第十四話 会話


 ”ライ”が私を見つめている。多分・・・。スライムに目があるのか解らないが、”ライ”から視線を感じる。


 まず、このスライムは”ライ”。本体が別に存在している。その本体との繋がりが出来て、はっきりと意思があるのだと言っている。

 そして、スライムに名付けした者が存在している。”ライ”はマスターと呼んでいるが、主人なのだろう。


 それだけではない。

 ”ライ”は、円香さんのスキル構成を見抜いてしまっている。そういうスキルを持っているのか?それとも、スライム特有の能力なのか?


「千明?」


「ん?あっそうね。うん。茜に任せた」


 今の間は、何?

 任せたって、”ずるい”。


「ねぇ”ライ”。ギフトを持っていない人に意思を伝える事は?会話は可能?」


『この個体では無理です。本体に合流すれば可能です』


「え?本体ならできるの?」


『はい』


 本体が有能すぎる。

 それにしても、蟻をスライムに変える?そんなスキルが存在するの?


「本体に、この場所に来てもらう事はできる?」


『解りません』


 ”できる”や”できない”ではなく、解らない?


「え?会話を望んでいるのだよね?」


『はい。こちらから、本体に場所を伝える事が出来ません。ここがどこなのかも解りません。あと、本体はマスターの安全を求めています』


 公園だと言うのは、解っているけど、この公園がどこにあるのか解らない。

 当然だな。私も、急にどこかの公園らしき場所に放置されて、スマホも何も無ければ、場所を伝える事ができない。見える物を伝えて、相手が解ってくれるのを、期待するしかない。


「マスターの安全?スライムなの?」


『禁則事項です』


「え?あっ。内緒ってこと?」


『はい。もうしわけございません』


 謝られた。

 人間を相手にしているようだ。


 千明も、私も任せると言っておきながら、”ライ”に振れている。話は聞いてくれている。


 円香さんに話をするときに、私が覚えていない内容でも捕捉してくれることを期待しよう。

 千明の顔を見ると、話は聞いているけど、衝撃が強すぎるようだ。やはり、説明の時に”ライ”に居てもらう方法を考えた方がいいかもしれない。


「いいよ。貴方たちのマスターの安全が絶対条件なのよね?」


『いえ。違います。安全で無ければ、私たちが安全にします』


 ニュアンスが違う。

 安全にする?私たち?


「え?安全にする?」


『危険だと思える者を排除します』


 排除?

 殺すって事?


「それは、魔物だよね?」


『マスターに危害を加える可能性がある者、”全て”です。家族に危害を加える者も対象です』


 マスターが大事なのは理解した。

 家族云々は解らない。


「家族?」


『禁則事項です』


 うん。

 秘密にされると思った。


「私たちが、”ライ”の所に訪ねるのは?」


『検討します』


「え?」


『マスターと私と家族が、揃って居る所に、ギルドの方々が来る?と、言う解釈で合っていますか?』


 正直に話をしよう。


「え?あっ。うん。私も、ギルドの責任者。榑谷円香さんに確認をしないと・・・。無責任なことは言えない。でも、多分、検討はしてくれると思う」


 私には、ギルドを動かすような権限はない。できるだけ、円香さんに丸投げしたい。でも、”ライ”と会話ができるのが、私か千明しかいない。その千明は、話は聞いているけど、会話は拒否している。アトスを撫でる事で、心の平穏を保っているようだ。


 千明が撫でているアトスも、私の膝の上に居るクロトとラキシも、正体を知られたら大騒ぎになる。聞いたことがないスキルにギフトそれだけでも、ギルドは大騒ぎになる。そのうえで、猫が魔物になる事例が目の前にある。


『解りました。マスターのお住まいは無理です。しかし、マスターが指定される場所なら可能です』


 え?

 マスターの指定する場所?地名や建物が解るの?それとも、もっと違う指定の方法?緯度経度とか?

