第十三話 使い方


 ギフトの使い方は、クロトが教えてくれた。

 猫語が解るようになったわけではないが、私はクロトとラキシが何を言っているのか解るようになった。


 どうやら、こちらに友好的な魔物とは意思が通じるらしい。クロトの上に乗っていたスライムが、アトスの上に移動した。

 アトスの上に乗っていたスライムは、茜を見てから、アトスと何か話をする。


 話をしているのは解るけど、私にはアトスの話は解らない。


「千明?」


 アトスの話を聞いていたのだろうか、千明が少しだけ困った表情をしている。


「茜。スライムの話を、アトスが翻訳?してくれたけど・・・」


 スライムの話を通訳って表現がおかしいけど、アトスを経由してってことは、私も他の魔物と会話ができる?


 聞きたくないけど、聞いたほうがよさそうだ。

 円香さんや、孔明さんや、蒼さんの視線が怖い。


「どうしたの?」


「うん。このスライム君。名前は、”ライ”というのらしいけど、正確には、ここに居たスライムは、全部”ライ”というスライムだと言っていて・・・」


「ちょっと待て!千明。このスライムは、ネームドなのか?!」


「え?円香さん。見えないのですか?」


 円香さんなら、何か見えていたのかと思った。

 通常のスライムが、会話ができるくらいに知能があるとは思えない。でも、このアトスの上に居るスライムは、アトスと話をしている。


 円香さんの圧が怖い。


「あぁ・・・。前に、遭遇したスライムと同じだ。違いは・・・。ない」


「え?」


 今度は、千明がびっくりする。


「ん?」


「いえ、このスライムを・・・。あっ!」


 千明が何か言いかけて、言葉を濁す。


 クロトが、私の足を”テシテシ”する。そして、”にゃ!”と短く鳴いた。


 そうか、スキルを使えって事だね。

 使い方は、魔物を見て、スキルを思い浮かべる。発声すれば、確実に起動できるが、発声しなくても大丈夫だとクロトが教えてくれた。詠唱もあるらしいが、私たちが取得したスキルには詠唱はない。詠唱が無かったのは、純粋によかった。


”魔物鑑定”


名前:ライ(一部)

種族:キメラ・スライム


 他にも取得スキルが並んでいる。


「・・・。魔王?」


「茜!どうした!」


 ふらついた私を、円香さんが支えてくれた。

 ラキシを意識して見てから、スキルを発動する。


名前:ラキシ

種族:シティー・キャット

スキル:隠密 風爪


 ん?


名前:クロト

種族:シティー・キャット

スキル:跳躍 雷爪


 そうか、”ライ”には、スキルはあるが使える状態になっていない?

 スキルらしき物だと判断すればいいのか?

 ラキシとクロトと違うのは、スキルが淡い色で表示されている。スキルが使えないのか?

 あれだけのスキルがあるのは、この目の前に居る”ライ”だけなの?


 それにしても、家の子ラキシとクロトは、シティー・キャットなのか?

 それで、アトスがハウス・キャット。街猫と家猫?意味が解らないけど、種族としては別なのか・・・。


 よくわからない事は、考えない。


「茜!茜!」


「あっ・・・。円香さん。大丈夫です。少しだけ立ち眩みがしただけです」


「本当に大丈夫か?」


「はい。大丈夫です」


 円香さんが支えてくれていたのを思い出して、地面に手をついて立ち上がる。


「茜?」


 千明も近くまで来てくれた。

 どうやら、私と同じように”ライ”を魔物鑑定したようだ。


「円香さん。少しだけ、あと、少しだけ、千明と話をさせてください。その後に、話せることは、説明します」


 円香さんは、私と千明を見てから、足下にクロトとラキシとアトスを見て、最後にスライムを凝視してから頷いてくれた。


「あっ!円香さん!」


 千明がキャンピングカーに戻る途中で思い出したかのように、円香さんに話しかけた。


「なんだ?」


「スライムは、この子の他に、もう一体のスライムが居ますが、攻撃はしないようにお願いします」


「なぜだ!」


「この子が言うには、もう一体は土の中に居て・・・。女王蟻だと言っています」


「千明。茜。後で、説明してくれ・・・」


 円香さんの戸惑は私にも理解ができる。

 このスライムは、”ライ”という名前の”キメラ・スライム”だ。


 円香さんが言っているようにネームドなのも問題だが・・・。それ以上に、”会話が成立するほどの知恵”を持っている事が、問題になってくる。キメラ・スライムという種族は、”知能”が高いのか?それとも、この”ライ”だけなのか?


