第2話 サル、罠
「もってきたか?忘れ物はないよな?」とオレはこれからのことを興奮しているのか、それとも怖がっているのか、荒い息遣いでまくしたてる様に持ち物を確認した。
地図 ペン 網 バナナ リンゴ
「これだけ? 他には?」
「まだ何かいるの?エサと網があれば十分だって言ってなかったっけ?」
「網を破かれたら逃げられるだろう。逃げないようにロープが必要」
そっか!とぽんと手を叩いて、ロープになりそうなものを探してきた。細身のロープでちょっと古ぼけているが、まだ十分使えそうだ。無いよりはましかと思い荷物をリュックに詰め込み自転車に飛び乗った。
荷物を抱え出没場所の近くまで自転車で行ってみると、ドラッグストアの付近には八百屋や飲食店が立ち並び、美味しそうなスイカや桃が出ていた。オレがサルならこの周辺を狙うだろうなと、つばをごくんと飲み込んだ。
ドラッグストアの周辺をぐるっと歩き回って調査したが、サルがいたような痕跡がない。食い散らかしたようなあともないと、ウロウロしていると八百屋のおじさんが網を持ったオレたちを見つけて声をかけてきた。
「おう何か探してんの?もしかしてニュースのサルを探してるのか?なんてな」とおじさんは笑ったが、オレたちが勢いよく返事をするとおじさんはちょっとびっくりしたような顔をした。おじさんにサルを捕まえたいと話をすると一昨日ぐらいまでは八百屋やドラッグストア周辺で見かけたが、昨日、今日とまったく見かけないそうだ。
サルが出没すると、警察やテレビカメラがこぞってサルを追いかけ、あっちこっちと街中を駆け巡っていたそうだ。おじさんの店からは一瞬の隙にバナナを沢山とられてしまったらしい。
「すでに君たちの方に行ってるんじゃないか?駅の近くに大きな公園あるだろう。あそこは木々も多いし、近くに住宅街もある。飲食店もあるからサルが食べるには困らないかもな」おじさんはあれこれとサルについて話をしてくれた。
おじさんにお礼を言って、オレたちは駅近の公園に向かって自転車を走らせた。公園につくと小さい子供を連れた人達がぽつぽつといた。さっそく、公園内を捜査開始といこうか。
公園の草木はまだ生い茂っていて、小さな子供が隠れてしまうと見つけるのは難しいくらい草はボーボーで木の葉っぱはしっかりついている。サルが木の上に隠れているときっとわからないだろう。
「どうしようか」
「探すが難しいなら罠でおびき寄せるのはどうだろう?せっかくバナナとリンゴを持ってきているし」
「さっきの八百屋のおじさんもバナナを沢山とられたって言っていたし」
サルも好物には目がないのだろうと、リュックからバナナとリンゴを取り出した。一度に二つも罠の場所に置くのか?他の場所に置いてもいいんじゃないか、と一瞬ためらってしまった。八百屋のおじさんの話を思い出し、近くに家も沢山あるからそっちの方にバナナを罠としてしかけよう。
公園の一番大きな木の枝によじ登りリンゴを紐でくくりつけた。サルがリンゴに手を伸ばし、リンゴを掴むとロープがきゅっと手首を締めて捕まえる仕組みだ。しばらく離れた場所から見ていたがサルが来る気配がない。
しかたないので、近くの住宅街に移動しサルがいないか自転車でウロウロしていると、後ろの方から声がした。
「こんなところで何やってるの?網をもって魚でも捕まえるの?」
振り返るとクラスメイトの女子が立っていた。クラスの中心的な存在でいつも明るくハキハキとしている。男子とはいつも言い合いになっているが負けたところは見たことがない。オレはそんな女子がちょっと苦手だ。
「別に」
サルの捕獲作戦は秘密だから言えない。
「なにそれ。網を持って自転車でウロウロしているのに別にって意味わかんない」
「危険な仕事だから巻き込めないんだ」
サルに噛まれたら大変だ。流血事件になってしまう。
「…ふーん、別にいいけど。私は近くにおじいちゃん家があるから遊びに来ただけだし」
女子はぷいっとそっぽを向いて歩き出した。
「ちょっと待った!この辺におじいちゃん家があるの⁉」
オレたちがサルを探して自転車で来た事を話したら、女子は一瞬驚いた顔をし声を上げて笑いだした。女子のデリカシーのない態度にムッとし、耳の先まで高熱に焼かれたように感じた。
「これだから女子はわかっていない…」ボソッと言うと、「ごめんごめん」と誤ってきた。
「サル捕まえるの、私も手伝わせて!」
強引に女子のおじいちゃんちに連れていかれた。裏には木が数本生えており、サルが飛び乗ってゆっくり休憩できそうな枝の長さと幹の太さだった。
「で、どうやって捕まえるの?」
「エサを食べようとしたらロープで手を捕まえる。さっき公園の木の上にリンゴで罠をしかけてきた」
「へー。この辺でも罠をしかけるつもりだった?」
「サルが出そうな場所を調査してて、この辺の木にエサと罠をしかけようと思った」
「エサはまだあるの? リンゴ?」
「いや…バナナ…」
「十分でしょ‼わたしもバナナ好きだよ」
「はあ」
いつの間にか女子がリードし、おじいちゃん家の木にサルのエサと罠をしかけ始めた。サルを捕まえるチャンスを無駄にしたくないのでとりあえず女子に従った。
「バナナ取って」
「はい」
「ロープ取って」
「はい」
手際よくテキパキとロープでバナナを結び、オレが教えたエサを取ったら手が引っかかる方法も難なく付くてしまった。あんなに練習したのに悔しい。
「うん、これでヨシ!」と女子は木から降りてきた。
「今日か明日あたり来るといいね。サルが捕まっていたらおじいちゃんに連絡してもらうね」
「わかった」
オレたちは女子の勢いに押されその日はそのまま帰宅した。
翌日、学校にいくと女子グループがさわいでいた。
「出た出た!ついにサルがこっちの街にも来たらしいよ‼」
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