第3章  4

 その夜。


 私はパジャマに着替えて就寝前の軽いストレッチを行っていた。


 パジャマは、元はゲームのイベントの外見変更アイテムでもらったものなのだが、こちらの世界に来た際に通常の衣服に変更されたようで、鑑定結果はあくまで普通のパジャマだった。

 気に入っていたので、これは嬉しい変更だった。


 今日の訓練の収穫は非常に大きかった。


 訓練はあの後も数時間続き、三人には様々な形で協力してもらった。


 さすがに奥義までは確認できなかった(死人が出る)が、棒術で使えるスキルとそれぞれの属性付与についてはほぼ確認できた。


 中でも、これまでは特定のモーションでしか発動できなかった技が普通の技と同じ体勢から繰り出されるようになっていたり、ダッシュ技の距離制限がなくなっていたりと現実世界に沿ったものに変更されている点はありがたかった。

 また、今までは再発動にクールタイムが必要だった技の大半は、クールタイムそのものが無くなる代わりに精神力を消費するようになっていた。

 連発したところで覚醒の長時間使用のような精神力の消耗は無いが、気を付けるに越したことはない。


 反面、ゲームだからこそできていたような派手な能力は、例えばエフェクトがなくなっていたり、効果範囲が限定されるようになっていた。

 それと、ゲームで多用していた連撃後の短距離ワープ技が使えなくなっていたのは、現実世界と考えると仕方がないのだろうが残念だった。

 そこはダッシュ技で置き換えるほかないだろう。


 それと、ヴォイド(とシスト、ガイナス)の実力を測れたのは大きな収穫だった。

 どうやら彼らの実力を私は低く見積もっていたようで、技量、身体能力共に予想以上だった。

 どうもステータスという数字に縛られていたようで、実力は数字だけでは測れない、と学ぶことができた。

 しかも、私との訓練でも実力を伸ばしたようで、最初の方と最後の方では動きも読みもかなり違っていた。


 明日は私の無手の訓練をお願いしているが、これもまた楽しみである。


 『神の視点』の使い方にも随分となれた。


 クォータービューに視点が変わることで細かな点を見逃すかと思いきや、そう言う心配は一切なく、相手の微細な動きや息遣い、視線視点などはきちんと伝わるし、普段の一人称視点とほぼ変わらない。

 極論、どこに目がついてるんだ?と思われてもおかしくないくらい、視界が異常に広くなった。

 ほぼ三六〇度全周囲だ。


 これは、サブとして使われている実際の視界も脳できちんと処理された上で、メインのクォータービューと統合されている結果なんだと思う。

 なるほど、確かに『神の視点』と言っても言い過ぎでは無い。


 それと、距離感についても同様だ。

 全周囲をある程度の広さで見られることの利点は多い。

 表示範囲外の情報を得る事こそ難しくなるが、飛んでくる矢や魔術程度ならあの視界内からでも反応はできる。

 気門開放時なら飛んでくる鉄砲の弾を避けることも、また覚醒時ならそれを指でつまむことすら可能だろう。


 また、自分の動きを第三者視点で見られる、ということは動きの無駄を知るのにも有効だった。

 つまり、自分の動き方の反省にも繋がるのだ。

 自分で見ていてまだまだ甘さが残っているということは、磨けばますます技が冴えるというものだ。

 これは大きな発見だった。


 それと、地味に役立っているのが自分のステータスゲージが表示されていることと、相手の簡易ステータスが表示されている点だろう。

 前者は特に精神力の増減を把握するのに役立っているし、後者は相手の状態異常を知るうえで役立った。

 毒属性や冷気属性の技を出せば、寸止めでも状態異常はどうしても発生してしまう。

 そこで状態異常の回復術をすかさず使う事で、相手への被害を最小限に抑えられた。

 こういう行動を無駄なく取れることは、ひいては負傷率、生存率を上げることに他ならない。

 自分はヒーラーではなくアタッカーが本職だが、できるならばやれて得することはあれど、損することはない。

 今日の訓練で攻撃や回避の合間を縫っての発動も難なくこなせる事がわかった以上、積極的に使っていくべきだと思う。


 ステータスが数字ではなくゲージで表示されている事の意味も大きい。

 これが数字ならば、先ほども言った通り数字に縛られた考え方しかできなくなるが、ゲージならば単純に数字の割合を視覚情報として見られるので、咄嗟の判断にも役立つ。

 戦闘時などという切羽詰まった状態で、細かい数字など追えたものじゃない。

 判断できるかどうかの方がよっぽど大事だと思う。

 やはり視覚情報というのは大事だな、と改めて認識した。


 それと、一番の問題であった気門開放酔いは全くなかった。

 自分の決断が間違っていなかった、ということは何よりうれしい。

 自分自身の自信にもつながる。


 これから先、何度も決断の瞬間は訪れるだろう。

 そしてその都度、私は大きな選択をしていかなければならない。

 私の両の肩には、今、平和を求める多くの命に対する責任が覆いかぶさっている。

 それを救うためには、他の誰でもない、私が戦っていかねばならないのだ。


 そのためにこの能力を得、このギフトを授かった。


 私はこの事実を、改めてしかと受け止めなければならないのだ。


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