第十五話 規格外


 千明に、円香さんを呼びに行ってもらった。

 もう面倒なので、円香さんに丸投げすることに決めた。


 話は、3つ。

 一つは、眷属化だから、ワインズマンに入力するか確認すればいいだけだ。


『里見茜殿。本体に相談しました』


 急にライが話しかけてきた。


「え?」


『里見茜殿は、説明が出来なくて困っている?違いますか?』


 説明ができない?

 もっと簡単に言えば、ライの言葉を中継しなければならないのに困っている。


「そうね。ライが円香さんと話が出来たらいいとは思っている」


『はい。マスターから、贈り物です』


 ライが少しだけ震えてから、石?魔石を吐き出した?表現として、何か間違っているかもしれないけど、”吐き出した”が正しい。

 続けて、同じ物?を吐き出した。


「これは?」


『マスターからの伝言で、”トランシーバー”だという事です。”デュプレックスになっている”そうです』


「え?」


『それから、会話が外に漏れるのは、マスターとしては”困る”ので、これを使って欲しいそうです』


 ライが、また別の石を吐き出す。

 さっきの二つよりは、少しだけ大きい。


 この3つが魔石だと仮定すると、大きさから、最初の物はゴブリンやコボルトの魔石だろう。今、吐き出された物は、色が付いている事から、上位の魔物かもしれない。


「これは?」


『音を遮断する結界が発動されます。使い方を説明します』


「え?え?え?結界?音を遮断?え?待って、待って、ライ」


『はい?なんでしょうか?』


「まずは、これって魔石で合っている?」


『はい。魔石です。念話の魔石は、ゴブリンの魔石です。結界の魔石は、マスターが作られた物です』


 もうお腹いっぱいです。

 そうだ、念話の使い方だけ教えてもらって、あとは円香さんに・・・。それにしても、円香さんが遅い?外で、待機して居るのなら、数分で入ってくると思ったのに?


「ねぇライ。念話だけ使い方を教えて?」


『はい。使い方は・・・』


 うん。理解した。

 難しくなかった。魔石に振れて、”念話”のスキルを使うと意識したら、使えるようになる。


「念話を使えば、ライに触れていなくても大丈夫?」


『マスターからは、”大丈夫だと思うけど、実験していないから解らない”と言われています』


 実験?


 やってみれば解るって事だ。


 ライから手を離して、念話の魔石に触れる。


『ライ?』


『はい』


 お!できた。凄いな。私が、テレパシーを使えるようになった。

 伝えると思わないと、”伝わらない”と、言われているけど、実際に円香さんと念話で会話した時に試してみないとダメだろう。


 ライのマスターが言っている”実験”は、こういう細かい事を言っているのだろう。


 繋がる距離も解らないし、継続時間も解らない。待機時間とかあるのかな?


 念話の魔石から手を離す。


「ねぇライ。魔物は、念話が使えるの?」


『わかりません。私たちは使えます』


 そうか、他の魔物とも意思疎通ができるのなら、無駄な戦いが避けられると思ったけど・・・。ダメなのか?


 ドアが開けられて、円香さんが入ってきた。

 やっと来てくれた。ライの話は、私には重すぎる。


 ライを、私の膝の上に移動させた。

 手で無くても触れていれば会話が通じる。膝の上なら自然と触れていられる。


 円香さんが、少しだけ、本当に少しだけ緊張した表情で、私の前に座る。私も、緊張してきた。ギルドの受付に居た時には、こんなに緊張しなかった。ギルドの面接の時にも・・・。


「茜。大体の話は、千明から聞いた」


 円香さんが、千明から聞いた話を、確認してくる。

 概ね間違っていない。千明の解釈が間違っていないのか、私の解釈が違うのか、微妙な部分もあったが、円香さんの質問に答える形で、曖昧な部分が無くなっていく、ライから念話で捕捉が告げられる。

