サル、夏の終わり
Haige
第1話 サル、夏の日
「ねえねえ知ってる?隣町にサルが出たらしいよ」
「えっそうなの? どこから来たんだろう」
「ママ達が話していたけど、山から獲物を探して街にきたんだって」
「見てみたいなあ」
「嚙まれたら怖いから止めときなよ。それよりさあ~…」
学校の帰り道、女子たちが山から街に降りてきたサルについて話していた。女子たちグループのすぐ後ろを歩いていた俺たちは、とっておきの情報を手に入れたと思った。
「おい、今の聞いた?」
「聞いた」
「サルが出た!」
楽しい夏休みがあっという間に終わり、俺たちは新学期にちょっと退屈していた。休みの間は友達とサッカーとゲーム三昧だったし、土日にはプールや遊園地に連れて行ってもらえてサイコーの夏休みだった。
新学期には学校に持っていくものも多いし、しばらく面白そうな行事もないし、先生たちも忙しそうでなんとなく毎日が過ぎていく感じだった。だからオレは夏休みの楽しかったことを思い出すとちょっとセンチメンタルになるし、ちょっと退屈で暇な毎日が嫌だった。
そんな中、女子たちが話していたサルの目撃情報は俺たちにとっては刺激的なビッグニュースだった。俺たちはランドセルを家に置いて公園に集合した。
「サルが街にいるって変なの。動物園か山にしかいないと思った」
「食料を求めて山から街に降りてくるらしいよ」
「隣町にいたらしいからそろそろ俺たちの街にもくるかも?罠をしかけるか?」
”罠をしかける” 図鑑で読んだことがある。ハンターがジャングルで罠をしかけて獲物を捕まえる。草や木枝を使って落とし穴やトラップをしかけるんだ。もしかして俺たちにもできるんじゃないか。
「それってサルを捕まえるってことか。網がいるかな。いや檻か?」
「サルってデカいんじゃないの?」
「やだよ怖いよ」
どうやって捕まえるのか興味が湧いたので、翌日の昼休み学校のパソコンルームで情報収集をした。
インターネットで『さる 町』と入力して検索すると、日本中でサルが出没したというニュースがいくも見つかった。とある街では、野生のサルが出没し田畑の食べ物が荒らされたり、家の中に入ってきたり、居座ったりしているらしい。警察が出動して捕まえようとするが、すばしっこくて捕まえることが難しいようだ。捕獲しようとしてサルに噛まれた警察官もいるらしい。
ニュース記事によると、夏の終わりごろになるとサルがえさを求めて街に出没することがあるらしい。しかも繁殖時期も重なっていつも以上に攻撃的になっているから相当な注意が必要だ。
注意 サルを見つけたらやってはいけないこと
・えさを与えない
・目をみつめない
・大きな声を出さない
・驚かさない
・すぐ逃げる
動物園で見たサルの群れはいつもダラダラと毛づくろいをしてて、食事の時間だけ活発だった記憶がある。雑食だからなんでも食べるらしい。噛まれたがひとたまりもなさそうだ。
農家では電気柵を作ったり、カカシを置いたりしているようだけど、サルも学習して人間が作ったものに慣れて効き目がなくなるらしい。捕まえようとしても大人が数人がかりで、大きな網を以て追いかけているからちょっと笑ってしまった。まるでオレたちの昆虫採集みたいだなって。
ニュース記事を一通り読んでわかったことは、この時期のサルは狂暴だ。噛まれたらひとたまりもない。すばしっこいから捕まえるのも困難だ。あと、サルを捕まえようとすることが親にバレたら絶対止められる。
どうやったらオレたちだけでサルを捕まえられるか考えた。話をしていた女子たちに相談してみるか?いや、絶対先生にチクってばれるにきまっている。
オレたちはぶつぶつ言いながら歩いていると、ふと町内会の掲示板が目に入った。
掲示板のお知らせには防災訓練の日程やごみ捨ての注意、そしてその隣にはサルが大きく口を開けバナナを持って威嚇している写真のお知らせが貼ってあった。
『隣街でサルが出没しています!移動してくる可能性がありますので注意してください』
ネットで読んだエサを上げるな、目をみつめるな、大声だすな、驚かすな、すぐ立ち去れとと同じ注意内容だった。近々サルがオレたちの街に来るかもしれないと確信した。
すぐに地図とペンを用意し、今日サルがどこにいるのかニュースをチェックした。
「昨日は隣町にある大きなドラッグストア近くにいたんだって。その前はドラッグストアから少し離れた住宅地の屋根にいたらしいよ」
「昨日あのドラッグストア近くにいたなら、もうこっちの街に来ているかもしれないな。もしかしたら反対側の街に行った可能性もある」
「こっちで木が多い場所は学校の近くか…駅チカの公園は緑も多いね」
ニュースの出没情報を頼りに地図に×(バツ)を付け、そして今後の出没予想先を丸印でマークしていった。これまでの行動範囲はわかった。今度はどうやって捕まえるかを考えるんだ。
見上げれば入道雲は空高く、空は青いままだ。オレたちの夏はまだ終わっちゃいない。
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