 これも、円香さんに任せるしかない。


「”ライ”から、何か聞きたい事はないの?」


『私や私たちからでは無いのですが、よろしいですか?』


「何?」


『マスターが、魔石や魔物のドロップ品の買い取りを希望しています』


「え?魔石?誰の?ドロップ品?武器や防具?」


『はい。後、不要なスキルが付与された物や、マスターが作った物です』


「え?作った?何を?」


『禁則事項です』


 そりゃぁそうだけど・・・。


「買い取れない物もあるかもしれません」


『その場合には、私たちが処理します』


「え?処理?」


『スライムは、物を取り込んで、自分のスキルにする能力があります』


「え?あ!」


 魔物鑑定で見た時に大量のスキル!

 でも、魔物を取り込んでもスキルにはならない。これは、実験した記憶が残されている。賢者ワイスマンにも記憶として残されている。


 賢者ワイスマンの情報と違うことが多すぎて、対応を考えなければならない。

 なんで、静岡でこんな重要な事案が発生しているの?


「”ファントム”って知っている?」


『知りません』


 そりゃぁそうだよね。ギルドの中での隠語のような物だし・・・。知っていたら怖い。


「そうだ。知っていたら、教えて欲しいのだけど、動物・・・。この子たちが魔物になってしまっているけど、何か知っている?」


 3匹の猫を指さして聞いてみた。


『スキル付きの魔石を食べさせる。魔石が浸かった水を与え続ける。マスターと同じ力を持つ物が眷属にする』


「え?眷属にする?」


『名を能えて、力の一部を分け与えることです。3体は、眷属です』


「うーん。それは違うかな?名前は、私と千明が付けたから・・・」


『名付けをした時に、力が漏れたような印象は?』


「疲れていたから・・・。よく覚えていないけど・・・。私の近くに居た二匹を抱きかかえて、名前を呼んだのかもしれない」「そうだね。私は、アトスを抱きかかえていた」


 千明が会話に入ってきた。

 当時の様子を思い出す。ケージから出ていた3匹を、私がクロトとラキシを抱きかかえ名前を呼んだ。名前は、千明が候補を出して、3姉妹だからと決めた名前だ。


『その時に、眷属になったのです。”嬉しかった”と言っています。クロト殿に聞いた所、クロト殿たちは、スキル付きの魔石を与えられたそうです』


「え?クロト?本当?」


”にゃ!”


「茜。そんな高級品。どこにあったの?」


 千明は、私がクロトたちに魔石を与えたと思っているようだが、3匹を実験台にするような事はしていない。

 それに、私のお給料では3匹に与える魔石が変えない。それも、”ライ”の話では、スキル付きの魔石だ。そんな魔石、聞いたことがない。


「私は、知らない。買い取りは行っているけど、本部に送付しちゃっている。もしかして、荷物から漏れた物だとしたら・・・」


 あるとしても、普通の魔石だ。

 スキル付きの魔石なんて、賢者ワイスマンにも登録されているか解らない。


 全部、”ライ”の作り話や、私と千明の頭がおかしくなっているとか、”ライ”の幻惑のスキルで夢を見ている。と、言ってもらえた方が信じられる。


『里見茜殿。ラキシが覚えていて、3匹で何かに乗せられて、人が沢山居る所で過ごしている時に、魔石を貰ったと言っています。人が沢山居て、怖い気配も沢山あったと言っています』


「・・・」


「・・・」


 場所と事件に覚えがある。

 ”天使湖魔物氾濫事案”あの時に、キャンピングカーに引き取ったばかりのクロトたちを乗せていた。


「千明?」


「うん。今、茜が考えた場所じゃないかな?人が多くて、怖い気配がしていた?あの時は、外には出していないよね?」


「ううん。ケージからは出さなかったけど・・・。何度か、キャンピングカーからは降ろした」


「でも、魔石には振れないよね?」


「あ!!」


「どうしたの?」


「あのね。ケージをキャンピングカーに戻すときに、小さな石みたいな物を見つけて・・・。すっかり忘れていた」


「まだ持っている?」


「うん。ギルドに戻ればある」


「・・・。それが、魔石だとして、どこからか運ばれてきて、それを偶然、クロトたちが食べて、魔物になってしまった?」


「天使湖の魔物討伐?」


「それしか考えられない。魔石がどこから来たのかは解らないけど・・・」


 もう限界だ。

 円香さんに丸投げしよう。”ライ”にも、ギルドのトップとの話に参加してもらおう。それがいい。そうしよう。

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