第3章 Ⅴ
「そこで余を見ているのは誰だ」
聞く者が聞けば心の臓が鼓動を刻むことを止めるような冷ややかな声で、冥王ガイストモアは玉座の上から無人のはずの広間の片隅を見つめ、そう問うた。
「気付いていたのか」
その部屋の片隅には姿は見えないが、ガイストモアに似た冷徹な、だがゆっくりとした低い声が、重く広間に反響する。
「何者だ?」
より冷ややかな問いが響く。
「死を纏う者」
余と同じではないか、とガイストモアは呟く。
「しかして余に何用だ?」
言いながら、ガイストモアはその手に持つ杖を床に突き立てる。
カツン、と冷たい音が響く。
「この世界の死を司る者の顔を見に」
まるで軽口を叩くかのような冷笑と共に、その言葉はガイストモアに突きつけられる。
「ならば知っているはずだ、それが余だけではないことを」
ガイストモアはフン、と鼻を鳴らす。
「もちろんだ。だが、私が求めているのは貴様だ」
再び冷笑。
「求めている?余の何をだ?」
ガイストモアの問いにその人物はようやく姿を現した。
真深くフードを被り、床まで引きずる長いローブに身を包んだその細身の人物は、己の背丈を上回る巨大な鎌を持っていた。
そして何より目を引くのは、その背に生えた漆黒の翼。
よく見ると、頭上には漆黒の輪が浮かんでいる。
「ほう……。
貴様も神格か。
しかも、この世界の者ではないな?」
「それがわかるのならば、貴様の身に起こったことも理解はできるはずだ」
またも冷笑。
「即ち、恩を返せと余に命ずるのか?」
「いや、逆だ。実体を持たぬ私の為に、助力を乞いに来た」
よくみれば、その人物の姿は薄っすらと透けていた。
「あれだけの魔力を持っていたならば、実体がなくとも何事かは成せたであろう?
なのになぜ、わざわざ余を復活させ、あまつさえ余の尽力を乞うような真似をする?」
しかもこの領域ならば、死を纏う者なら何の不自由もないはずだろう、とガイストモアは続ける。
「私では無理なのだ、様々な意味においてな。
なればこそ、この世界で最もその役目に相応しいものに助力を乞うのは当然であろう」
魂の本意を見抜く事ができるガイストモアにはわかる。この者の言葉に嘘はない。
何かを隠している可能性は捨てきれないが、少なくとも今の言葉は本心である。
「そうか、ならば力を貸そう。そなたの名は?」
「我が名は……」
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