


「はい。極端に遅くしたり、早くしたり、あっ止めることもできるようになりました」


 ”ドヤ顔”を決める主殿が凄く可愛い。

 大丈夫。そのスキルも、世界初のスキルです。多分、主殿しか持っていないと思います。


「そうなのですね。あっスキルの付与が出来るのですね」


「すみません。お伝えするのを忘れていました。既にご存じだと思いますが・・・。魔物の素材で作られた物なら、スキルを付与した魔石を融合させられます。魔物の素材の割合が解らないので、間違っているかもしれませんが、私が試した所では、半分以上が魔物の素材なら、魔石の融合が成功します」


 そんな、”知っていますよね”みたいな雰囲気で話すような内容ではないですよ?

 どうりで、人が作った武器に魔石を吸収させてスキルを使えるようにする実験が失敗の連続だった理由が解ってしまいました。


「主殿。ちなみにですけど、アイテムを作るときに、何か特殊なスキルが必要になりますか?」


「どうでしょう?私とライができるので、特殊なスキルは必要ないと思いますよ?」


 お二人ができる事は、世界中を探しても、お二人にしか出来ないことが多いと認識して欲しいです。

 主殿の言葉では、”スキル”は必要ではないと判断が出来ます。


「私でも出来ますか?」


 好奇心が止められません。

 ダメだと解っています。でも、目の前に知っている人が居るのに、聞かないのは愚かな事です。

 それに、主殿は公表を考えてはいないと思いますが、公表した方がいい情報の可能性があります。


「そうですね。丁度、いらない物が有るので、それで試してみますか?」


 落ち着こう。

 倉庫の中で、よく見れば、明りが不自然です。電灯やLEDの明かりではない。なぜ気が付かなかったのか。


「主殿?」


「あっ!茜さん」


「はい?」


「クロトちゃんとラキシちゃんのスキルを魔石に付与してみますか?多分、二人なら大丈夫だと思います」


「え?」


 クロトとラキシが?

 帰ったら、アトスにも教えなければ・・・。千明も私と同じ苦悩を・・・。


「茜さんが持っているスキルだと、魔石に付与したことがないスキルなので、できるのか不安です。茜さんにスキルを覚えてもらうという方法もありますが・・・」


 そういう事ですか・・・。

 私のスキルは、魔石に付与できない可能性があるのですか・・・。


 確かに、魔物鑑定と魔物支配を魔石に付与するのは・・・。ステータス編集が出来たら面白いとは思うけど、何か違う感じがします。

 ギフトは、スキルではないのでダメなのでしょう。


「あっ。クロトかラキシのスキルを試してみましょう。是非。そうしましょう」


 主殿が恐ろしい事を言っているので、全力で回避しなければなりません。

 千明を連れて来るべきでした。それか・・・。護衛という名目で、蒼さんに付き合ってもらえば良かったです。

 蒼さんなら喜んでスキルを貰ったでしょう。


「あははは。そうですね。何を試しましょうか?」


「え?」


「武器は、作っていないので、杖でいいですか?」


「え?あっ。はい」


「何がいいですか?クロトちゃんとラキシちゃんは、”放出系”で、風と水と土を持っていますよね?」


 ”持っていますよね?”


 二匹を見ると、頷いているので、持っているのでしょう。

 猫だったはずの二匹が別の生き物になっているようです。可愛いから許せるのが怖いです。


 そういえば、糸を出していたのを忘れていました。”魔物鑑定”で調べればいいのは、解っているのですが・・・。


「杖ですから・・・。普通に考えれば、ファイアボールとか、ウィンドウカッターとか、ストーンバレットとか・・・。放出系って使い勝手が悪いですよね」


 怖い。怖い。

 そんな杖を持っていたら、確実に前線に・・・。そうか、孔明さんに渡してしまえばいいのか!

 でも、多分・・・。

 私とクロトとラキシは、杖を作り出す機械にさせられてしまう。


 考えろ!

 私!