 しかし、ライが”禁則事項”だと言っている部分も多いために、話が進まない。


「円香さん。詳しい事情が気になるのは解りますが、もっと重要な事が・・・」


「ん?」


「まず、眷属化・・・。動物が魔物になってしまう件ですが・・・」


・スキル付きの魔石を食べさせる

・魔石が浸かった水を与え続ける

・眷属化のスキルが存在している


 3つ目は、動物が魔物になる方法ではないが、”眷属化”なるスキルが存在していることになる。私は、聞いたことがない。ワインズマンに問い合わせるのは、何か憚られて行っていない。


「3つ目は聞かなかったことにしよう。千明にも、口止めをしておこう」


「わかりました。そうなると、クロトとラキシとアトスが、魔物になったのは秘密にしておくのですね」


「そうだ。お前たちが授かったスキルも秘密だ。インパクトが強すぎる。与える影響を考えると、公開する気にならない」


 私も同じ考えだ。

 だから、ワインズマンにも訪ねていない。データの登録をしなくていいのは、気持ちが楽になる。


「千明には?」


「口止めはした。今、孔明と蒼に簡単に事情を話している。ライとか言ったな(彼で合っているのか?彼でいいか・・・)彼の同輩が、まだいるらしいから、孔明と蒼に協力させて、探してもらっている。アトスも参加している」


 アトスと言われてから、周りを見たら、確かにクロトとラキシしか見当たらない。アトスは、千明に着いて行ったのだろう。


”にゃ!”


 クロトが、私の考えを肯定するように鳴いた。

 足下にいたはずなのに、いつの間にか、私の両脇を守るように、クロトとラキシが座っている。


 順番に、頭を撫でてあげると、嬉しそうに身体を押し付けて来る。


「わかりました」


 これで、問題の一つが解決?した。私的には、円香さんに預けた形になっている。これで、解決だ。


「次が、ライの本体とマスターと呼ばれる人物?との、会談ですが・・・」


「訪ねていくのが大丈夫なら、どこかで待ち合わせをして、合うのでも大丈夫なのか?」


 そうか、ギルドのメンバーが訪ねるにしても、安全だとは限らない。

 ライの感じから、マスターは理知的な存在だと思える。ギルドのメンバーだと解っていて、危害を加えるようなことはしないだろう。


 それでも、円香さんが警戒しているのは、ライと話が出来ていないからだろう。話せば解るとは言わないけど、話が、会話が出来たら、関係は一歩進めることができる。


 さきほどのライとの会話から、待ち合わせも可能だとは思うけど、ライたちの安全は、私たちギルドが保証をしなければならない。人が多い場所はダメだ。円香さんが”待ち合わせ”に”どこ”を考えているのか解らないけど、安全が確保出来て、人が少ない・・・。殆ど、居ない場所なんてあるの?またカラオケ?でも、カラオケはどうしても入口を通る必要がある。ライだけなら、カバンの中に入れれば、大丈夫だろうけど・・・。


 待ち合わせ場所を考える必要はあるが、待ち合わせは案外わるくない。かも。だと、いいな。


『里見茜殿。円香殿に、念話の魔石を渡してください』


「あっ!そうだった!」


「円香さん」


「なんだ?まだ隠し事か?」


「隠し事というか、千明が呼びに言っていている最中に、新たに加わった事です」


「それは、テーブルの上に転がっている3つの石?・・・。・・・。魔石か?」


 やはり、円香さんのスキルなら解るのだろう。

 二つは、魔石だと解るだろうけど、一つは綺麗に形が作られていて、魔石には見えない。よくできた宝石だと言われても信じてしまうかもしれない。


「そうです。小さい魔石には、”念話”スキルが付与されています。大きい方は試していませんが、ライからの説明では”音を遮断する結界”スキルが付与されているようです。ここでの話を外部に漏らしたくないようなら、”結界”スキルで音を遮断できるので使って欲しいそうです。ライのマスターが作った魔石だと説明を受けました」


「はぁ?」


 恐る恐る円香さんの表情を見ると、唖然とした表情の中に、何かを考えている表情が隠されているように、見える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る