 キャンピングカーに戻って、茜の正面に座る。クロトとラキシは私の側に、アトスは千明の側に座る。

 ”ライ”は、テーブルの上に乗った。


「え?クロト。本当?」


”にゃ!”


「茜。どうしたの?」


「クロトから、”ライ”に触っていれば、『ギフトの力で会話ができる』と言われた」


「え?」


”みゃみゃ!”


 どうやら、アトスも同じ事を千明に伝えたようだ。


 スライムに手を伸ばして、恐る恐る触る。

 少しだけ冷たい感触が心地よい。手をスライムに溶かされることもなく、スライムのボディを触る事ができた。


「貴方は、”ライ”なのですね?」


『はい』


 え?こんなにはっきりとした意思なの?

 クロトやラキシとは違う。完全に、会話が成り立つレベルだ。


 千明も触っているが、会話の主導権は私が握ることになった。

 ギルドとして、経験が長いのが私だから、一応・・・。先輩として、私の役目だと思う。本当は、千明の方が、インタビューとかしているから、得意だと思うのだけど・・・。

 それにしても、魔物と会話して・・・。スライムから聞き取り調査を行うのは、私たちがギルドで初めてだろう。


「いろいろ質問していい?」


『はい。ですが・・・』


「解っている。女王様には攻撃しない」


『いえ、攻撃しても構わないのですが、暴走してしまうと、困るのは貴方たちだと本体が判断しています』


「え?本体?」


『はい。私の本体は、別に存在しています。女王様も、本体の一部です』


「え?スライムって、全体で一つなの?」


『他のスライムを知らないので、お答えできませんが、私たちは本体から分離した”キメラ・スライム”です。意識を共有できるようになりました。マスターが付けてくれた大切な”名”です』


「・・・。マスター?貴方たちは、元々は蟻だったのよね?」


『私は、そうです。他にも、いろいろな昆虫や動物が居ます。あなた方は、ギルドの方々で合っていますか?』


「え?ギルドを知っているの?それって、魔物の世界では常識なの?」


『いえ、他の魔物は知りません。マスターは、貴方たちの事を、ギルドの人なら、私を通して交渉したいと言っています』


「え?ちょっと待って、理解ができない事が多すぎて・・・」


『失礼しました。貴女のお名前を伺っても?』


「え?私は、里見茜。もう一人は、柚木千明」


『里見さんが、ギルドのリーダーですか?』


「違います。外に居る・・・。覚えているか解らないけど・・・。もう一人の女性がギルド長の榑谷円香さん」


『鑑定と隠蔽と感知系と光系のスキルを持っていた女性ですね。強そうだったので、覚えています』


「え?」「は?」


『鑑定のレベルが低くて、私たちのスキルは見抜けていないと思います。貴方たちの”魔物鑑定”が必要です。あと、私には”魔物支配”は通用しません』


「え?でも、大量に居たスライムが、スキルを使えたの?」


『本体と繋がったのが、私と女王様だけになってしまってからです。その前は、スキルは封印されています。これは、私たちを魔物にした愚か者のレベルが低いためです。あの愚か者は、あろうことか、巣穴全体をスキルの範囲に指定したのです。そして、この領域から出るなと初期の命令をしました』


「ちょっと待って、本当に、本当に、少しだけ待って、情報が・・・。解らないよ」


 もう既に、千明は考えるのを辞めてしまっているようだ。

 ”ライ”に手は置いているが、反対の手で、アトスを撫でている。目線は、アトスに固定している。


 今の話を、私が円香さんと孔明さんと蒼さんにするの?

 無理。絶対に、そのまま精神が壊れたと思われる。私が、円香さんの立場なら、間違いなく、”壊れた”と思う。それか、”ライ”に乗っ取られたと思うだろう。どうやって説明しても、理解はしてくれないだろう。まず、私が”ライ”の話を理解ができない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る