 脳みそを全力で活用しろ。前線に行かなくて、あまり使い道がなくて、それでいて、私が便利になるような・・・。


 あっ!


「主殿。”こういう杖”は無理ですか?」


 思いついた杖の説明をします。

 簡単に言えば、杖を持つ者の周りを微風で膜を作る。結界ほどの効力はなく、上から下に向かって、微風が・・・。


 花粉対策の杖です。

 日本人なら欲しがる人が多いとは思いますが、費用対効果で購入は無理。それなら、ミニ扇風機を持っていた方が有効。


「できるとは思います。ライ」


「うん。ユグドラシルでは威力が強すぎてダメだね。若木の杖で、サイズがミニの物があったと・・・。これなら、要望通り。魔石は、ゴブリンでも難しいから、ノッグたちのおやつから出た魔石で十分だと思う」


「え?あれだと、スキルの付与が難しくない?貝から出た魔石だよね?」


「クロト殿とラキシ殿なら大丈夫だと思います」


「・・・。そうか、二人で・・・。同時に付与を行うのだね」


「はい」


 二人の会話は、耳に入って言葉の意味はわかりますが、内容の理解が出来ません。不思議な状況です。主殿の家に来てから、同じようなことが何度もあります。

 クロトとラキシは、解っているのか、二人の話をしっかりと聞いて相槌を打っています。あとで、クロトとラキシに聞いたほうがいいかもしれないです。


 私に許可を求められたので、頷いてしまった。


 どうやら、可能になる付与は、小さい魔石なので、二つ程度になるようで、クロトとラキシが持っているスキルで、私が欲しいと思った”助勢系”の”疲れ軽減”のバフ効果を持つスキルです。

 主殿に伝えたら、”スキルを取りますか?”と恐ろしい事を言ったので、全力で首を横に振ります。

 杖を持っていると、バフが掛かるようになる物は作った事がないと言われました。実験で、実験なので、実験だということで、試しましょうと・・・。押し切りました。


 結果。

 私の手元には、割りばしよりも短く、標準的なボールペンよりも長くて太い杖があります。

 二重付与に成功してしまいました。私が作った杖です。魔石は、クロトとラキシが作りました。麦チョコと同じくらいの魔石がコンビニのビニール袋に一杯入っています。買い取りではなく、プレゼントだと言われてしまいました。そして、頭陀袋に・・・。


 あと、杖の造形まで拘らなくても・・・。

 蛇が蒔きついたような造形アスクレピオスの杖です。ヘルメースの杖もありました。どうやら、主殿とライの合作の様です。


 疲れ軽減の効果は、”解らない”と主殿が言っていたけど・・・。杖を持っていると、慢性的な肩こりや眼精疲労が・・・。きっと気のせいです。プラシーボ効果という奴に決まっています。

 風の効果は思った以上に気持ちがいいです。魔石が小さいので、スキルを持っている人が持っていないと、発動しない様です。


 私が、杖の確認をしている間に、主殿とライとクロトとラキシが、頭陀袋の中に、物品を詰め込んでくれています。


 やっぱり、ダメです。

 あの量は無理です。ギルドに持って帰ったら、殺されてしまいます。


「主殿」


「はい?」


「買い取りの物品ですが、種類が多いようなので・・・。先に値段の確定をしませんか?」


「よろしいのですか?茜さんやギルドの皆さんが大変じゃないですか?私たちには、必要が無いものですので・・・」


 持っていって欲しいと言っているのは解るのですが、ここで怯んではダメです。


「すぐに値段が確定する物は・・・。少ないと思いますので、1個ずつ持って帰って、委託販売の形にさせていただけませんか?」


 主殿は、少しだけ考えてから、委託販売を承諾してくれました。

 その時に出された条件が、”ギルドを見てみたい”だったので、私の判断で許可を出しました。


 ふふふ

 皆も私と同じように楽しい情報に触れればいい!きっと楽しい未来が待っている。はずです。きっと・・・。絶対に、怒られる。

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